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Avalon Rain ~終焉の雨と彼女の願い~  作者: 音無 一九三
第二章【襲来のイクリプシアと動き出す歯車】
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13 問題児達を護る者達

「えっ?」


 ヴァンの言葉に、今日だけで何度目になるか、アルフが驚きの声をあげた。


「え、どうしてオレが? オレなんか、ただの一介の騎士じゃないですか」


 素でわからないというようなアルフの態度に、眉間に深い皺を寄せるヴァン。

 そして、頭が痛くなったのか、右手でこめかみを揉み解すようにしながら、ため息混じりにヴァンは言った。



「寝ぼけているのかお前は……。どの口で言っていやがる。オレすらも遥かに越えるその馬鹿げた魔力量、自身で把握出来ない程に大容量な収納魔法、常識外の範囲をカバーする魔力感知。これのどこが一介の騎士(・・・・・)だ?」


「あぅ……」


「加えて、あのマキナ・アイゼントの愛弟子──アイゼント流刀剣術の使い手。不完全とはいえ、少なくとも暴発もせずにあの”バースト・レイ”を、大規模、それも長時間に渡って攻撃出来るようなものをぶっ放すお前のどこが(・・・)一介の騎士なんだ?」


「……」


「そもそもな、アイゼント流刀剣術を習う──つまり、マキナ殿の弟子になるということは、そうホイホイと出来ることではない。お前も知っての通り、アイゼント流刀剣術は、"バースト・レイ"を使うための修行として考案された剣技だ。だが、その修行のための技でさえ、並の騎士には垂涎物なんだ。それらを習うためには、まず相当量の魔力量がある、ということが大前提。つまり、"バースト・レイ"に至る可能性が無ければ、弟子になどなれんのだ。そして、縦しんば弟子になったとて、肝心の"バースト・レイ"まで教授して貰える者は、本当に極一部だ。今まで、マキナ殿があれを教えたことがある者は、お前を含めて僅か3人だ」


「……そうなん…ですか…」


「……ライオがお前に反発するのも、これによる所も多分にあるだろうな」


 ライオ・クォンタム。レーヴェティア西騎士団団長であるフィール・クォンタムの双子の弟。

 グレイの腐れ縁でもあり、そして何かにつけてアルフを目の敵にしている青年だ。


 Aランクパーティの『紅蓮の炎』のリーダーであり、アルフと同じく、アイゼント流刀剣術の門下生でもある。


 そのライオがアルフにつんけんした態度を取るのは、ロッティのことが中心なのだと思っていたが……。


(そりゃあ……そうだわなぁ。オレは曲がりなりにも教授して貰ってるのに、ライオはそうか、教えられていないのか……)



 ライオはアルフの兄弟子に当たる。

 そりゃあ、反感も買うだろう。弟分のアルフが教わっているのに、自分はそれについて、まったく示されていないのだから。


 それはつまり、『アルフに劣っている』と言われているようなものだ。

 Cランクに甘んじているアルフに、Aランクである筈の自分が。



 その癖、当の本人は自分が淡い恋心を抱いているロッティといつも一緒に、そしてこれ見よがしに毎日毎日、ベタベタベタベタ……。



 これで苛立つなという方が無理な話だ。



「さて、もう一度訊く。で、お前のどこが(・・・)一介の騎士なんだ?」


 言葉が無い。あるわけ無い。

 冷静にツッコミを入れられると、そうだ、どこからどう見ても、普通じゃなかった。



 リィルが加わったことで、広範囲に渡る魔力感知のお株は奪われたが、それでもアルフ魔力感知は、潜在範囲──意識せずとも常時発動されている状態の範囲──で半径20メートル、最大限に広げた展開範囲で50メートルだ。


 普通は、最大限に展開して20メートル行けば、飛び抜けて優秀とされるレベルだ。



 そして、何気なく使っている収納魔法。

 一般には6畳程度の大きさで優れているとされるそれは、彼にとっては未だに限界不明と来ている。



 極めつけは、アイゼント流刀剣術の奥義である”バースト・レイ”から垣間見ることが出来る、その異常な魔力量。

 もしアルフが結界魔法を使えたら、彼1人で長時間の展開が可能かもしれない。


 そもそも、アイゼント流刀剣術を習っている時点で、それはあのマキナ・アイゼントに認められた者だということだ。

 それを習うために、わざわざレーヴェティアにやって来る者さえいるのだ。



 そう、冷静に考えれば、どこを取っても普通じゃなかった。



「よくわかっていないようだから、ハッキリと言っておく。お前等は現在、Cランクに該当するが、それはお前等がしょっちゅう問題を起こすがために、功績を問題が相殺しての結果──というのは、飽くまで表向きの理由だ」


「表向き…?」


 これまで、アルフ達は問題を起こしまくってきた。

 それは、彼等が築き上げた借金を見ても明白だった。


 だから、それが功績を掻き消してしまっていると言われてきたし、彼等自身も、そのことに納得していた。


 だが、ヴァンの言葉の通りなら、本当の理由は別にある、ということになる。


 俄には信じがたいことだった。



「仮に実力だけで言えば、お前等はとっくにAランクに相当している。つまりそれは、お前等はヴァスタードに派遣されていてもおかしくないレベルだ、ということだ。特に大収納を持つお前がいる以上、そんじょそこらのAランクよりも、比べるのも烏滸がましいくらいに価値が高い」


「えっ……それは流石に大袈裟じゃ……」


「大袈裟でも何でもない。レーヴェティアには強い騎士が多い。そして、お前の身近には、オレやラーノルドがいるからな……。過小評価になるのも仕方がないが、これは確固足る事実だ。レーヴェティア騎士団は、お前等をかなり高く評価している」


「……知らなかった」


「それはそうだろう。そのための、表向きの理由(・・・・・・)なのだからな」


「……えっと、じゃあ本当の理由っていうのは…」


「……わからないか?」


 ヴァンはそう言って、アルフの瞳をジッと見つめる。

 だが、その顔には、真剣ながらも、どこか温かさを感じさせる色が浮かんでいた。


「お前等はな、護られているんだよ。ラーノルドに」


「叔父さん…に?」


 確かに、騎士のランクを承認するのは、騎士団の長である騎士団長の仕事だ。


 レーヴェティアには、全部で5つの騎士団が存在する。

 街の東西南北にそれぞれ1つずつ。そして、街の中央に1つ。


 アルフ達『勝利の御旗(フューリアス)』は、街の中央にある、レーヴェティア騎士団本部の所属である。


 言うまでもなく、レーヴェティア騎士団本部の長は、アルフの叔父であるラーノルド。


 そして本部の騎士団長は、これら5つの騎士団を統べる、この街の最高権力者である。



 そのラーノルドが、アルフ達を護るために、Cランクに留めている──?


 いまいちピンと来ない様子のアルフに、ヴァンはフッと息を吐き出した。



「アルフ。お前1人取っても、お釣りが来るだけ異常なんだ。それに付随して、例えばグレイ。あいつもあいつで異常だろう?」


「グレイ……。ああ、確かにそう、ですね…」


 グレイ・ヴェルタジオ。身体強化と炎属性の魔法を得意とするヴェルタジオ家に生まれながら、遠距離魔法の素養は皆無。


 一度身体から離れた魔力は、あっという間に拡散し、霧散する。

 リィルとはまた違った意味で、それはそれで不可解な現象だ。



 事実、彼は直接自身の身体に掛ける魔法、或いは、自身に触れている物に対して行う魔法については、非の打ち所がない程に卓越している。


 魔力制御能力は、そう言った意味では非常に高い筈なのだ。


 なのに、飛ばない。飛ばせない。


 しかも、このご時世に、武器を使わずに肉弾戦をモットーとした特攻スタイル。

 彼の扱う技は、その悉くが、本来であれば術者本人が大怪我をするだろう自爆技の類いだ。


 それを涼しい顔をしてヒョイヒョイ使い、敵を殴り飛ばしていく。



 確かに、興味を惹く存在だった。



「加えてロッティ。あいつは、収納魔法や結界魔法といった、持つか持たざるか、といった力の適性は無い。だが、それを補って余りある、とてつもない魔法の才能がある。上級魔法だろうが複数属性の同時使用だろうが、難なくこなし、軌道予測演算にかけては最早神業の域だ。もし、これでオレやラーノルドに比肩するだけの魔力量まで成長すれば、オレ達をも越える逸材になるだろう。あいつがその気になれば、もしかしたら魔力銃だって使えるようになるかもしれんな」


 ローゼリッテ・セブンスワース。

 アルフの幼馴染である、紅蓮の髪の少女。


 確かに、ロッティには収納魔法や結界魔法、"時間超越(クロノシフト)"といった、特殊魔法の素質は無い。


 消却魔法のような一部の例外を除くと、特殊魔法は、まずその魔法を扱う素養を持っているか否か、という、才能以前の問題がある。


 仮にいくら才能があったとしても、そもそもその特殊魔法を扱う素養が無いのであれば、一生扱えない。



 彼女には、そう言った異質な魔法の適性は、確かに存在しない。

 だが、それを差し引いても、彼女の魔法の才能は、確かに神域を侵すレベルに違いなかった。


 非常に高い集中力と細心の注意をもって放たれるような上級魔法も、彼女に掛かれば朝飯前。


 特に、軌道予測演算に関しては、余りにも秀ですぎている。


 惜しむらくは、魔力量。

 その溢れんばかりの才能をフル活用するには、やや乏しい。


 だが、それも現在レーヴェティアが開発中の『アウラノグラス』が完成すれば、ある意味で解消する問題だ。


 魔力を備蓄する結晶石を集めて加工した『アウラノ結晶』を、さらに加工して作られた『アウラノグラス』は、現時点で、試験運用としてだが、この街を護る結界魔法に使用されている。


 結界魔法は、とんでもなく魔力を消費する魔法だ。

 街全体を包む程の結界を張ろうとしたら、人力では、どれだけ人を集めたところで土台無理な話だ。


 それを可能足らしめる、『アウラノ結晶』。そして、それをより改善した『アウラノグラス』。


 これがあれば、仮にロッティを遠距離魔法を放つ固定砲台だと考えれば、魔力切れの心配もほとんど不要になる。


 ロッティならば、高威力、広範囲を誇る魔法を、湯水の如く使えることだろう。



 それに、もしアルフと共にいるという条件下ならば、彼女はアルフから、直接魔力を貰うことが出来る。

 アルフとロッティの間でのみ行える、本来出来ない筈の魔力の直接譲渡。


 馬鹿げた魔力量のアルフがいれば、『アウラノグラス』がなくとも、かなりやれるだろう。


 これもこれで、異端に違いなかった。



「……わかったか? お前等はな、そもそもがリィル云々以前に、十二分に異質なパーティなんだ。そんなお前等を、手放しにヴァスタードへ送れると思うか? あそこには、あらゆる街の、あらゆる組織の人間が集まる。そんな場所に長期間行かせること等、出来る筈もない。それが、片や兄夫婦の、片や親友の残した忘れ形見ならば、その想いもより強まるだろう」


「……」


 アルフは、ラーノルドの兄夫婦の間に生まれた子供だ。

 その兄夫婦は、アルフが5つの頃に亡くなっている。


 ロッティは、ラーノルドの親友とその妻の間に生まれた子供だ。

 同じくその夫婦は、既に亡くなっている。


 いや、悲惨さで言えば、こちらの方が圧倒的だろう。

 何せ、ロッティが生まれて間もなく、人とイクリプシアとの抗争に巻き込まれて死んだのだから。



 アルフとロッティは、ラーノルドに幼い頃から育てられてきた。

 だから、2人にとって、ラーノルドは親も同然の存在だ。


 だが、それはラーノルドにとっても同様だ。

 ラーノルドにとって、アルフとロッティは、己が子も同然の存在なのだ。



 そんな2人に、どちらにも、他の興味を惹く要素が余りある程に存在し、しかもその仲間であるグレイも、異端。


 これで心配にならないという方が、無理のある話だった。



「だから、表向きの理由をこじつけてでも、お前等のランクを下げているんだ。ヴァスタードから召集されんようにな」


「……そうだったんだ…」


 アルフは、ラーノルドへの感謝を忘れたことはない。

 親を失った自分を、親代わりに育ててくれた。

 いつも問題ばかり起こす自分達を、それでも見捨てず、面倒を見てくれる。


 そんなラーノルドが、それでも気づかないようなところでさえ、アルフ達を護るために、働きかけてくれている。


 心の中に、温かなものがじわりと広がっていく。


 顔に熱さを感じるアルフ。だが、嫌じゃない。

 どこか照れ臭いけれど、とても嬉しかった。



 そんなアルフを見て、それだけじゃない、とヴァンは言葉を続ける。


「レーヴェティア騎士団は、そのラーノルドの意を汲んでくれている。事実、件のヴェグナ騒動で、お前等が2体のヴェグナを倒した功績が認められて、本部ではお前等『勝利の御旗(フューリアス)』を昇格させるべきだ、という意見が上がったそうだ」


「そうだったんですか? ライオ達のパーティに昇格の話が上がったっていうのは聞いてたんですけど…」


「真っ先に上がったのはお前等の方だったんだぞ。だが、レーヴェティア騎士団は、各騎士団長5名の満場一致で、それを否決した」


「満場一致で……? やっぱり、実力不足って思われているってことなんじゃ……」


 持ち上げてから落とす、というような、そんな手口なのか、これは。

 昇格の話を聞いたとき、やった、と思った。


 それはそうだろう。評価されたということなのだから。


 まあ、これまでの話を聞く限り、そして自分達のところに話が降りてこなかった時点で、却下されたのだとは思っていたが、だが、まさかの満場一致。


 レーヴェティア騎士団の代表の5人の内、誰1人として、昇格を認めてくれなかった、と。



(……ってあれ、本部所属のオレ達のランクは、叔父さんだけで決められる筈。それが、何でフィールさんやティアナさんとかが出てくるんだ…?)


 基本的に、各騎士団の団員のランクは、各騎士団の団長に一任されている。

 勿論、街の最高権力者たる本部の団長は、それに付随して、それ以外の4つの騎士団に対しても働きかけることが出来るが。


 とにかく、普通、各騎士団の長5人が集まってランクを決める等と言うことはないのだ。

 ある、1つの例外を除いて。



「──騎士団長5名って……。まさか…」


「そのまさかだ。お前等のパーティに対して上がったランク昇格の話は、B、Aを飛んで、『Sランク』だ」


 この世界には、騎士とハンターが存在する。

 この2つは、本来同じ職業を指すものだ。


 だが、敢えてこのように分類されているのは、(ひとえ)に『対イクリプシアの戦力を輩出出来る組織の所属かどうか』を区別するためだ。


 最低ランクのGから始まり、Aへと至り。

 そして、その上──Sランク以上の者を輩出する集団を騎士団とする。



 レーヴェティアは、如何せん大きな街だ。

 それ故に、5つの騎士団が存在する。


 G~Aまでは、各騎士団でランク付けが任されている。

 だが、それ以上となれば、話は別だ。


 S~SSSランク。つまりは、対イクリプシア戦における戦力に計上出来るか否か。これについては、5名の騎士団でもって決議される。


 そして、過半数以上の同意を得て、初めてそのランクが付与されるのだ。


 それはそうだ。Sランク以上ともなれば、それは街の──騎士団の代表戦力だ。

 生半可な実力の者に与える訳にはいかない。


 だから、レーヴェティアでは、必ず5名の騎士団長の全員に話が通る。



 そう、アルフ達は、旧エルサーラが引き起こしたヴェグナ騒動にて、多大な功績を挙げた。


 敵方の大多数を引っ捕らえ、独自の判断で副団長たるレオに情報をもたらし、あまつさえヴェグナを2体、レーレやライオ達の助けがあったとはいえ、打ち倒したのだ。



 ヴェグナを自力で倒したのは、ヴァンとラーノルド、そしてレーヴェティアきっての法術使いであるセリアのみだ。

 つまり、他の者は、騎士団長、副団長ですら、倒しきれなかったのだ。


 それを、独力で倒してのけた。しかも、2体も。


 幾度も幾度も再生を繰り返すから、街の周囲に出現した個体の方が大きく強大だったから、といったことは勿論あるが、それでも、彼等が成し遂げたという事実は変わらない。



 その実力、そして働きの功績は、実に高い評価が為されていた。


「フィールもティアナも、ジーナ殿もウォーリアも、全員がお前等の実力を認めている。だからこそ、満場一致で却下された。お前等を護るために、な」





 *******************


 それは、今からおよそ7日前──いや、既に日付は変わっているから、8日前か。ともかく、それはラーノルドがこの街を発つ前日のことだった。


 メンテナンスに出していた、彼の得物である巨大な突撃槍を、受け取りにやって来たラーノルドは、幾向かい合って座り、幾つかの雑談を交えながら、ヴァンと紅茶を飲んでいた。



「やはりお前は使い方もそうだが、魔力もよく制御されているな…。槍の方は、特に問題無しだ」


「良かった。久しぶりにあれを使ったものだったから、問題無いか、若干不安でしたので」


「お前程になってくると、オレとしても、武器が良かったのかお前が単に凄いのか、わからなくなってくるな…」


「フフ…。そんなことはありませんよ。先輩の武器は、やはり流石です。並の武器なら、ボロボロですよ。オレなどまだまだですよ」


「お前でまだまだなら、この地上で一流の奴など、本当にいなくなってしまうだろうが」


 会話を交わすラーノルドとヴァン。

 そこには、普段の生真面目で厳しい表情も、問題児達の行動に頭を痛めるような色も無かった。


 どちらの顔にも、気心の知れた、旧知の間柄でのみ見せる類いの笑みがあった。



「そう言えば、フィールの奴がこの間、アルフ達に昇格の話が挙がった、とか言っていたぞ」


 あの馬鹿、オレの作った槍をボロボロにしやがって、等と毒づきながら、ヴァンがそう言って紅茶を啜る。


 それを受けて、ラーノルドはため息を漏らした。


「まったくあいつは…。口が軽い…。いや、先輩にだから、か。ええ、確かに挙がりましたよ。……まさかのSランク昇格の話がね」


「ごふっ…!」


 驚きのあまり、紅茶が気管に入りかけて、ヴァンが咳き込んだ。

 その様子をクスッと笑ってから、ラーノルドも紅茶を口にする。



「……で、どうしたんだ?」


 暫く咳き込んで、ようやっと落ち着きを取り戻してから、ようやっとヴァンが口にした言葉がそれだった。


「……聞くまでもないでしょう?」


 対して、ラーノルドは目を伏したまま、そう答える。


「そりゃあそうだがな…」


 半ば予測出来たことだ。

 ラーノルドは、間違いなく反対するだろうと。


 だが、Sランクともなれば、ラーノルド個人が反対しても、他の4名の内3名が承諾すれば、まかり通ってしまう。


「満場一致で、却下になりましたよ」


「満場一致で……? 誰も推さなかったのか?」


「……ヴェグナを2体も倒した、というのが、寧ろトドメでしたね。『無闇に放り出すべきではない』というのが、騎士団の総意です」


「なるほどな……」


 実力を評価されなかったのではなく、評価したからこそ、昇格させなかったのだ。

 そのことを、ヴァンは今の言葉だけで、汲み取っていた。



「確か、新しい仲間が加わったらしいな。そいつも存外にいける口か?」


 小耳に挟んだ程度だが、ヴァンにもアルフ達『勝利の御旗(フューリアス)』に新しい仲間が加わった、という話は回ってきていた。


 良くも悪くも、アルフ達はレーヴェティアでは有名だ。

 ヴァンは団長の座を退いてこそいるが、それでも騎士団には顔が利く。


 アルフ達の話は、しょっちゅう入ってくる。



「存外…などというレベルではないですよ。正直、あいつ等に混ざっていても違和感がないくらいに凄まじいです」


「……良い意味でか? それとも悪い方か?」


 アルフ達は、良くも悪くも有名である。

 そう、良くも悪くも。


 そこに混ざっていても違和感がないとなると、或いは……。



「どちらも、です。リィル・フリックリアというのですが、記憶喪失らしく、素性はよくわかっていません。件のヴェグナ騒動の折、時期も時期でしたので若干の疑いを持ちましたが、結果はシロでした。……と言っても、彼女が来てからというもの、アルフ達の借金は加速度的に増えてますから、ある意味で別の問題として顔を出した訳ですが…」


「……お前も大変だな…」


「……まあ、それはこの際いいとして。問題は、彼女は消却魔法の使い手である、ということです」


「……ということは何だ、2体のヴェグナは、そのリィルって奴が仕留めたのか?」


「1体はアルフですよ。ほら、"バースト・レイ"で。だが、彼女もまた、消却魔法でヴェグナを倒している」


「……そうなると、余計に……か」


「ええ……。記憶喪失で身寄りも無く、それでいて消却魔法の使い手。恐らく、引く手あまたでしょう。そこにアルフ達も加わるとなると……」


「……」


 言わずと知れたことだ。


 仮に消却魔法の使い手であるリィルを狙って、害意ある何者かが来たのだとして、そこにはアルフ達もいる。


 あの3人も3人とも、あらゆる意味でぶっ飛んだ者達だ。

 それこそ、目立つなどという言葉で片付けられない程に悪目立ちするだろう。


 そんな者達を、あのヴァスタードへ送れるものか。



「実力で見れば、手厳しいジーナさんまでも認めていたくらいです。ウォーリアも、息子のグレイに関しては苦い顔してましたが、それでもきちんと評価しているようでした。大喧嘩して勘当したとは言え、やはり2人の子供の片割れですから、それとなく気にしているようですよ」


「あいつも素直じゃないな……。フィールやティアナは、元々『勝利の御旗(フューリアス)』にも関心を向けていたし、ともすれば確かに、満場一致になるか」


「そういうことです。全員が全員、正当にあいつ等の実力を評価している。だからこそ、今回の昇格は認められなかった。……向こうで問題を起こされては堪らない、というのもあるにはありますが、ね」


 そう苦笑して、ラーノルドはメリッサに注いで貰ったおかわりの紅茶を口に運んだ。



 そして、一息ついたところで、再びラーノルドが口を動かした。


「実は、あいつ等の昇格の話を真っ先に反対したのは、オレじゃなく、フィールとティアナなんですよ」


「ほう、あいつ等が、か」


「ええ。あの2人は、アルフ達にもよくしてくれています。ロッティが懐いているのが良い証拠です」


 ロッティは、コロコロと表情の変わる、猫のような少女だ。

 一見人懐っこそうに見えるが、実はそんなことはない。


 彼女が懐く人間は、ごく僅かだ。


 幼少期の辛い経験故にそうなってしまったがために、ラーノルドもあまりそれを咎めることは出来なかった。


 そんなロッティが懐く程に、フィールとティアナは、アルフ達に対して好意的だった。


 そして、だからこそ、彼等の身の安全を、よく考えてくれていた。



「正直、オレは安心しましたよ。仮にオレがいなくなっても、あいつ等を案じてくれる奴はちゃんといる、ってね。心から、そう思いました」


「……まるで自分がいなくなるような言い方だな、ラーノルド」


 ヴァンの表情が、すうっと暗くなる。

 それは、仮にもレーヴェティアを統べる者として、その発言は許されざるものだ、と言っているような色のものだった。


 しかし、ラーノルドはそれを受けて苦笑するだけだった。

 今更ヴァンに凄まれたところで、ビクつくラーノルドではなかった。



「現に、明日からしばらく、レーヴェティアを離れなければなりません。エルサーラ──改め、エルティアに直接出向かなければならなくなりましたので」


「……そういう意味ならいいが。しかし、わざわざお前が行くこともないだろうに」


「表向きは占領、という形ですし、やはり反乱分子もあるそうです。それらの対処や今後の方針についての話し合い、新体制の構築……他にも沢山、やることがあります。そして、極めつけが一つ……」


「──イクリプシアか…」


「……ええ。どうも近くにいるらしい。景気付けというわけではないですが、まあレーヴェティアの力を誇示する上でも、丁度良いかと、ね」


「イクリプシア討伐をデモンストレーションにされてもな…」


 今度はヴァンが苦笑する。

 そして、その笑いが消えた頃、ラーノルドの表情は、極めて厳しいものとなっていた。


「……?」


 それを見て、ヴァンは眉を潜める。

 何か、大事なことを言うつもりだということは、最早言及するまでもなかった。



 やがて、ラーノルドは意を決したように、深く息を吐いてから、口を開いた。


「……先輩。さっきの話……オレは本気ですよ」


「……何を言っている…」


「もし、アルフ達に害をもたらすような輩が現れたら、オレは何がなんでもそれを潰す。例え、相手がヴァスタード──あのクラノスでも」


「何を言っているのか、理解しているのか…お前……」


「重々承知しています。仮にもレーヴェティアの民を預かる身としては、あってはならない発言だと」


 ラーノルドの言葉は、つまりは相手が誰であろうと、アルフ達に害を為す者は全力で潰す、というものだった。

 仮に、それが街にとってマイナスに働くことになろうとも。


 それは、どう考えても、仮にもこれだけ大きな街となったレーヴェティアを統べる立場の人間が、口にすべき発言ではなかった。



「勿論、そうならないように善処しますけれどね。それでも、オレはあいつ等を護るためなら、何だってしますよ。あいつ等は、オレの子供も同然だ。子を護るためなら、親ってのは、相手が何であろうと、噛みつくものでしょう?」


「……はぁ。子供が子供なら親も親だな。お前も十分大概だ…。ったく……。そんな男を後釜に据えてしまったオレも大概か……。せめてあいつ等が、いざという時に牙を失わずに済むよう、奴等の武器の面倒は、これからもオレが請け負ってやる」


「よろしくお願いします。先輩…」


 ラーノルドはそう言って、深く頭を下げた。




 *******************


「…そんなことが、あったんですか……」


 ヴァンの話を黙って聞いていたアルフは、茫然としていた。

 自分達の預かり知れないところで、多くの者が自分達を認めてくれていて、そして、自分達を護るために動いてくれていた。


「本当は、お前等がCランクのままである理由も、Sランク昇格のことも、あの日のことも、ラーノルドから口止めされていたんだがな。何故それを、お前に話したか……わかるか?」


「……」


「お前等には、十分力がある。だが、同時にお前等の力は、余りにも異質だ。お前等には、何よりも危機感が足りない。グレイは何をしでかすかわからんし、ロッティもそういう方面に気が回る性質(たち)じゃない。そしてリィルは、性格的には問題ないだろうが、一番異質だ。だから、お前しかいないんだ」


 そう言って、ヴァンはその大きな手をアルフの頭に乗せて、乱暴にガシガシと頭を撫でる。


「あいつ等の手綱を握っているお前には、自分達の異質さを──危なっかしさをよく理解し、常に警戒を怠らずにいて欲しい。そして、ラーノルドを筆頭に、お前等を護ろうとしてくれている奴等がいるということを、わかっておいて欲しい」


「……はい」


 静かな声音だったが、そこには確かに、ヴァンの、そしてラーノルド達の想いに応えようとする、強い意志が宿っていた。


 本当に、レーヴェティア騎士団に在ることが出来て幸せだ、アルフは思った。

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