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Avalon Rain ~終焉の雨と彼女の願い~  作者: 音無 一九三
第一章【凶変の召喚魔法】
27/53

26 空を貫く光・全てを消し去る光

「アイゼント流刀剣術の…奥義……? 一体、どんな剣術なんだ…?」


 ガイルの言葉に、アルフは頷きつつも、何とも困ったような笑みを浮かべた。


「うん。ただ、きっとこれはガイルさんが思っているようなものじゃないよ。何せ、確かに刀剣を使う法撃ではあるけど、剣術ではないからね」


「……は?」


 刀剣術の奥義でありながら、剣術ではない。そんな頓知を噛ましたような言葉に、ガイルは思いっきり面食らった。その気持ちは尤もで、アルフの言っているそれを知らないウルドやリィルもまた、似たような表情だった。

 しかし、アルフの次の言葉は、さらにガイル達を混乱させるものとなった。


「極論を言っちゃえば、別に刀や剣じゃなくてもいいんだ。何らかの物体であれば、それで構わない」


「なんじゃそりゃ…。そんなもんが、あのアイゼント流刀剣術の奥義だってのか?」


「んー、そうだなぁ。こう言えばいいかな…。そもそもアイゼント流刀剣術は、その技を(・・・・)習得するための(・・・・・・・)ものらしいんだ。謂わば、修行の手段として生まれたもの…って感じかな」


 マキナ・アイゼントの名は、広く知れ渡っている。彼が創案したアイゼント流刀剣術もまた然り。そんなアイゼント流刀剣術が、単なる修行の手段として生まれたものだという爆弾発言は、ガイルを凍りつかせるには十分に足るものであった。

 だが、アルフは口を開いたまま硬直するガイルを半ば無視する形で、説明を続ける。


「技の内容は至ってシンプル。超圧縮した魔力の放出攻撃。だから、別に刀じゃなくても全然構わない。ただし──」


 一度言葉を切って、暫くの間を置いた後、アルフは続けた。


「最大限の魔力を最大限圧縮して放つ魔力の放出。勿論威力はアイゼント流刀剣術の中でも随一。所有者の技量によっては、地形すら変えかねないくらいに。でも、オレはそれをきちんと扱えない。ガイルさん達にはさっきも話したけれど、オレがその技を使った場合、”魔力炉”が過剰稼動(オーバードライブ)を起こしてしまうんだ。その結果、異常に活性化した”魔力炉”が魔力を捻出し続け、”第6魔力炉”を除いた”魔力炉”が一時的な機能停止に陥るまで止まらない」


「ちょっと待って。そんなことしたら、最悪アルフはもう二度と魔法を扱えない身体になりかねないじゃない! ……危険すぎるわ」


 ”魔力炉”は、通常それに異常を来すことがないよう、最大限に発揮されることはない。簡単に言ってしまえば、通常解除することが出来ないリミッターが設けられているのだ。しかし、アルフの言ったことが言葉通りであれば、そのリミッターが意味を為さなくなる、ということになる。

 当然それは、自身の身に恐ろしい負荷を強いることになる。”魔力炉”が機能停止を起こす程に酷使されれば、最悪の場合、”魔力炉”それ自体が壊れてしまう危険性だってある。そうなれば、魔力が捻出されなくなる。


 ”第6魔力炉”は、基本的に最低限生命を維持するための魔力を作り出しているものだ。だから、それ以外の”魔力炉”が働かなくなれば、魔力を扱うことが出来なくなる。騎士として──どころか、この世界に於いては、それは生きる術の大半を失うに近しいものだった。



「大丈夫。何度か試したことがあるんだ。だから、多分そんなことにはならないと思う」


「思うって……」


「リィル、そうでもしなきゃ、あいつは倒せないよ。……いや、これでだって倒せるかはわからないけど、少なくともオレの魔力量は相当なものだと思う。だから、その放出時間も相当長い筈。そうなれば、ヴェグナに継続的な負傷・再生の繰り返しを強いることが出来る。幾ら『アウラノグラス』があっても、それを使い続けて戦うってことは、それだけ身体を酷使する、ってことだし。今は何とかなってても、魔力より先に体力が尽きちゃうよ。そうなったら、いずれ誰かが死んでしまうかもしれない。オレは……それは嫌だ。今持ってる手札の中では、このカードが一番効果的だと思うんだ。だったら…やるしかない」


「アルフ……」


 じっと自分の目を見るアルフの黒い瞳には、強い光があった。きっと、自分がどう言ったところで、アルフを止めることは出来ないだろう。

 静かに目を伏せたリィルのそれを肯定の意と受け取り、アルフは続ける。



「でも、1つ問題があるんだ。なまじオレの魔力量は馬鹿みたいに多い。その上、制御出来ない程の魔力を放出するわけだから、迂闊な方向に撃つ訳にはいかない。出来れば上空目掛けて、が望ましいな」


「そうなると、あのデカブツを空に打ち上げなきゃなんねぇ、ってことだな」


 グレイの言葉に頷いて、アルフは視線を落とす。それは、アルフ自身もグレイの言うそれが如何に大変なことであるか、理解しているが故の反応であった。


「……これから使う技は、発動までに時間が掛かる。だから、オレはヴェグナに攻撃をしていられない。それに、上空に打ち上げるにしても、あの巨体だ。2体共打ち上げて射線上に……っていうのは、やっぱり難しいよね」


「あたしの魔法でも、出来るかわかんないよぅ…」


「そう…ですね。動きを封じるならまだしも、打ち上げるとなると、流石の私でも難しいですね……」


 ロッティの言葉に続き、顎に手を当てながらレーレがそう言った。ロッティやレーレでもそれが無理であるならば、そんなことが可能である人物は、この中でただ1人。


「──オレしか、出来ねぇだろうな、そりゃ。オレなら、もしかしたら投げ飛ばせるかもしれねぇ」


 白羽の矢が立ったのは、地面を投げ飛ばす等の荒唐無稽なことをやってのける男──グレイ・ヴェルタジオだった。なるほど、確かにグレイならば、或いは可能かもしれない。

 しかし、グレイは片手を挙げ、けどよ、と付け加える。


「それでも1体が限界だ。2体は無理だぜ?」


 如何にグレイが滅茶苦茶な人物であるとはいえ、流石に分身出来る訳ではない。そうなると、方法は1つ。連続で投げ飛ばす──。

 だがヴェグナを投げるということは、実質今まで以上にヴェグナに密着し、それを持ち上げなくてはならない。あの巨体で、ヴェグナは止まってはくれない。地面と違って抵抗するだろうし、そう容易く持ち上げられるか。

 もし、持ち上げようとして近づいた矢先に踏み潰されたら。或いは例の黒い炎に焼かれたら。


 そう考えれば、どうしたって2体を連続で、同一射線上に放り投げるというのは無理がある話だった。


「だよね…。そうなると、潰せるのは1体、と考えるべきだね。それでも1体倒せれば、レーレさんが来てくれたし、何とか持ちこたえられるんじゃないかな」


「そうですね…。アルフがそこまで頑張るのですから、私も相応に働きます」


 にっこりと微笑むレーレに、アルフは笑みを返す。



「なら、まずはあの2体を引き離す必要があるな。…まず、どっちを狙うかだ」


「なるべく倒せる可能性の高い方に使いたい。そう考えると……中型の奴だ」


「だな。なら、そっちをまずアルフの技でぶっ潰す方向で行くぜ」


 グレイの言葉に、皆頷く。異論はない。1体でも排除することが出来るなら、そうするべきだ。


「アルフは技の準備に取りかかるとして、オレはあれを投げ飛ばす係。ロッティは投げ飛ばす隙が作れるよう、ヴェグナの気を引いてくれ」


「りょーかい! 魔力も満タンだし、ドンと来いだよー!」


「うっし。で、肝心要のもう1体を引き離すのは、レーレさん、頼んます」


「承りました」


「ガイルとウルドのおっちゃん達は、レーレさんを援護してくれ」


「おう!」


「わかった」


 グレイの指示に、それぞれ返事をしていく面々。その中で、ただ1人──リィルだけは未だ煮え切らない表情をしていた。


「で、リィルは──」


「待って」


 だが、とうとう自分の名が呼ばれた時、リィルは意を決した。


「待って欲しいの」


「リィルちゃん?」


「何だってんだ? アルフが気張るって言ってんだ。オレ等だって、負けちゃいられねぇだろ」


「違うんです。そうじゃない。そうじゃなくて……。私……」


 ガイルの言葉に首を振って、しかしリィルの言葉は中々出てこなかった。


「……え…るわ」


「リィル…?」


 2つの咆哮が響く。知性が低そうなヴェグナだったが、ここに至ってようやく、自身の脚を燃やし、再生することで戒めを解く方法に至ったようだった。続いて響くは、大きく息を吸い込むような音。

 もう幾ばくもなく、ヴェグナは再び動き出すだろう。

 だから、時間はあまり残されていない。


 それでも、アルフは待った。リィルの言葉を。

 そして、やがてリィルは、ハッキリとこう言った。


「使えるわ…私。……消却魔法」


「……はぁ?」


 誰よりも先にそう言ったのは、ウルドだった。真っ先に言葉を発しそうなガイルをおいて。ガイルが思わず言葉を失う程であったし、そこまで感情を表に出すふうでもないウルドが真っ先にそう口走ってしまう程、それは衝撃的な発言だったのだ。


「残る1体は…私が倒すわ」


 本当は、明かしたくなかった。けれど、アルフの言うとおりだ。このまま戦い続ければ、確かに魔力はもつかもしれない。だが、体力は尽きるだろう。そうなれば、いずれは死者が出る。



 ──こんな私を迎え入れてくれた人達を……みんなを、死なせたくない。



 リィルは決意した。それは、リィルにとって非常に重い決断であった。



「ま、待て待て! 消却魔法が使えるなら、リィルの嬢ちゃん、おめぇさんなら、アルフが無茶やらなくても2体とも倒せるんじゃねぇのか!? なぁ!」


 吉報であった。ヴェグナの弱点。確実に倒せると知らされた消却魔法を、この少女は使えると言っている。それは、現状を大きく好転させる発言だ。

 消却魔法は、発動までにそれなりに時間が掛かる。そして、相当な魔力を消費する筈だ。


 しかし、60を越えたセリア・エグバートが12体のヴェグナを倒して回っているという。それに比べればリィルは遥かに若い。練度の面では大きく劣っても、身体に掛かる負荷という面で見れば、老体のセリアより遥かに強靭なのは間違いない。これまでの戦いからも、魔力量は十二分。それに、今や『アウラノグラス』という、魔力を回復する術さえもある。


 騎士生命が絶たれかねない、それでいて本当に倒せるのかもわからない、危ない橋を渡るアルフの技よりも、よっぽど現実味があるし、勝算もある。

 期待に胸を踊らせるガイル。しかし反対に、リィルの表情には未だ影があった。


「……いいえ、そう上手くはいかないんです。私が消却魔法を使うには、この魔力銃を使う必要があります」


「…? それがどうしたってんだ?」


「……この銃は、その…特別製で……。私の魔力は、普通の武器で扱うと、武器の方が耐えきれずに砕けてしまうんです。グレイはよく知っているわね…?」


「ああ…。さっきまで、それに殺されかねないところだったからな」


「武器が砕けるって……。どういうことだそりゃ…」


 あれだけ正確な射撃が出来るリィルが、武器への魔力によるコーティングを不得手としているとは、ガイルにはとても思えない。だが、リィルの話が本当なら、それは随分異質な魔力である、とでもいうべきか。一体何がどうなれば、そんなことが起こるのかはわからないが、何にしてもとんでもない話だ。


「この銃には、そうならないようにリミッターが設けられているわ。私の特殊な魔力の性質を抑え込むように。でも、消却魔法を使うには、そのリミッターを外さなくてはならないの。つまり……」


「消却魔法を撃ったら、その銃は壊れてしまう…。そういうことだね、リィル」


「……ええ」


 アルフの言葉にリィルは小さく頷いて、銃を胸の前まで持ち上げて、そして左手でそっと撫でる。それだけで、その銃がリィルにとって、大切なものであることが窺えた。

 法撃を放とうとすれば、武器が砕けてしまう。それは、つまりこの銃を失ってしまったら、リィルが扱える武器は、無くなってしまうということでもある。

 愛着も勿論あるのだろうが、ちゃんと使える武器が無くなるということは、騎士にとっては大きな問題だ。


 それでも、リィルは毅然としてアルフを見つめ返す。


「…でも、背に腹は変えられないわ。アルフがそこまで無茶をするっていうのなら、私も覚悟を決めるわ。だから、残る1体…私が消却魔法で、必ず仕留めてみせるわ」


「……わかった。頼む、リィル」


「ええ、任せて」


 吸い込まれそうな、澄んだ青の瞳。もうそこに、影はなかった。アルフのそれと同じように、いや、それ以上に、強い光が宿っていた。



「作戦はさっきグレイが言った通りに。まずレーレさんを中心に、大型のヴェグナを引き剥がす。そして、中型の方はロッティが牽制しつつ、隙を突いてグレイが投げる。大型の方は、引き離した後、リィルの消却魔法の展開まで、時間を稼いで欲しい」


「勝機が見えてきたんなら、俄然やる気も出てくるな。任せろアルフ。絶対に、オレが投げ飛ばしてみせる」


「大船に乗ったつもりで用意しててねアルフ! アルフには絶対手を出させないんだから!」


「リィルさん、あなたは安心して、消却魔法を準備してくださいまし。必ず当てられるようにしてみせます」


「へっ…団長やおめぇ等に恩を返す絶好の機会だ。たとえ微力だって、全力でやってやるぜ!」


「ああ、ガイルの言うとおりだ。ここを逃す手はない」


 それぞれが各々の言葉で、その決意を示す。それに力強く、アルフとリィルは頷いた。


「うん。絶対に、決めてみせるよ」


「私も絶対に外さない。倒してみせるわ。そして、みんなで帰りましょう……レーヴェティアに」


 リィルの言葉にそれぞれが鬨の声をあげ、動き出した。

 果たしてその頃、ヴェグナもとうとう蒼天のように青い氷を焼き付くし、失った脚を再生。その怒りに燃える紅い瞳が、アルフ達に向けられた。



 走り出したグレイ達。アルフはその場に、リィルはまたグレイ達と違う方まで走っていく。

 それぞれが、それぞれの役目を果たすために。



 まずアルフは、大きく息を吸い込み、刀を鞘から引き抜くと、刀を握る右手首に左手を添え、刀を前方に突き出した構えを取る。


 全ての魔力を、刀にかき集める──。

 アルフの膨大な魔力が、絶えず生み出され続ける魔力が、刀へと集約されていき、その刀身が激しい青白い光を放ち始める。


 アイゼント流刀剣術は、これから放つ奥義を極めるための、修練の過程で生み出されたものだ。よって、刀剣術と謳っているが、その本質は剣術に在らず。それは、「”魔力炉”のリミッターを外す」ことにこそある。


 つまり、普段は無意識に作用しているそのリミッターをこじ開け、魔力の生産量を一気に引き上げる。そして、その引き上げられた魔力生産スピードをフル活用して、攻撃に転じる。

 並みいる騎士の中でも、”魔力炉”2つのリミッターを外せれば御の字。ラーノルドでさえ、3つがいいところである。


 生命に直結する”第6魔力炉”以外の5つ全てのリミッターを意図的に解除する。その術を身に付けるために、アイゼント流刀剣術は誕生した。

 だからこそ、アイゼント流刀剣術の数々の技は、状況に合わせた様々なものがあるが、中でも多くの技に色濃く出ている要素は、「刀身に多量の魔力を宿し、維持すること」、「瞬時に多量の魔力を引き出すこと」。これらである。


 もし膨大な魔力を、”魔力の器”の許容量を越えた魔力を刀身に宿すことで、限界を越えて技を放つことが出来る。

 そして、もし瞬時に多量の魔力を引き出せるのならば、”魔力の器”の最大量を遥かに越えた攻撃が可能になる。


 そして、これから放つ奥義には、それらが必要だった。限界を越える魔力を、限界を越えたスピードで生産し、その全てを刀に一度集約する。そして抑えに抑えた魔力を、一気に解き放つ。


 アルフはまだ、2つまでしか”魔力炉”のリミッターを外すことが出来ない。同時に、この奥義を扱うには、アルフはまだまだ未熟過ぎる。

 故に、限界を越えてしまうこの技は、アルフの意志で止めることが出来ない。放出を始めたが最後、”魔力炉”がその能力を失うまで、止めることが出来ない。そうしないと、”魔力の器”が耐えられないからだ。止めたくても、止められない。だが、それ故に、本来のそれよりも、長時間の放出が可能となっているのも事実だ。



 刀身が宿す光は強まっていき、それに連れて、その刀身がガクガクと揺れ始める。押さえ付けられた魔力が、暴れ始めているのだ。だが、それでも、押さえ込み続ける。


(もっと、もっとだ。必ずグレイとロッティがやってくれる。だから、絶対にこれを失敗するわけにはいかない…!)


 たとえそれが、分不相応な代物だろうと、余りにも高すぎる壁であろうとも、御さねばならない。越えなければならない。

 あの2人は、自分が絶対に決めると、信じているのだから。



 時を同じくして、アルフから距離を取ったリィルは、一度銃をホルスターに収める。そして、両手を大きく広げて空に掲げる。

 まず現れたのは、紅蓮の業火。激しく燃え盛る炎が、渦を巻き球体になっていく。

 その次は、白銀の冷気を纏う蒼色。同じように、球体になっていく。

 3つ目は、つんざくような音をあげながら荒ぶる、新緑の風。

 続いて、空の青さを思わせる、水色の奔流。

 最後に、稲光を伴わせ、激動の勢いを見せる紫電。


 その5つの球体は、均等に、そして同量の魔力になるように調整されていく。やがて、それら5つの球体は圧縮されていき、それぞれが掌大の大きさになったところで、それらを青白い魔力の線が結んでいく。浮かび上がったのは、球体を交点とし、それらを結ぶ青白い光によって描かれた五芒星。

 そして、その五芒星は、やがて緩やかに回転を始める。徐々に加速しながら、そして、5色の交点は、それぞれがその色の尾を靡かせ、やがて隣り合う魔力と絡まり合っていく。


 そして、5つの球体がとうとう視認出来なくなり、1つの輪のように見え始めた頃、それは光になった。

 純白──。何もかもをも包み込み、呑み込むような白い光。なおも甲高い音をあげて、速度をあげながら回転する魔力が、回転が早くなるに連れて、徐々に小さくなっていく。


 チリチリと、掲げた掌に焼けるような痛みを感じて、リィルは苦悶に顔を歪めた。だが、ここで痛みに負ける訳にはいかない。


(こんなの…こんな痛み程度で……! 絶対に、成功させてみせる…!!)


 消却魔法──。特殊魔法の中でも、この魔法は、実は誰しもに扱える可能性がある。何故なら、6属性の魔力を扱えるのならば、それらを混ぜ合わせることが出来ればよいからだ。

 故に、収納魔法や結界魔法のように、そもそも適性がなければ使えない、という訳ではない。”時間超越(クロノシフト)”のように、冥力がなければ発動出来ないという訳ではない。


 ただ、それらを混ぜ合わせることが極めて困難。この一点によって、扱える者が非常に少ないのだ。或いは才能かもしれない。或いは肉を削ぐ勢いの努力の賜物かもしれない。

 それでも、極めて難しい魔法である、ということは確かだ。


 やがて魔力の球体が、元の5つの球体と同じく掌大になった頃リィルは両手を胸の前に持ってきて、掌同士を向かい合わせるようにする。その掌の間に、なおも圧縮されていく魔力の球体がある。その輝きたるや、最早小さな太陽のようだった。


 そして、とうとうその大きさが小石程度にまで圧縮された時、その白光を放つ球体を青白い無属性の魔力が覆った。

 消却魔法は、触れたもの全てを消滅させる魔法だ。故に、仮に銃で放とうとするならば、少なくとも発射するまでそれに耐えうる何らかの手を討たなければならない。


 元々消却魔法は、その性質上、法術として使用される。リィルもまた、初めはそうしたのだろう。だが、それは上手くいかなかった。

 考えられる要因としては、法術で放つ以上、起動予測演算が必要となってくる、というものがある。

 消却魔法は、作り出すことそれ自体が困難な魔法だ。ならば、その予測線の設定たるや、凄まじく困難だろうことが窺える。

 その末に辿り着いた結論が、「法撃として放つ」。これだったのだろう。


 青白い光に包まれながらも、それをも上回る白い光を放つ球体を左手でホールドしつつ、焼けつく痛みに涙を滲ませながらも、右手で銃をホルスターから引き抜いた。最早、掌と言わず手首までもが、焼け爛れていた。

 全てを消し去る魔力の球体を、銃口から銃の中へ。弾けてしまわないように必死で制御しながら、リィルは叫んだ。


「オーケーです…!!」


 そして、リィルの声に僅かに遅れるように、もう1つの声が響く。


「グレイ! やってくれ…!!」


 リィルのそれのように、目が眩む程の青白い光を宿した刀身は、斜め上方に向けられている。踏ん張るようにしっかりと地に着いた両足。アルフとリィル。2つの究極の技が、その発動が、可能となった瞬間だった。



「待ってたぜアルフ!!」


「よくやってくれました、リィルさん!」


 2つの声が返ってくる。

 ヴェグナに如何に知性らしきものが見受けられないと言っても、それでも莫大な魔力、その脅威が差し迫れば、本能がそれを防ごうとする。だから、ヴェグナ達は、アルフとリィルを狙おうとしていたのだ。

 だが、それは叶わなかった。5人の騎士が死力を尽くし、それを阻んだからだ。


 玉砕覚悟の勢いで、或いはヴェグナに蹴り飛ばされ、或いはその鋭い爪に身を削られ、或いはその黒い炎に呑まれそうになりながらも、アルフとリィルが必ず決めてくれる──。ただそう信じて、攻め続けた。



 その結果、2体のヴェグナは見事に距離を離され、アルフとリィルを阻むことも叶わず、そしていよいよ、その時を迎えようとしていた。



「ロッティ!!」


「あいさー!」


 血だらけになりながら、2つの影が躍動する。三日月の形をした蒼色の冷気がヴェグナ両膝を凍りつかせ、動きを阻む。そして、ヴェグナの両サイドからその腕を捻じ切るように、新緑の竜巻が襲う。さらに、上空からヴェグナの顎を粉砕する雷の鉄槌が打ち込まれる。

 4方向3属性を同時に操る魔法──”三手ノ災禍(ミカヅチ)”だ。


 炎を吐く術を奪われ、襲い来る魔の手を払う両腕をもがれ、にじり寄る影を吹っ飛ばす脚を固められ、ヴェグナはその反撃の手段を、再生までの束の間の時とは言え、奪われた。そしてその間に、いや、ロッティの魔法が炸裂する前に、グレイはヴェグナの足元に潜り込んでいた。ロッティなら必ずヴェグナの動きを封じる。微塵も疑いを持たず、捨て身の特攻だった。


 だが、そんな普通なら考えられない程に厚い信頼によって、それは功を奏した。


「ぬぅぅぅうううあぁあアアァアアァアアアアアアァアアアアッ!!!」


 その巨大な右脚の鋭利な爪の1本を抱え込み、咆哮と共に、残る全魔力を全て余さず注ぎ込まれて強化された肉体が、10メートル程の巨体が浮き上がらせる。そのまま円心力をつけるように、投げの姿勢へと移行していくグレイ。踏ん張った左足、回転しようとする体を支えるその軸足は、地面にめり込んでいた。


 だが、グレイは躊躇しなかった。ボキリと嫌な音が響く。それは、グレイの左足の骨が折れた音だった。だが、支えを失うその直前、グレイはやってのけた。確かにその巨体は、徐々に失った部位を取り戻していくその化け物は、宙に飛んだ。そしてそれは、アルフは構える刀の直線上に向かわんとしている。


 力無く倒れたグレイ。しかし構わず叫ぶ。


「やれェエエェエッ!! アルフッ!!」



 同様に、もう1つの戦場でも、ヴェグナに終焉を迎える鐘の音が近づいていた。


「うおおぉおおおお!!」


 自分達には然したる力は無い──。

 その事実に真摯に向き合った今の2人は、全てをレーレがヴェグナの動きを再度封じるための魔法を放つための時間を稼ぐことのみに注ぎ込んでいた。

 持てる全ての力を尽くし、ヴェグナの猛攻を何度も受けて弾き飛ばされながらも、なおも果敢に突っ込んでいく。

 それは、或いは蛮勇と呼ぶのかもしれない。だが、その姿は、自身が犯した罪を深く反省し、そしてそれを赦してくれた者達に対して、精一杯応えようとする、その在り方の第一歩だった。


 そして、その蛮勇が、レーレが魔法を発動させるに足るだけの準備期間を稼ぐに足るものとなった。

 (さき)のヴェグナの脚を凍りつかせたそれを遥かに凌駕する魔力。


「”封棘氷槍(コキュートス)”!」


 投げるように放たれたのは、細身の魔力の氷柱。蒼い軌跡を描きながら真っ直ぐに直進するそれは、ガイルとウルドの執拗な攻撃によって気をとられていたヴェグナの土手っ腹を貫いた。その瞬間、氷柱の形状に留められていた魔力が一気に拡散し、ヴェグナを分厚い氷に包んでいく。そして、同時に地面に向かって、幾重にも蒼い魔力が伸びていく。さながらそれは、トゲを持った氷の(つた)だ。貫かれた場所を中心として分厚い氷に包まれ、まるで杭で打ち付けられたように、氷の蔦が地面と氷塊と化したヴェグナを縫い付けていく。

 そして、蔦自体も、絡み付いたその周囲を凍りつかせていく。


 普通の魔物が相手なら、たとえ相当大型であっても仕留めていただろう一撃。だが、それでもヴェグナの前では足りない。


 口許まで分厚い氷に包まれ、残った手脚も氷の蔦で封じられ、それでも以前脚を焼いたように、氷を解かそうと口許に黒い炎が沸き上がる。相当に練り込まれた魔力によって作られた分厚いの氷は、それでもヴェグナの炎を阻むことは出来なかった。だが、それで十分だった。

 動けなくなりさえすれば、それで良いのだから。


「今です! リィルさん!!」



 ほぼ同時だった。2つの声が、戦場に響いた。


「バースト・レイ!!」


 その反動に吹き飛ばされそうになりながら、ヴェグナに向けて突き出された刀から、空を貫く光が放たれた。


「ルインズ・ライト!!」


 その威力を前に銃がガキンと悲鳴をあげ、しかしヴェグナに向かって真っ直ぐに、全てを消し去る光が放たれた。

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