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Avalon Rain ~終焉の雨と彼女の願い~  作者: 音無 一九三
第一章【凶変の召喚魔法】
26/53

25 死を招く金属片の雨

 

「27…本目! っ…はぁ…はぁ……!」


 僅かに魔力の残滓を煌めかせながら、最初の大剣から数えて27本目の短剣の破片が降り注ぐ。攻撃そのものも凶悪だったが、その副産物として発生するこの破片も中々に末恐ろしい代物だった。

 端的に見れば、それは単に魔力のコーティングが残っているだけに思えるかもしれない。しかし、リィルのそれは違う。

 確かに、金属片を包んでいるのはリィルの魔力で間違いない。だが、その実体はもっと凄惨だった。


 リィルの普段用いる魔力銃による攻撃。本来媒介を通して行うがためにあまり細かなコントロールが出来ない筈の法撃でありながら、針の穴を通すような正確無さ。そして、200メートル離れた所から撃っても狂わない程に丁寧に制御された魔力。

 そう、制御されている。つまり、魔力銃自体にもそれだけの威力、精度を発揮するに耐えうるだけのコーティングがきちんと為されていた、とも言える。


「ぬぅうううぅうぅうあぁぁああぁあぁぁあああ!! 死ぬ! マジで死ぬッ!!」


 だからこそ、同じ魔力の残留している金属片と言えど、一般のそれとリィルのそれは、まるで意味が変わっていた。

 その丁寧で繊細で強固な(・・・・・・・・・)魔力のコーティング(・・・・・・・・・)すらをも破砕する(・・・・・・・・)。そんな代物が宿った破片なのだ。

 それを凶器と呼んでも、特に差し障りないだろう。悲鳴をあげたい気分だった。いや、というか現に悲鳴をあげていた。


 ただでさえヴェグナの炎に気を付けなければならず、それだけに気を配っていると爪や脚に持っていかれる。しかも、遠距離の攻撃手段がないグレイにとって、そんな相手に近接戦闘をしなければならないのだ。



 リィルの攻撃は、おおよそヴェグナの頭上から増真下に向かって放たれることが多かった。そして、次いでヴェグナの真下に潜り込んでからの上方への攻撃。

 さて、この2つには共通することがある。


 まず1つは、周囲に被害を極力出さないように注意した攻撃である、ということだ。

 大型のヴェグナを一刀両断出来うるような攻撃だ。何も考えずに放っていたら、どこまで火の粉が降り掛かるのかわからない。


 そして、もう1つはそれがおよそ縦方向の武器の振り回しである、ということだ。真下に向かって攻撃した際に武器が砕ければ、当然その爆散した欠片は広く広範囲に渡って降り注ぐ。

 しかし同様に、上方に向かって放たれた場合も、振るわれた際の勢いと爆散の威力に乗った破片は上空へ向かい、やはり最後は降ってくる。

 そう、リィルが攻撃し、その際に武器が壊れる度に、そんな悪夢のような流星群が雨の如く降り注ぐのだ。


 そんな中へ飛び込んでいって近接戦。どう見積もったところで自殺行為に近かった。ヴェグナの攻撃以上に、破砕音が聞こえる度に大慌てで逃げ出さなければならないのだ。

 こんな状況で落ち着いて戦えるか──。答えは否だ。事実、リィルが27本の武器を砕くだけの攻撃を行っているのに対してグレイがヴェグナに与えた打撃は精々7発程度。

 いや、寧ろこれだけの状況で近距離攻撃のみで7発も当てているのだから、十二分に評価して然るべきである。


「リ、リィルさん! マジでそろそろオレ死んじゃうって! 何とかならねぇのかそれ!」


 そう言いながらも何とか破片の雨を潜り抜け、中型のヴェグナの脚に魔力を込めた左拳を叩き込むグレイ。付与されたのは炎の属性。紅蓮の魔力が、殴ったと同時に大きな爆発を起こし、その継ぎ接ぎの皮を吹っ飛ばし、骨を打ち砕いた。脚を失ったヴェグナがバランスを崩して転倒する。

 その爆風に乗る形で後退するグレイ。実はグレイの攻撃も十分にハチャメチャな類いのものだった。

 中型、と言っても10メートル程の大きさだ。その脚を吹っ飛ばすような爆発を起こして、それを自身の拳で放っている本人が爆発の被害を受けない訳がない。


 ”爆散の拳(ブラストブロウ)”──。グレイが得意とする、その名の通り殴った際に爆発を起こす攻撃だ。この魔法の開発者はグレイである。

 いや、きっと誰でも思い付くだろう、単純な攻撃。殴ったら相手が爆発する。どこかロマンすら感じさせるような、きっと少年なら一度は考える技ではなかろうか。

 しかし、それを実際に使用することは誰もが避けるだろう。だって、爆発するのだ。「殴ったら爆発する」ということは、極近い位置で自分もその爆発に巻き込まれるのだ。

 一言で言ってしまえば、爆弾を抱えて特攻するようなものだ。誰がやるか、そんな無謀なことを。



 しかし、グレイにはそれしか無かった。グレイの法術の才能は皆無である。

 いや、正確には、自身に対して発動するものや、極至近距離で発動させるような類いのものは大得意ではある。こちらに関しては中々どうして、目を見張るものがある。

 が、ある程度複雑な軌道で放てる、より遠くに飛ばすことが出来る、法撃よりも御しやすい、といった法術の最大のメリットに関しては、その旨味に関しては、まるで引き出すことが出来ない。


 これは、2つの要因に起因する。1つは軌道予測演算の能力。もう1つは、魔力制御能力だ。


 軌道予測演算とは、これから放つ法術がどのような軌道を辿るのかを決めるものである。軌道予測線と呼ばれる法術の発動者の視界にのみ見える線によって設定され、おおよそこの軌道に沿って魔法は放たれる。端的に言えば、法術が展開される位置と、そこに向かうための道を設定する、ということだ。

 しかし空気抵抗等の影響も少なからず受けるため、必ずしもその軌道通りに飛んでくれるという訳でもない。

 これを狙った所にきちんと当てるには、その空気抵抗等の影響すらも凌駕する程にしっかりと魔力の制御が出来るか、或いはそのブレをも予測して放つか、どちらかになる。


 予測線通りに動くにせよ多少ブレるにせよ、少なからずそこまで届かせるだけの魔力制御能力は要求される訳だが。


 この予測線は、距離が離れれば離れるほど、設定が困難になっていく。視界に見える線がブレたり、途切れたりしてしまうのだ。予測線がしっかりと設定出来ていない魔法は、言ってしまえばどこに着弾するか、また爆発するかわからない爆弾を放つのと同意だ。

 中途半端な予測線の状態で放てば、狙った所に届かなかったり、距離自体は合っていても方向が違ったり、想定していた程の威力にならなかったり、様々だ。


 まあ、言ってしまえばこの予測線、仮に軌道予測演算の能力が高かったところで魔力制御能力が低ければ、飛距離は出せない。何の意味もない。



 最早言うまでもないが、魔力制御能力とは、即ち魔力のコントロール能力である。例えば武器に施すコーティング。例えば狙った位置まで魔力が弾けないようにする。例えば魔力をより圧縮する。こういったことを可能にする能力だ。これは媒体を介して放つ法撃にも関わってくる。そして、軌道予測線のブレ等にも影響してくる。



 例えばアルフ。彼は魔力量自体は凄まじく、また魔力制御能力もそこそこあるが、軌道予測演算の方を若干苦手としている。そのため、好んで法撃を用いるスタイルである。

 例えばロッティ。彼女はずば抜けて軌道予測演算の能力が高く、また魔力制御能力も極めて優秀である。だからこそ、”魔女の銀糸(メーガス・ライン)”や”三手ノ災禍(ミカヅチ)”といった非常に高度な魔法も使用出来るのだ。


 対してグレイ。実は魔力制御能力自体は悪くない。寧ろ優秀な部類だ。だが、悲しいかな、それは飽くまで至近距離に限られる。ひと度距離が出来てしまうと、途端にその精度が落ちてしまう。

 加えて、グレイには軌道予測演算の能力がまるで無い。仮に彼が遠距離に法術を放とうとすれば、最早その視界には何が何だかわからない線が出来上がったり、そもそも線が無かったり……といった具合だった。


 何が言いたいのか。簡単な話である。グレイは「自分に対して発動する法術であるならば、かなり高位の使い手」である、ということだ。

 加えて、グレイの生家であるヴェルタジオ家は、法術の名家である。特に得意としているのが、炎属性の法術と、自身に対して施す強化の法術だ。


 極至近距離でしか魔法を扱えない。より威力を出せば、より自身の身を削ることになる。

 ならば、身を護る術を身に付ける以外、他に無かった。幸いにも、ヴェルタジオ気はその方面に強い家系だった。血筋にも助けられたが、グレイは努力の末、それを獲得した。


 その結果が、この”爆散の拳(ブラストブロウ)”を可能にした。誰もが考えるだろう簡単な、しかし絶対にやろうとは思いたくない攻撃。だが、他に道はない。ならばやるしかない!

 まあ、かと言って全くダメージを受けない訳ではないのだが…。実際、もろに爆風を受けるのだし、大なり小なり傷を負う。だから、負った側から治療する。まさしく捨て身の戦法である。



 閑話休題──。



 血の滲む努力の末、そこまでのタフネス、ど根性、そして防御力を有して、そんなグレイが何故リィルの攻撃の副産物を大慌てで避けているのか。

 勿論、ごく一般的な意見として危険だから、と言えばそれまでだが、グレイなら大丈夫なのでは、という疑問もある。


 その答えは、否である。大丈夫ではないのだ。


 グレイの防御力の秘訣は、簡単に言ってしまえば、武器に施すコーティングと似たようなものである。これが結界魔法だったら、もう少しマシなのだが、肝心なのは武器に施すそれと酷似したものである、ということだ。


 あれだけ正確無比、ロングレンジの法撃を放つことが出来るということは、リィルの魔力制御能力は決して低くない。いや、高い筈だ。そして、暴発している訳ではなさそうだ。

 じゃあ何故武器が粉々になるのか──。


 その答えはわからない。だが、1つだけ言えることがある。それは、リィルの放つ魔力は、魔法に耐えうるだけの防御力を付与するコーティングを容易く破壊する性質を帯びている、ということだ。

 武器のコーティングを易々と突破する。グレイの防御力の秘訣は、その武器コーティングによく似ている。


 そう、リィルが放つ攻撃によって生じた武器の破片には、余さずその効果が付与されていると考えておよそ間違いないだろう。ならば、その破片が当たれば、グレイのそれも容易く貫通する。



 キラキラ輝いて綺麗だな、なんて呑気に眺めていたら、全身蜂の巣にされてしまう。

 苦心して身に付けた筈の自慢の防壁が、意味を為さない。その事を嘆いている場合でもない。

 一重に苦労の末手にいれた、自身とその極至近距離という限定的な条件下でのみ発揮される魔力制御能力によって燃費がいいだけで、グレイはそこまで魔力量が豊富ではないのだ。

 一見無鉄砲に見えて器用に戦っているからこそ、ここまでやってくることが出来ているが、その魔力ももうそうは残っていない。今は最低限の傷を治療するくらいにしか、回復に魔力を回していられない。


 避けなければ──全力で避けなければ、本当に死んでしまう。ヴェグナにではなく、リィルに殺されてしまう。



 だが、グレイの嘆願は叶わない。大型の一撃に27本目の武器を犠牲にした一撃を叩き込んで、またグレイが中型の1体を転倒させたことによって生じた時間によって、ようやくグレイのそばに着地したリィルは、収納から28本目の生け贄となるであろう細剣を取り出しながら言った。


「ごめんなさい。でも、私にもどうにも出来ないのよ…。普段の銃だと、足止めするには威力がちょっと足りないし……」


 やや上がった呼吸。アルフがこの場を離れる前より、その表情には余裕の色が無く、流れ落ちる汗がリィルの首元に漆黒の髪を貼り付かせている。リィルにとってもあまりいい戦い方ではないのは確かだった。ヴェグナを文字通り真一文字に斬り裂くような攻撃を連発しているのだ、相当な魔力を消費している筈だ。



 確かに魔力は、6つ存在する”魔力炉”によって、絶えず作り出され続けている。そして、作り出された魔力は”魔力の器”に蓄えられる。だが、その魔力の生産スピードは、人によって異なる。

 ”魔力の器”が小さくとも、”魔力炉”の魔力捻出スピードが速ければ、長時間の戦闘にも耐え得ることが可能だ。

 だが、通常、戦って消費する魔力を上回る速度で魔力を捻出出来るような”魔力炉”の持ち主はそうはいない。


 リィルの魔力量は、”魔力の器”が大きいからこそのものであり、その生産スピードは一般より少し速い程度。このままこの戦い方を続ければ、そう遠くない内に魔力切れを起こすだろう。



「アルフが戻ってくるまではこのまま…ってことか。生きた心地がしねぇな…こりゃ」


「せめてグレイが遠距離攻撃出来るならまだ違ってくるんだけど…」


「痛いところを突いてくれるねぇ…。ま、そいつはオレも同感だけどな。……また地面抉って投げるってのもありだけどな」


「それをされると穴ぼこだらけになっちゃって後々戦いづらくなるだけよ。砕けた岩盤がそこら中に散らばっちゃうし、足場が余計悪くなるわ」


「リィルの攻撃だけでも、だいぶ滅茶苦茶になっちまってるしな、この辺。これ以上掻き回すと首絞めるだけだわな、そりゃ」


「うっ……。と、とにかく、アルフが戻ってくるまでは何とか抑えてみせるわ。問題は……」


「その後、だな」


 実際のところ、2体のヴェグナ共に最初の頃に比べれば幾らか縮んできてはいる。だが、相対的に見れば、まだまだ巨大なままだ。もし、本当に縮みに縮んだ末に、ヴェグナが再生能力を失うならばまだいいが、そうでなければ……。

 いや、それ以前に、こんな馬鹿みたいにデカいヴェグナが縮みきるまで、戦い続けることは不可能だった。


 ちょうどそんな頃だった。


「……グレイ、とりあえずはもう破片の心配は無さそうよ」


 そう言ってリィルは、取り出したばかりの細剣をしまい、腰のホルスターから銃を抜き取った。常人ならざるリィルの魔力感知が、こちらに向かってくる魔力が感じ取ったからだ。


「ようやく戻ってきたか。ふいー……助かったぜ」


 安堵に肩を下ろし、グレイは大きく息を吐いた。とりあえず、これで仲間に殺される心配はなさそうだ。



「2人とも、無事みたいだね」


 ようやくグレイ達の元に戻ってきたアルフは、グレイとリィルを見てそう言った。


「冷々ものだったけどな」


「ごめんねリィルちゃんお待たせ! バッチリ回復したからもう大丈夫だよー!」


「おいこらロッティ、オレは? オレも待ってたんだけど」


「あ、グレイ生きてたんだー」


「……扱い酷くね…」


 もう慣れたものだから何も言わないが。

 まあそれはいいとして、と言って、グレイはアルフに視線を向け直した。


「…で、全員で戻ってきたってことは、向こうは援軍に任せた、ってことだな?」


「うん。まさかライオ達が来るとは思わなかったけど…」


 やや苦笑い気味のアルフの言葉に、あー、と相づちを打つグレイ。


「そりゃ人選ミスだな、副団長。またこの局面でなんつー奴送り込んできてんだか…」


「固まっちまったり罵声浴びせてきたり…勘弁してほしいもんだったぜ……」


 ガイルの言葉にだろうなぁ、と漏らすグレイ。目に浮かぶ。それはもう容易に。

 まあ、ライオがああもアルフに反発的な原因の一端は、実はグレイにもあるのだが。それは今は関係ない。


「ロッティちゃんは大丈夫で、アルフもまだ魔力に余裕はあるの?」


「ああ、オレは全然大丈夫だよ。けど、ガイルさんとウルドさんは魔力もそろそろ厳しいよね…」


「……ああ。情けない話だが、もう然程残っていない…」


「不甲斐ないったらないぜ…。もっとちゃんと修練を積むべきだったと、今ならそう思えるぜ…」


 ガイルとウルドの悔恨の言葉に、しかしアルフは首を横に振る。


「仕方ないよ。不死身の化け物じゃ相手が悪すぎるし。それに、寧ろオレ達が異常なだけだよ、その辺りは」


 魔力量が異常に多いアルフ。流石にアルフ程ではないにしても、それでも常人より遥かに多い魔力量のリィル。

 神業レベルで魔力調整が上手いグレイ。そして、きっての魔法の天才、アルフから魔力を分けてもらうことも出来るロッティ。

 確かにこの『勝利の御旗(フューリアス)』は、端から見ても異常だった。



「あ……。誰か近づいてくるわ。これは……」


 自身の魔力感知の範囲内に入ってきた人物の魔力を探るために目を閉じたリィル。


「この感じ……確かレーレさんかしら…」


 ちょうどその頃、ようやく起き上がった中型のヴェグナ、そして再生を終えて自分に危害を加えた人物を捜してギョロギョロと辺りを見回す大型のヴェグナに、2つの蒼く澄んだ魔力が飛来した。

 2体のヴェグナそれぞれの脚に放たれたそれは、バキキっと音をあげながらヴェグナの脚を凍り付けていく。あっという間に、巨大なヴェグナの脚が青い氷に包まれた。


「皆さん、無事のようですね」


 その魔法を放った張本人、ブロンドの髪を靡かせながら、レーレ・キャンベリアはアルフ達の前に降り立った。


「レーレさん!? ちょっ、全身血だらけじゃん! どうしたの!? レーレさんが無事に見えないよ!?」


 服はボロボロ、その綺麗な金色の髪にも、赤々とした血が所々に滲んでいる。にこやかに笑っているが、その笑みはあまりの風貌のせいで、どこか不気味なふうに見える。


「ああ、大丈夫ですよ。傷は治してありますので」


「いや…そういう問題じゃ……。でも、レーレさんがそんなにボロボロになるなんて珍しいね…。というか……ヴェグナにやられたって傷じゃないよね…それ」


 レーレの服は、どちらかというと斬り裂かれたようなものか、引きちぎられたような感じの跡が見てとれた。どうにもヴェグナの爪や炎でついたものとは思えない。


「うふふ…あなた達の真似をしてみたのですけれど…存外難しいものですね。でも、幸運でした。お陰で間に合いましたし、それに手も足も飛ばずに済みましたから」


「……」


「……」


「……」


 ガイルとウルド、そしてリィルは、『勝利の御旗(フューリアス)』──もとい『苛烈なる問題児達(フューリアス)』の常識はずれの移動方法(エアリアル・レイド)の光景を思い浮かべた。

 一歩間違えれば即爆散。掠りでもしたら即切断。自発的に使いたいとは到底思えない、あのふざけた移動方法。それをやってここまで来たというのか、この女は。


「ああ、私だって、出来ればやりたくなかったんですけれど、団長の命令でしたから。流石はあなたの叔父様ですね」


「叔父さん……」


 どこか含みのある笑みでアルフを見るレーレに、アルフは若干申し訳ない気持ちになった。流石のアルフも、自分達でやるならともかくとして、それを他の人に強要する気は毛頭ない。

 危ないのだ、あれは。本当に。

 じゃあ何で自分達はやっているのか。決まっている。それは一重にロッティとグレイのせいである。



「それよりも、まずはあれをどうにかしなければなりませんね…。相当魔力を練り込んだので、脚を自分で燃やすでもしない限り、そうそう溶けることはないと思います。今のうちに、こちらで魔力を回復してください」


 レーレが収納魔法によって取り出したのは、ちょうど人の顔1個分くらいの大きさの、青白く輝く水晶玉だった。


「レーレさん、それは?」


「ああ、アルフ達が知っている訳はないですね。これを知っているのは、結界魔法の担当者と、騎士団長クラスの一部の人だけですし。これは『アウラノグラス』。『アウラノ結晶』の上位版、とでも思ってくださいな。一斉にで構いませんから、これに手を(かざ)してくださいな。これ1つで、小さい結界魔法くらいなら丸1日以上展開出来る代物ですよ」


「そんなものあったの!? それを騎士みんなが持ってたら、魔力切れの心配もないのに…」


 言われた通りに手を翳しながら、アルフはそう言葉を口にした。『アウラノ結晶』からのそれよりもずっと早いスピードで、魔力が回復していく。そして、同じようにレーレの指示に従う一同は、皆そう思った。

 確かにこれがあれば、どれだけ窮地を脱する可能性が高まることか。魔力が存分に回復出来るというだけで、生存率はグッと高くなる。魔力さえ回復すれば、攻撃も、防御も、回復も、逃走だって可能になる。1騎士に1個とまではいかなくても、1チームに1個あるだけでいい。



「それはそうなのですけれどね…。実はこれ、街の結界魔法に試験的に使用されているのですが、まだまだ課題も山積みなんです。それに、1つ作るのにも相当な手間と費用が掛かるので、普及させる、というのは難しいでしょうね…」


「ど…どれくらい値が張るんだ…?」


 思わずそう言ったガイルに視線を向けるレーレ。(さき)のライオからの対応が、その脳裏を過る。あれが当たり前の反応だ。

 昼頃に会ったレーレは確かに今のように柔らかな笑みを浮かべていた。(血塗れではなかったが)

 だが、それはガイルとウルドが直接レーレと話した訳ではないからだ。彼女の笑みは、きっとアルフ達に向けられていたもの。


 わかっている。自分達はそうされて然るべき罪を犯した。自分達のせいで、レーヴェティアは危機に陥った。

 わかってはいる──。だが、頭ではそう理解していても、心まではそう判断してくれない。怖かった。どんな反応をされるのか。


 背筋をつーっと、冷たい汗が流れる。そして、レーレのその笑みに、若干の冷たさが広がった。


「そうですねぇ……。あなた方に与えられると約束されていた報酬と同じくらい…でしょうか」


「うっ…」


 その言葉に、顔をしかめるガイル。これに耐えていかなければならない。もしかしたら、これからずっと、こういった蔑むような目を向けられ続けるかもしれない。

 だが、それでも、もう道を踏み外したくない──。ラーノルドの温情に、アルフ達の優しさに、精一杯応えなくてはならない。

 だから、言葉に詰まりながらも、ガイルはレーレから視線を逸らさなかった。そして、言葉にこそ出さなかったが、ウルドもまた同様だった。


 その2人の対応をスッと目を細めて見て、それからレーレは元の柔和な笑みに表情を戻した。


「うふふ、ちょっと意地悪が過ぎましたね。申し訳ありません。お二方共、これから大変な事も多いと思います。心無い言葉を受けることもあると思います。けれどどうか、心を折らないでください。あなた方が誠実である限り、私も団長も、アルフ達も、あなた方に手を差し伸べます。そして、きっとそれは、他の方々も、いずれは。だから頑張ってください」


「……」


 言葉は出なかった。ただ、うっすらと歪む視界をキツく瞑り、2人は何度も頷いた。

 ただ、最後にレーレはまた、意地悪をする。


「ただ、あなた方が不誠実であれば、私の出番も出てくるかもしれませんね。どこかの問題児さん達のように」


「「「「うっ……」」」」


 今度はアルフ達が言葉に詰まる番だった。



「さて、皆さん魔力の方はそろそろ大丈夫ですね。本題に入りましょうか」


 そう言ったレーレに、皆一様に頷いた。話が逸れて助かった、とアルフ達は心の中で思っていた。


「ヴェグナ、それからレーヴェティアの状況について、どの程度の情報を得ていますか?」


「まず厄介なあの炎。それから、ヴェグナの再生能力は、再生にともなって、その個体にとっての損傷範囲に応じて身体が縮んでいく。だから、可能性としては再生に限界が訪れる、っていうのがある。…で、ライオから聞いた話だと、冥力と消却魔法が有効ってこと、くらいかな。実際、レーヴェティア周辺に出てきたヴェグナは、セリアさんが消却魔法で倒していってるってライオが」


 アルフは、リィルとグレイに説明するように視線を配りながらそう話す。実際、リィル達はアルフをロッティの元に送るために奮闘してくれていた。『魔導式情報端末(テレサ)』を確認している暇などなかっただろう。


「冥力……。それに、消却魔法……」


 リィルがアルフの言葉に、眉を寄せながらそう呟いた。無理もない。どちらもその存在すらも怪しい程のものだ。


「ということは、概ね状況は理解できていますね?」


「うん」


「……この『アウラノグラス』の魔力が尽きねぇ限りは、あの炎に焼かれたり致命傷を負わなけりゃ戦える。が、冥力は論外として、消却魔法が使えるのは団長とセリア婆さんくらいだから…どっちかが来るまで耐えるってのが建設的、って感じか」


「街の方には12体ヴェグナが出現していますし、セリア様は難しいでしょう。団長も超大型のヴェグナと交戦中ですし、コーザル達を捕らえている状況です。流石に団長でも、2人を連れてエアリアル・レイドは出来ないでしょう。ですから、かなり時間が掛かると思います」


「んー、あの人達置いてくる、っていうのは難しいのー?」


「副団長が言ってたじゃん。『鎖霊の首輪(リーター・チェイン)が効かないって。あの2人もヴェグナを喚び出せるのかもしれない。それに、もしかしたら、特別ヴェグナを喚び出すための適性が高い、って可能性もあるね…。何にしても、放置は出来ないよ」


「うぅ…そう言えば……」


「ええ、アルフの言うとおり。飽くまで危惧、といった段階なのですけれど、もしそうだったなら、団長がいなくなった場合、結果班の皆さんだけでは厳しいでしょう。何にしても、私がここに来た以上、団長が1人でヴェグナと戦っていることに変わりはありません。消却魔法は発動までに時間が掛かりますし、どうあっても時間が掛かる、というのは相違ありません」


「……レーレさん、1つ、試してみたいことがあるんだ」


 やはりラーノルドがこの場に来るまでには相応に時間が掛かる。そうレーレの言葉を聞いたアルフは、そう切り出した。


「…アルフ、アレ(・・)をやるつもりなのですか?」


「…うん。あれなら、可能性はあるでしょ?」


「……確かにそうですけれど。でもアレはアルフ、あなたに大きな負荷が掛かるでしょう?」


「な、なあアルフ、さっきから言ってるアレ(・・)って、どんな魔法なんだ? 本当に、あいつ等を殺れんのか?」


 ガイルの言葉に、その場の者達の視線がアルフに向く。アルフは、しばらくの間を置いて口を開いた。


「倒せるかどうかは…正直わからない。けど、少なくとも相当削れる筈だよ。何せ、アイゼント流刀剣術の、奥義だからね」

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