22 一筋の光
「ふむ……これは。そういうことかの…」
「…そのようですね、師匠」
レーヴェティアの街を中心にして10時方向。今回のヴェグナ戦線においてはJ地点と呼称されるそこでは、1人の老人を中心に、刀、或いは剣を構えた者達が、ヴェグナと対峙していた。
街から引き離すことには、既にどこの戦線も成功している。だが、倒したという報告は、どこからも未だ上がっていない。
レーヴェティアの西側、南側は、出てすぐの辺りは森林が生い茂っている。その中でも西側は、しばらく進むと木々は少なくなっていき、広大な平原が姿を現す。アルフ達がエアリアル・レイドによる移動を開始したのも、この森を抜けた後だった。
J地点の戦線を任されているのは、アルフの刀剣術の師匠──マキナ・アイゼントである。彼が引き連れているのは、アルフと同門の、兄弟子に当たる者達だ。J地点は既に平原地帯まで差し掛かっており、ヴェグナの出現位置自体がレーヴェティアより少々離れていた、というのもあるが、ヴェグナの進行を大きく後退させたと言える。
一度攻撃の手を休めたマキナの呟きに、弟子の1人が肯定の意を示した。
「あいつ、微かですが縮んできてますね…」
「うむ。どういう理屈かはわからぬが、どうも失った部位を再生する毎に身体がほんの僅かずつ縮むようじゃのぅ。なれば、あのクリスタルを砕かずとも、或いは奴を仕留めることが出来るやもしれん…。他の団長達はどう思うかの?」
『どうやらそのようですな…マキナ殿。確かにこちらでも縮んできているようには感じられる』
真っ先に『魔導式情報端末』から返ってきた声は、レーヴェティア騎士団前団長のヴァン・アールズのものだった。
『へぇ。ってぇことはよ、ヴェグナのあの不死身に思える再生能力にも、限界は存在する、って考えていいってこったな!』
『つまりはダメージを与え続ければ、いずれは…ということだね。しかし、それでもどれだけ掛かることやら…』
威勢の良い声はレーヴェティア西騎士団団長──フィールのものだ。そして、その後に返ってきた嘆息の色を孕んだ声は、レーヴェティア騎士団副団長であるレオだ。
レオの意見は尤もだった。何分ヴェグナは巨体だ。レーヴェティア周辺に現れたどの個体も、20メートルは越える大きさだ。そして、縮んだと言っても、僅かに一回り小さくなったと思える程度だ。
そこまでに費やした時間は、既に各団長達が戦闘を開始してから、早くも20分は経とうとしていた。
『私はやはりあのクリスタルを砕く、というのが一番早そうにも思えますが…そちらは誰か試せてはいませんか? 私の方ではそれを傷つけるには至れていませんが…』
響いてきた声は、聞くだけで柔和な性格だろうことが窺える柔らかな声質だった。レーヴェティア北騎士団の団長、ティアナ・アルジェントのものだ。
「それはワシも思うたのじゃが、残念ながらそれは難しそうじゃ。こちらでも試してはみておるが、まるで歯が立たぬ。恐らくは通常の魔法で砕くのは無理だろうのぅ…」
『となると、やはり再生が出来なくなるまでのダメージを与え続ける以外に方法はない、か…』
東騎士団副団長のニコラスがそう言葉を漏らす。誰しもがそれしかないと思っていたが、やはりそうだとわかると、どれだけの労力が要るのかを考えてしまう。
この状況に嘆きの声が漏れるのは、無理もない話だった。
『……なあ、あいつの再生が追い付かないくらい身体を消し飛ばす、ってぇのはどうだ? 例えあのクリスタルが壊せなくたって、全身隈無く余すところ無く吹き飛びゃ、再生できなくなるんじゃねぇか?』
フィールの言葉は、実は誰もが案が得ていたことではあった。しかし、20メートルを凌駕する巨体を消し飛ばすとなると、それだけ大規模な魔法を使用しなければならない。
敵が再生能力を有していて尚且つ明確に限界値もわからない状態で闇雲にそれを行うことは、明白なリスクであった。
「ふむ…試してみる価値はありそうじゃの…」
しかし、そうは言っても、試す価値がないのかと問われれば、そう無下にしたものでもない。マキナは弟子達にハンドシグナルで攻撃を止めるよう、合図を出す。それを期に、それまで攻撃を続けていた弟子達は手を止めた。そして、跳躍してヴェグナの近くまで行き着いたマキナが、刀を握っていない右手に、魔力を集中させていく。作り出されたそれは、新緑の光を放つ風属性の魔力の球体だった。
それを見た弟子の1人が、その場に居合わせた門下生以外の者達全員に聞こえるように大声を張り上げた。
「ぜ、全員攻撃を中止して後退しろぉ!! 巻き添えを食うぞッ…!!」
マキナの弟子達は、マキナが何をするのか、もう理解している。しかし、他の援護を行っている者達はそうではない者も多い。事実、中には首を傾げる者もいた。だが、その険しい表情と声色から、とんでもない攻撃が始まるだろうことを悟り、全員が大きく後退する。
しかし、マキナの手に集められた魔力は、どうにもそれ程の脅威を感じるには至らず、知らぬ者からすれば、「あの程度の魔力なら、そこまで離れる必要はないんじゃ…」と思えた。だから、これからマキナが放つだろう技の恐ろしさを知っているのは、門下生達と、その技を見知った者達だけであった。
次いでマキナが行ったのは、ひょいと小石を投げるような動作だった。下投げで放たれた新緑の魔力は、特段速いわけでも、多量の魔力が圧縮されたわけでもない。その大きさだって、掌大だ。
しかも、それはヴェグナに向かって飛んでいってはいるが、その軌道は直撃しないだろう、ヴェグナの頭上に向けられていた。
そして、とうとうそれはヴェグナを通り越して、その頭上へと差し掛かった。その場に居合わせた、それを知らぬ者達は思った。外したのか、と。
しかし、その瞬間、風の魔力は花火のように爆散した。まるで桜吹雪のように、細かくなった無数の魔力がヴェグナの辺り一帯を包み込むように降り落ちてくる。
その美しさに見とれた刹那、瞬きの間に、マキナ・アイゼントの姿は忽然と消えていた。
気がついた時には、マキナの姿はヴェグナのうなじの辺りにあった。そして一閃。ヴェグナの首の骨がずれ落ちる。既に斬られていたのだ。刀身を包むは、炎と風の魔力。炎が焼き付くし、そしてあまりの速さ故に生まれた真空の刃が斬りつけ、その真空に引き寄せられた周囲の空気によって穿たれ──。
またも、その場の者達はマキナの姿を見失う。いつの間にか、マキナはヴェグナの左脚の上にいた。そして、うなじから足元にかけて、斬撃の閃光が瞬いた。
気づいた時にはその姿は消えていて、気づいたときには斬っている。驚愕の速度をもってして、無数の斬撃がヴェグナを襲った。再生を繰り返すヴェグナの身体を、治った側から斬り裂いていく。
やがてヴェグナの周囲に幾重も魔力の軌跡が出来上がっているのに、周囲の騎士達は気がついた。
それは、マキナが移動する際に残る、脚に込められた風属性の魔力が残す彼が通った場所の軌道。そして彼が敵を斬り付けた一太刀の跡。彼が姿を消し、現す度に、それが増えていく。その軌跡がどんどん濃密になっていく。最初は空から舞う点があるだけだった。次第に線が見え、そして幾度となく斬り結ばれた線が面になる。
その頃には、既に100に近い数の斬撃を浴びせた後だった。まるで何かを待つかのように、魔力の軌跡は静かに音を上げてそこに存在していた。
最後に、一際強い魔力が込められた斬撃が、ヴェグナを襲った。
それによって堰を切ったように、それまでただの軌跡であった新緑と赤色の魔力の跡が、急速に動き出す。
それは、激しく燃え盛る業火を伴った風の暴力だった。上に、下に、右に、左に。様々な方向に向かおうとする風の魔力が、互いに反発し合い、奪い合うようにヴェグナの身体を引き千切り、そしてそれに乗せられてやってくる紅蓮の炎が燃え盛り、或いは爆発を巻き起こし、その身体を焼き焦がす。反発し合いながらも、一点を目指して進む風属性の魔力。
やがて、それは濃密な魔力の塊と化し、そして次の瞬間、火山の噴火すら連想させる勢いの激しい爆発が巻き起こし、巨大な炎の竜巻へと姿を変え辺り一帯を焼き尽くす。その爆風だけでも、遠く離れていた筈なのに体勢を崩しそうになる者もいた。
圧巻の威力。天を焼き尽くさん勢いで燃え盛る炎の竜巻が、ヴェグナの身体を今もなお包み込んでいる。
最早、ヴェグナの再生速度を遥かに凌駕する攻撃密度だった。その薄皮は儚くも一瞬で燃え付き、骨すらも容易く千切られ、灰と化す。
紅蓮の竜巻が消えた後に残ったのは、花びらのようにキラキラと宙を舞う火花と、そして空中に浮かぶ歪なクリスタルのみ。それ以外のヴェグナを構成していただろうものは、灰すらも残さず消え失せていた。
「ふむ…”桜火”でもあれは壊せなんだか…。それに……」
そう呟いてマキナは離れていた弟子達の前に降り立った。
アイゼント流刀剣術連系二式──”桜火”。前に放たれた風属性の魔力がバラけたそれらは、言わばポインターであり、ポインターからポインターへと移る度に斬りつける、というものだ。勿論ポインターと言っても、ワープしているというわけではない。単にポインター間を高速移動しているだけである。乱暴な言い方をすれば、ポインターは次のポインターに向けて加速をつけて飛び出させる、単なる足場である。むしろ、ワープができるのであれば、今ごろ『転移魔法陣』等という代物は地上の至るところに存在しているだろう。
「…喰らってしもうたか。ワシも老いたのぅ…」
小さな声で、マキナはそう呟いた。それが聞こえた者はいなかった。
マキナに師事する弟子の中でも、この技を習得するに至った者は未だいない。要求される魔力量と、そのコントロール技術が非常に高いからだ。
ポインター間を移動する際には足に爆発的に風属性の魔力を、そして斬りつける際にはそれ以上に多量の、それも炎と風の2属性の魔力を展開しなければならない。
そして最大の肝は、この技は魔力の制御、タイミングを誤れば、自身をも巻き込んでしまうということだ。
多くの技を有するアイゼント流刀剣術の中でも、連系と呼ばれる技は、一際難しい。
それだけに、歪んだクリスタルのみとなったヴェグナの姿を見たときに歓喜の声をあげそうになった。だが、そこではたと気づく。
クリスタルは、未だに不気味な鳴動を続けている、ということに。
鼓動に合わせて妖しく明暗を繰り返すクリスタルから、暗黒色の光が伸びていく。最初に胴体が、そして頭が、腕が、脚が、瞬く間に修復されていく。
「あれでも…倒せないのか」
弟子の1人が、そう言葉を口にする。その言葉が終わった頃には、ヴェグナの身体は完全に修復されていた。
「……駄目じゃったわい。クリスタル以外消し飛ばしてはみたが、復活しよった。目に見えて縮みこそしたものの、やはり叩き続ける以外ないかもしれんのぅ…」
胸に付けたホルスターに取り付けられた『魔導式情報端末』に向かってそう呟きながら、マキナは小さく息を吐いた。その時だった。援護を担当していた者の1人が、双眼鏡を片手に大慌てで走ってきて、息も絶え絶えこう言った。
「マキナ様! クリスタルに僅かですがひび割れができています!」
「何じゃと? ……そうか、そういうことか。ありがとう」
しかし、そう言ったマキナの表情は険しいままだった。
『クリスタルにひび割れ……。と言うことは、マキナ殿の攻撃があれを僅かながら砕いた、ということか?』
聞こえてきたヴァンの言葉に、マキナは目を細くしながら左手に握った刀を握り直した。まるで何かの感触を思い出すように。
「……否、ワシの刀が砕いた、という手応えはなかったのぅ。じゃが、確かにあれはワシの攻撃の結果付いたものに相違あるまい」
『…あ? どういうこったじいさん。なんだ、耄碌したか?』
『おいフィール! 失礼だぞ!』
娘を咎める父親の怒声に、しかしマキナは笑って言葉を紡いだ。
「いやいや、フィールの言うとおり、情けない話じゃが、ワシも歳じゃな。”桜火”の際に、ヴェグナが漏らした炎に腕を焼かれてのぅ。”時間超越”が発動してしまったようじゃ」
『じいさん…そんなもん持ってたのかよ…』
『あんたのそれは攻撃に類するものじゃないだろう? それが一体どう関係するんだい?』
『……いえ、違うわジーナ。”時間超越”が発動したということは、冥力が使われた、ということよ』
ジーナの問いに答えたのは、法術の天才──セリア・エグバートだった。数多の法術の知識を持つ彼女は、使用出来るかは事を置くとして、特殊魔法についても精通している。そして、マキナの言う”時間超越”とは、特殊魔法の中でも一際異端の代物だった。
『冥力…? なんだそりゃ?』
聞きなれない単語に、フィールが疑問の声をあげる。実際に声を上げたのはフィールだけだったが、この通信を行っている者の中にも、実はそれを知らない者はいた。流石は斬り込み隊長、と心の中でそう言ったのは、他ならぬ彼女の父エルネスだった。
『特殊魔法の中でも、”時間超越”は群を抜いて特異な魔法。それは知っているわね?』
『ん、ああ…。なんかこう、時間を操るんだろ? んで、使える奴は滅多にいない…ってくらいしか知らねぇな』
『そう、”時間超越”は、時間に関与する事柄に干渉する魔法。6属性のどれにも該当しない、極めて稀少なものよ。そして、仮に使えるからと言って多くの事が出来るかと言うと、それも違う。”時間超越”は、人によって異なったもので、なおかつ1つのことだけなの。例えばマキナのそれは、死んでいない限り、自身の肉体が負った傷を負う前の状態に巻き戻すもの』
『……不死身じゃねぇかよ』
「ところがそうもいかんのじゃよ。”時間超越”は肉体に掛ける負荷が極めて高い。今のワシじゃと1日にせいぜい2回使えればいい方じゃな」
『おい! 貴重な1回がもう無くなってんじゃねぇか!』
フィールの言葉に苦笑を漏らすマキナ。そう、本人も意図せず、無意識に使ってしまっていたのだ。ヴェグナの炎が危険であることを知ったこと、そして、実戦において傷を負うことが久しかったことが、誤発動を招いてしまったのだった。
『…話を戻すわね。この時間の流れにさえ逆らう事が出来る魔法──”時間超越”は、実は魔法と言いながら魔力によって発動するものではないのよ』
『…それが…冥力……と呼ばれる力なのですね?』
セリアの説明が一息ついたタイミングで、ティアナがそう口にした。端末からは、ええ、と肯定を指す言葉が返ってくる。
『んー…。で、結局それがヴェグナのクリスタルのひび割れとどう繋がんだ?』
『”時間超越”を発動している間、発動者はその冥力を引き出している状態になる。そして、時間の流れに逆らうそれは、詰まるところ現実そのものに歪みを与える力なの』
『……もう少し、わかりやすく頼んます。あたしそういう回りくどい言い方だとよくわかんねぇや…』
『…つまり、マキナ様が”時間超越”を発動した時、マキナ様の周囲もその冥力の影響が及ぶ状態だった、ということでしょうか?』
『あら、ティアナは理解が早いわね。エルネス、もうちょっとちゃんと教育しなさい? …ともかく、今ティアナが言った通りよ。マキナの”時間超越”は、「自身の負傷を巻き戻す」もの。だから”時間超越”自体の効力は、マキナ自身にしか及ばないわ。けれど、引き出された冥力が巻き戻しに必要なエネルギーを越えていた。そのため、巻き戻しの効果範囲周辺には、余剰に引き出された冥力があることになる。その冥力が、攻撃の際に魔力と一緒に刀を伝ってヴェグナに流れ込んだ。それが動力たるクリスタルに及んだ結果、傷が入った。こんなところだと私は考えているわ』
「うむ、ワシもその考えじゃ、セリアよ。奴のクリスタルは、確かに冥力で破壊することが出来るようじゃのぅ」
『お、ってことはだ。じいさんなら、ヴェグナをささっと片付けられるってことか!』
それは、レーヴェティア騎士団にとって、吉報であった。不死身の化け物。チマチマと削っていくか、消えるか待つしかないと思われたそのヴェグナに対して、有効打が見つかったのだ。
騎士達が歓喜の笑みを浮かべたのも、無理はない話だった。だが──。
「フィール、残念じゃが、事はそう上手くいかんのじゃ」
『……あ?』
『マキナ殿、詳しくお聞かせ願いたい』
フィールの疑問の声に続いて、端末から前団長であるヴァンの冷静な声が聞こえてきた。だが、ヴァンとて人間だ。暗雲立ち込める暗闇に差した光明に、期待を持ったのも事実だった。故に、マキナの否定の言葉の真意が聞きたかった。
「…冥力はの……”時間超越”でなければ引き出すことが出来んのじゃよ」
『……ってことは、つまり…』
「うむ、ワシはあと1回しか冥力を扱えないのじゃよ。その上、ワシの”時間超越”は負傷の巻き戻し。直接的に攻撃に関与するものではない。じゃから、仮に最後の1回を全力で行って冥力を引き出したとしても、恐らくあのクリスタルの破壊には到底及ばぬじゃろうな…。そして、ワシの知る限りレーヴェティアで”時間超越”を持つ者は、他にはおらん」
『があーーー! 結局はあいつが消えるか再生出来なくなるまでやるしかねぇってことかよ…!』
フィールの悲嘆の声が虚しく響く。音声を聞く機能を与えられた端末を有する騎士達の顔にも、大きな落胆の色が浮かぶ。元々そうなるだろうとは思っていた。けれど、一瞬とはいえ、光を見てしまったがために、再び闇に落とされた絶望は深い。
マキナの”桜火”──あれほど激しい攻撃を受けても、ヴェグナの大きさはまだまだ巨大だ。
騎士の多くは考えていた。このままではレーヴェティアが危ない、と。
命を賭すことを躊躇する者はいない。だが、仲間が、愛する家族がいる街に災厄を振り撒く化け物に傷を負わせることも出来ぬまま死ぬことは、辛酸を舐める思いだった。
そして、このままいけば、そうなるだろう可能性があることが考えられた。
戦えば、魔力を消費する。そして、魔力量には、それぞれ量に違いはあれども限界は存在する。
そして、魔力が無くなれば、魔法は使えなくなる。
ましてその主戦力たる団長達に万一のことがあるか、或いは魔力切れで戦えなくなるかすれば、ヴェグナの進行は再びレーヴェティアへと向くかもしれない。
つまりこのヴェグナとの戦いは、ヴェグナが消える、ないしは再生不可の状態になるが先か、こちらの戦力が途切れるのが先か、というものだった。
ヴェグナが強いとか、吐き出される炎が厄介であるとか以前に、根本的で致命的な問題があるのだった。
だが、自分の生きている間、街に手出しをさせるわけにはいかない──。
騎士の多くがそう考え、苦渋の表情を浮かべる中、再びその暗闇に光が差した。
『──いいえ、冥力で傷がついたということがわかっただけでも十分よ。1つ、試してみるべき魔法が出来たわ』
その光明は、セリアの言葉だった。
『どういうことです、セリアさん』
戸惑いを含んだ声色で、レオがそう言った。問いにしたのはレオだったが、言葉を聞いていた全ての騎士が、セリアの次の言葉を固唾を呑んで待っていた。
『──消却魔法よ』




