告白
「───愛奈。暑くないの?」
「え?何が?」
そう言われ、私は袖の部分を更に引っ張る。
「こんな真夏に、長袖なんか着て。」
「うーん、焼けたくないからかな?」
その言葉に、その人も納得したようだ。
そんな訳無いでしょう…?
誰か
助けてよ───。
さっきまで遊んでいた子どもたちは、どこに行ったのだろうか?
ベンチに座る私たちを包むのは、静寂ばかり。
「───ごめん。」
その静寂を破ったのは、柳田くんだった。
「…へっ!?い、いや!謝るのは私の方で───」
「──良いから聞いて?」
柳田くんは、ギュッと私の手を握り、前を向いたままそう言う。
その手から、緊張と温もりが伝わり私は言葉を飲み込んだ。
[ココロside]
寺岡さんに聞いてもらうために、手を握ってしまったが、効果はあったようだ。
俺は、フゥ…と一息つくと話を始めた。
「…波奈のこと気にしてたよね…?」
いきなり波奈のワードが出てきたことで、寺岡さんは勢いよくこちらを向いた。
「…波奈は、俺の妹なんだ。」
「…え?い、妹さん…?」
「うん。」
寺岡さんの方を見ると、気まずそうな顔をしていた。
「…私…妹さんに…嫉妬してたんだ…。」
顔を真っ赤にして俯く寺岡さん。
俺は、フッと笑った。
「───もう死んじゃったんだけどね。」
[アイナside]
私は思わず耳を疑った。
もう…死んじゃった…?
柳田くんの方を見ると、また前を向き遠くを眺めていた。
「…自殺だったんだ。」
…自殺…。
「…酷い雨が降ってる日だったよ。傘忘れてたから、全身びしょ濡れでさ、お風呂に入ろうと思って。
扉を開けて飛び込んできたのは、とにかく赤。赤。赤。
浴槽に張ってあるお湯も、床も、波奈も、真っ赤だった。
俺が、救急車を呼んだときにはもう…。」
手を握る力が強くなる。
「…波奈は…ずっと苦しかったんだ。
その苦しさを一番理解してて
支えてるつもりだった。
でも、つもりなだけで…全然支えられてなかった。」
弱々しく呟く柳田くん。
私は、何も言えずにいた。
知りたいと言って、逆に柳田くんを傷つけている
そんな気がしてならなかった。
「…俺たちさ、母親から虐待受けてたんだ。」
「…え…!?」
追い討ちをかけるようなその言葉。
私の胸が酷く締め付けられる。
「母は、俺たちの事を子どもだと思ってなかった。
アンタたちなんか産まなきゃ良かった。
これが口癖だったな。
俺の生きがいは波奈だった。
波奈の幸せが俺の幸せだった。
でも、その生きがいを無くした俺は…
何も無くなったよ。
ひたすら無。無。無。
何てつまらない世の中なんだって思った。」
「…だから…人の事を好きになれないんだね…?」
恐る恐るそう聞くと、柳田くんは小さく頷いた。
「愛情が何か分からないんだ。
だから人を好きになれない。
人を好きになるってことが分からない。」
寂しげにそう言った柳田くん。
「…柳田くんっ…!!」
私は、柳田くんの真正面に立った。
「…嫌なこと思い出させてごめんなさいっ…。
嫌なこと話させてごめんなさい…。
でも、話してくれて…ありがとう…。」
私は、少し近づくと柳田くんの目を真っ直ぐ見つめた。
「…私は…好きだよっ…?」
今の精一杯の気持ちだ。
さっきの話を聞いて、より自分を好きになって欲しいと思った。
人を愛することの幸せさ。
人に愛されることの幸せさ。
全部、私が教えてあげたい。
柳田くんを幸せにしてあげたい。
「柳田くん。私は柳田くんのこと、好きだよ。」
すると、柳田くんは私の腕をグイッと引っ張り
強く抱き締めてくれた。
突然のことに、思考回路は停止。
「…ごめん。今だけ。」
そう呟いた声は酷く震えていた。
「…俺に教えてくれるんだよね?好きになるってこと。」
「…う、うん…。」
「これからは、側にいて教えてくれる?」
「…へっ…!?」
「…寺岡さんなら、俺を変えてくれると思う。」
私の頭はついていかない。
"これからは、側にいて教えてくれる?"
「───改めて俺に恋を教えてくれますか?愛奈さん。」
「…もちろん。」
「───俺と付き合ってください。」




