揺れるココロ
「───可哀想にね。」
「自殺だったそうよ。」
「まだ若いのに…。」
「酷い話よね…。」
うるさい。
そんなこと誰一人として、思っちゃいないだろ…。
良いから少し黙っててくれよ。
俺は遺影を抱きながら、必死で涙をこらえる。
大嫌いだ。
こんな世の中なんて。
大嫌いだ。
こんな人間なんて────。
「───なるほど。それで、1週間も口聞いてないんだ?」
今日は土曜日。
琥珀の家に呼ばれ、ご飯を食べているところだ。
「…まぁ、全部俺がまいた種なんだけどな。」
食べ終わった器を、机に置き俺はため息をつく。
「…まぁ、波奈ちゃんのことはなー…。なかなか話せねぇだろ。」
琥珀も、ソファーに深く腰掛け、ため息をつく。
「…寺岡さんと知り合った日から、毎日波奈の夢を見てるんだ。」
その言葉に、琥珀は少し身を乗り出す。
「へぇ?そんなに似てるのか?…うーん。まぁ、確かに、似てるといえば似てるかなぁ?」
「…何かのメッセージなんじゃないか?って、勝手に思ってるんだけどな…。毎回、うなされて目が覚めるもんだから、俺も困ってるんだよ。」
「…んー。話してみろって事なんじゃねぇの?」
琥珀の言葉に、俺は目を見開く。
「波奈ちゃんから、その人になら話しても良いよ。って伝えられてるんじゃねぇの?まぁ、分かんねぇけどさ。」
「…話す…か。何か、今さらって感じもするけどなぁ…!!」
俺はうーんと伸びをする。
あれから、寺岡さんとは目も合わなくなった。
近藤さんと少し話をする機会はあっても、寺岡さんとは全く話をしていない。
今まで、追われることしか無かった自分が、今は一人の女の子を気にかけている。
面白い話だ。
それも、やっぱり波奈と似ているからなのか?といえば否定は出来ない。
はぁ…。
もう俺のことなんてどうでも良くなったのかなぁ?
どうでも良くなったよなぁ…。
[アイナside]
「…アンタねぇ…いつまで意地はってんのよ…?」
文香にその話をされ、ビクリとする。
『…どんどん聞いてって。言ってたのに。
人を好きになれないって言ってたのに…。
嘘つき。』
あの日の自分の言葉を死ぬほど後悔している。
そりゃ、柳田くんと知り合って間もないんだから、言えないこともあって当然じゃんかぁ…。
なのに、女の子の名前に嫉妬して「嘘つき」??
あああああ!!絶対に嫌われたよおおお!!!
もう1週間も話してないし、とうとう私の恋も終わりだよおおおお!!!
「──ちょっと!バカ愛奈!!!!」
バンっと机を叩く文香。
「はいっ!?」
私はほぼ反射的に返事をする。
「ほら、出掛けるわよ。」
「え?出掛けるって…どこに?」
「決まってるでしょ!?柳田のところよ!!」
当たり前のように言う文香。
「えええええ!?無理無理!!絶対に無理だよ!!」
私は手でバツを作り、思いきり否定する。
「何言ってんの!?アンタそう言って柳田とずっと話さないつもり!?そんなんで良いの!?告白しに行った時の行動力はどこに消えた訳!?」
「でっ…でもぉ…。」
文香は、私の言葉に深くため息をつく。
「分かった。アンタの柳田への想いはそんなもんだったってことね。だったら、さっさと他の男でも見つけなさいよ。あーあ、本当に呆れた。」
文香の言葉に、私はハッとする。
桜舞い散る季節。
あなたを見つけた。
あなたは、舞い散る桜を儚そうに見つめていたよね。
その表情があまりに切なくて
あまりに美しくて
一瞬でココロを奪われてしまったんだ。
世間ではこれを、"一目惚れ"って呼ぶのでしょう?
そう。
そんな一瞬の出来事で
私はあなたに 恋をしました───。
「───行くよ。」
私の言葉に、文香はニヤリと笑う。
「柳田くんに会って、ちゃんと話してくる!!」
[ココロside]
「…あ、ごめん、電話だ。」
琥珀がポケットから携帯を取り出し、そう呟く。
「あ、気にせず出れば?」
「待って。文香ちゃんからだ。」
その人物に二人して固まる。
これは、何かある。
とりあえず、スピーカーにして、通話ボタンを押した。
繋がった瞬間、俺たちの間に変な緊張感が走った。
『…あ、も、もしもしっ…?』
その声に、二人して固まる。
琥珀は、俺の方をゆっくりと見てきた。
そして、俺の心臓は半端ない速度で動き始める。
「もしもし!?愛奈ちゃんだよね!?久しぶりじゃん!!」
『あ、文香の携帯からかけちゃってごめんね…?私、永瀬くんの番号知らなくって…。』
「全然良いよー!!また、教えてね!」
『あ、も、もちろん!!』
久しぶりに聞いた、寺岡さんの声は酷く震えていた。
電話越しでも、緊張が伝わってくる。
「で?どうしたの?」
琥珀が本題を切り出す。
『・・・・。…あのっ、私っ…柳田くんに酷いことしちゃったんです…。』
その言葉に、俺は目を見開いた。
酷いこと…!?
酷いことしたのは、俺の方だ…!!
『でも、私が意地張ってて…ずっと謝れなくて…柳田くんに会って謝りたくて…だから…その…柳田くんの居場所、教えてくれませんか!?』
思わず、声を出しそうになった俺の口を手で塞いだ琥珀。
「そっか!!心結はねー…今、一緒にいるよ。」
『…えっ…!?』
「心結も話したいことあるらしいしさ、俺のマンション覚えてる?下で待たせとくから、おいでよ!何だったら、迎えに行くよ?」
俺の頭が追い付かない内に、話はどんどん進んでいき、琥珀は寺岡さんたちを迎えに行ってしまった。
マンションの下で、何度も行ったり来たりして落ち着かない。
それから、15分経って、琥珀の車が帰ってきた。
そこから、寺岡さんが降りてくる。
「…柳田くん…。待たせて、ごめんね?」
「いやっ、全然。…近くに公園あるから…行こっか。」
俺がそう言うと、コクりと頷き歩き始める。
琥珀と近藤さんは、車の中から楽しそうにこちらを見ている。
俺も覚悟を決めて、公園へと一歩を進めた。




