嘘つき
やけに静かだ…。
外で降っている雨の音が、部屋の中にも静かに響く。
リビングの扉は開いたまま。
そーっと中に入るが、誰もいない。
雨に濡れた衣服が体に引っ付いて気持ち悪い。
髪の毛の先からも、雫が滴り落ちる。
とりあえず、お風呂に入ろうと脱衣所に入る。
…あれ?
電気ついてる…?
浴室の扉をガシャンと開け放つ。
「─────っ!!??」
ガバッ!!と、起き上がる。
酷い汗…。
カーテンの間からは、光が差し込んでいた。
昨日、あのまま寝たのか…。
隣には、寺岡さんが丸くなって眠っている。
布団をそっとかけ直すと、頭を撫でる。
「────波奈…。」
[アイナside]
「───愛奈…?アンタどーしちゃったの?」
文香は、不思議そうに私の顔を覗き込む。
「…別にー。」
嘘のつけない私は、あからさまな態度を取ってしまう。
「…へぇ?愛奈さん。アタシにそんな態度とるなんて、良い度胸してるじゃない。」
ゾクリ…!!
私の背筋が冷える。
「ご、ご、ごめんなさい!!!ちゃんと話します!!」
「───女の名前?」
私は今朝の出来事を、文香に話した。
「…そう。"はな"って、私の頭を撫でながらね。」
私は遠くを見ながら、ボーッと話をする。
「愛奈を撫でながら…?"はな"…ね。」
"はな"という名前が頭の中をグルグル回る。
必死で寝たふりしてたけど…本当は聞きたかった。
"はな"って誰!?
あんなにいとおしそうに撫でてた…。
絶対に特別な人なんだ。
本当は人を好きになれないなんて嘘なんじゃないの…?
断るための口実だったんじゃないの…?
嫌だ。こんな考えしか出来ない自分が嫌だよ。
[ココロside]
酷い眠気と戦いながら、授業を受け終わると、寺岡さんと目が合った。
寺岡さんは、気まずそうに目をそらす。
少し不思議に思っていると、後ろから琥珀に声をかけられる。
「心結!愛奈ちゃんたち誘って飯食わねぇ?」
琥珀は、嬉しそうに俺に話しかける。
よっぽど気に入ったんだな。
「俺は構わないけど…。」
「おっしゃ!愛奈ちゃーん!!ご飯食べよー!?」
琥珀は嬉しそうに駆けていく。
俺を指差しながら、ご飯に誘う琥珀。
まだ眼鏡を外してなかったからハッキリ見えたけど…
寺岡さん嫌そうな顔したよね…?
すると、琥珀が肩を落として帰ってきた。
「…どーした?」
「今から課題するんだってさー。だから今日はごめんって、文香ちゃんに言われた。」
絶対に嘘だな。
直感だがそう思った。
「…琥珀。ちょっとだけ待ってろ。」
「え?心結…!?」
琥珀の声に耳を傾けず、教室を出ていった寺岡さんたちを追いかける。
二人は、並んで歩いているところだった。
俺は、そのまま寺岡さんの腕を掴む。
寺岡さんは、大きく目を見開いている。
怖がっている様子がうかがえる。
ズキンと心が痛む。
「…柳田…くっ…?」
「…ちょっと良いかな?」
「え?」
近藤さんを見ると、好きにすれば良いという顔をしていたので、俺は寺岡さんの手を引き歩き始めた。
「ちょっ、待って…!!柳田くんっ!!」
寺岡さんに大きな声で叫ばれたので、その場に立ち止まる。
「…きゅ、急にどうしたの…!?ビックリしたよ…。」
その声に、俺は振り返って答える。
「…何か、俺のこと嫌がってる感じだったから。」
俺の言葉に、目を見開き、そして気まずそうに俯く。
図星…か。分かりやすいな。
「…もしかして、俺寝てる間に寺岡さんに何かした?」
「えっ!?何かって!?な、何かしたの!?」
あ、これは違うのか。少し安心する。
「いや、違うんならそれで良いよ。」
いや、待てよ。
「いや、良くない。」
寺岡さんは、俺を真っ直ぐ見つめる。
「────って、誰ですか…?」
「…え?」
「…"はな"って誰ですか…?」
突然口を開いたと思えば、波奈の名前が出てきて驚く。
明らかに動揺している俺に、泣きそうな顔をする。
「…それは…。…ごめん。言えない。」
俺も、目をそらし俯く。
「…やっぱり。嘘だったんだ。」
「……!?」
「…どんどん聞いてって。言ってたのに。
人を好きになれないって言ってたのに…。
嘘つき。」
「──っ!!寺岡さ…!!」
伸ばした手を振り払われ、俺は走り去る彼女の姿を見ている事しか出来なかった。
「…はぁ。俺、サイテーだな。」
俺は壁に寄りかかり、その場に崩れ落ちた。
「…ごめん。」




