番外編③
顔をあげて俺は固まる。
「メリークリスマス!お兄さ~ん!」
そこには、一段とカッコ良くなった琥珀が立っていた。
「琥珀!?」
「ケーキあと2つじゃん!それノルマなの?」
「え、あ、うん。」
「じゃあ、その2つくださーい。」
「まじで!?あ、ありがとうございます!お会計が…」
俺が計算しようとした時、琥珀はその手を止める。
「ただし、もう一つはお前が買えよ!」
「はあ?一人で1ホール食べれるかっての!!」
「はあ?何で一人なんだよ?」
その言葉に俺は黙り込む。
「さてはお前。愛奈ちゃんと喧嘩したな?」
「してないから。」
「じゃあ、何でクリスマスにバイトなんか入れて彼女と過ごしてないんだよ?」
「それは…」
俺の様子に、琥珀はため息をつく。
「俺、お前に報告がある。だから店に来たんだけどな。」
「何?」
俺が控えめにそう尋ねると…
「今から文香と婚姻届出してくるから。」
「…まじで?」
琥珀は、紙を取り出すとニッと笑う。
「お前もくよくよしてないで、行動しろよ?
愛奈ちゃんはいつだって、お前のこと待ってるからな。」
そう言うと、俺にお金を手渡す。
「メリークリスマース!!!!」
そう言って、ケーキを1つ手に取り帰って行った。
少しの間、その場から動けなかった。
「あ、完売したの?柳田くん、あがっていいわよ。」
店長の声で俺は、現実に戻る。
「あ、はい。すみません。」
「どうせ、これから彼女と過ごすんだろ?早く行ってきな。
はあ、若いって良いねー。」
店長は一人でそう呟く。
俺は、ふぅと息を吐くと、ケーキの箱を握りしめ走り出す。
鞄に荷物を詰め込み、そのままスマホに手を伸ばす。
プルルルル、プルルルル、プルルルル~♪
愛奈。
出てよ。
愛奈───!!!
[アイナside]
「──寺岡さん、この後何か用事あるのかな?」
部長に声をかけられ、驚きながら答える。
「いえ、特には。」
「おや?てっきり、彼氏と過ごします~なんて言われると思ってたんだけどね。」
「アハハ。今日は会う約束してないんですよ。」
笑うしかない私。
「部長も奥さん待ってるんじゃないですか?
せっかくのクリスマスですし、早く帰った方が良いと思いますよ。」
「そうだなー。じゃあ、そうさせてもらうよ。
寺岡さんも遅くなりすぎないように。」
部長は嬉しそうに帰って行った。
家に帰れば奥さんもお子さんも待ってて
美味しい料理にたくさんの笑顔。
羨ましいなー…。
私は家に帰る気にもならず、会社に残って作業を続けた。
クリスマスなんて…大嫌いだよ。
[ココロside]
ピンポーン。
愛奈の家までやって来て、インターホンを押す。
家に帰ってきている様子は無い。
愛奈…。
愛奈。会いたい。
今すぐ会いたい。
気づかなくてごめん。
せっかく勇気出してくれたのに、答えられなくてごめん。
こんな俺でごめん。
「──クシュン!!」
真冬の寒さが身にしみる。
体は既に冷えきっている。
自然と涙が溢れる。
「…愛奈っ…ごめん───。」
[アイナside]
残業が長引いてしまい、帰ってきた頃には夜中の11時。
重い足取りで階段をあがっていく。
そして、自分の部屋の前で固まった。
手すりに寄りかかって、遠くを眺めていたその人は
私に気がつくと、ゆっくりこちらを向いた。
「…何で…?」
私の声は自然と震える。
ゆっくりと近づいてくる。
そして、ギュッと抱き締めてくれた。
「…愛奈。メリークリスマス。」
そう言って、優しく唇を落としてくれた。
その唇は酷く冷たくなっていて、私の目から涙が溢れた。
どれくらい待ってくれたの?
こんな寒い中、帰ってくるかどうかも分からないのに。
会う約束もしてなかったのに。
「心結…会いたかったよ…!」
「俺も…すごい会いたかった。」
心結は真っ赤になった鼻を擦りながら、照れ臭そうに笑う。
「…冷たくなっちゃったね…。」
「こんなこと何でもないよ。」
「部屋暖めるから中入ろ?」
私は心結の手を引いて、一緒に部屋に入った。
サンタさんからの、素敵なクリスマスプレゼントだ。
メリークリスマス───。




