淡い期待
「───もう!!いい加減にしてよね!?」
ああ。まただ。またこの時間が始まる。
「どこまでアタシを困らせれば気がすむの!?」
これでもかと、頬を打ち付ける。
痛い…痛いよ…。
「アンタもよ!!波奈!!」
頬を何度も何度も叩かれた波奈は、大声で泣きわめく。
「うわああああん!!うわあああああ!!」
その声に、その人は更に逆上する。
「ちょっとは黙ってられないの!?もう、本当に…
───産まなきゃ良かったっ…!!!」
「…波奈。大丈夫。お兄ちゃんがついてるからな?だから、もう泣くんじゃないぞ?」
「…大丈夫だよ、お兄ちゃん。
波奈…泣かない…もん…!!」
「───ろ?心結!?」
気づけば、男子トイレの中。
酷く汗をかいていた。
「…琥珀?あれ…俺…?」
「また昔の事思い出してたんだろ?落ち着いたら、また教室戻ろうぜ!」
琥珀はニッと笑顔を浮かべる。
ああ。俺は、その笑顔に何度救われただろう。
「ありがとう。助かる。」
[アイナside]
ボーッとしたまま、授業を受けていると、後ろで椅子に座る音がした。
驚いて振り返ると、永瀬くんが座っていた。
帰ってきたんだ…。
「あ、愛奈ちゃん。今どこやってる?」
教科書を持ちながら、そう尋ねてくる永瀬くん。
「えっと、今78ページ…。」
「オッケー!ありがとう♪」
その笑顔に世の女性はイチコロなんだろうな…と思いながら前を向く。
本当は、さっきの事が聞きたくてしょうがないのだが、私にそんな勇気もなく、諦めて授業を聞いていた。
左前方に目を移すと、柳田くんも帰ってきて、授業を受けている所だった。
柳田くんのこと…私何も知らないんだよね…。
知りたいな。もっと。
知りたいって思うことは…良くないことなのかな…?
もっと、もっと…話がしたい。
柳田くんと、仲良くなりたいな…。
「───柳田くん!!」
昼休憩になり、授業終わりの柳田くんに直ぐ様声をかけた。
柳田くんは、酷く驚いていた。
しかし、すぐに普通通りに戻る。
「あ…さっきはごめん。急に出て行って…。」
「え、いや!全然!!…顔色悪かったけど…大丈夫?」
「うん。心配かけたんならごめん。」
「あ、良いの良いの!…えっと、柳田くん。」
「ん?」
「…これ、ハンカチありがとう。」
私は、昨日のハンカチを取り出すと柳田くんに手渡す。
その時に指が触れ、私は慌てて手を離す。
柳田くんは、いたって冷静だ。
「あー、わざわざ洗濯してくれたんだ?ありがとう。」
「ううん!こちらこそ!」
「…それと、あんまり泣くなよ?」
「…え?」
「…泣いたってろくな事ねぇから。」
そう言って俯いた柳田くんは、悲しそうな顔をしていた。
「…うん!分かった!!」
そう言って笑うと、柳田くんも少し笑ってくれた。
「…あの…もし良かったら…放課後、遊びませんか?」
「…へ?あ、もちろん!」
「え!?本当に!?」
「うん。どうせ暇だし。」
「そ、そっか!!楽しみにしてるね!!」
にやける顔を手で隠し、私は文香の元へ走っていった。
[ココロside]
「───付き合えば良かったのに。」
食堂でご飯を食べている時に、琥珀がそう投げかけてきた。
「…え?」
ズルズルとうどんをすすると、俺は箸を置く。
「愛奈ちゃん、良い子じゃん。」
そう言うと琥珀はペットボトルの水を喉に流し込んだ。
「確かに良い子なんだろうな…。」
「だろ!?俺なら即オッケーだったのになぁ。」
悔しそうに呟く琥珀。
そんな琥珀を見て、俺はフッと笑う。
「俺は琥珀とは違うからな。それに、いまいち好きって気持ちが分かんねぇし。」
俺がそう言うと、琥珀は黙り込んだ。
それを機に、俺は再び箸を持つ。
「───今まで付き合った女は?」
「…そうだな…。結局よく分かんなかったよ。好かれるって感じも分かんなかったし。」
「勿体ないな。お前、顔も性格も良いのに。」
「そう言ってくれるの琥珀だけじゃん。」
そのまま、再びうどんをすする。
「…まぁ、1度だけ人を愛したって言うなら、それが妹になるのかな?」
その言葉に、琥珀は固まった。
そして、辛そうな顔をする。
「…そうだな。お前、本当に大事にしてたよな…。」
黙って、ご飯を口に運び続ける。
「…さっきも、寺岡さんと妹が重なったんだ…。それで、色々思い出してさ…。」
「…あー、確かに似てるかもな。愛奈ちゃん。」
「だよな。俺も、今日それに気づいてさ…何か放っておけないって思ったんだよな。」
琥珀は、少し考えて呟く。
「…好きになるのは…逆に難しいのかもな。」
俺も、その言葉に、箸が止まる。
しかし、ゆっくりと続けた。
「…でも、俺は寺岡さんに賭けてみるよ。」
「賭ける?」
「昨日彼女が言ったんだ。好きにしてみせるって。」
『───じゃあ、好きにしてみせます!!!』
昨日の寺岡さんの様子を思い出し、俺は笑みを浮かべる。
「…好きに…ならせてよ───。」




