近づきたい。近づけない。
「───お、おはよう!柳田くん!!」
後ろから声をかけられ、振り返ると寺岡さんが緊張した面持ちで立っていた。
「あ、おはよう。」
その一言で、顔を輝かせる寺岡さん。嬉しそうに、友達のところへ走っていった。
「───おい!心結!!今の何だよ?」
後ろから頭を叩かれ、横を見ると
「…何だ。琥珀か。」
隣に立っているチャラ男は、俺の唯一の仲良し永瀬琥珀。
寺岡さんの方を見てニヤっとすると、俺の隣に座ってきた。
「今のってさー、愛奈ちゃんじゃね?」
「…そうだけど。」
「えー!?何で愛奈ちゃんが心結に挨拶してんの!?」
「…別にどうでも良いじゃん。」
「どうでもよくないから!!え、今から呼んで聞いても良い?」
「ちょ、待っ──!?」
琥珀が今にも叫びそうになったので、俺は肩を思いきり押さえた。
「…ほら。心結が焦るぐらいだから、何かあったんだろ?」
琥珀は面白そうに俺を見る。
「…はぁ。琥珀に隠し事は出来ないな。」
「当たり前だろ?ほら、話してみろよ。」
俺は仕方なく話を始めた───。
[アイナside ]
「──あ、愛奈!おはよー!!」
「文香!おはよー!」
柳田くんに挨拶を終え、私は親友である近藤文香の元へ駆け寄った。
「朝から頑張ったみたいね♪」
「うんっ!!すごい緊張したよー…!!」
「頑張ったのねー!よしよし。」
文香に頭を撫でられ、私はにっこりと微笑む。
文香には昨日の事を話していて、出来る限り協力をしてくれると言ってくれた。
すると、文香が私の手元を覗き込んできた。
「ん?何それ?大事そうに握ってるけど…。」
「え?あ、これは…柳田くんのハンカチだよ。」
「おお!?アンタ良いもの持ってんじゃん!!」
文香の顔が輝く。
「それを利用して柳田と───」
「───おはようございまーす!!!!」
その時、元気な挨拶が聞こえてきた。
私と文香は、ビックリして振り返る。
そこで、私たちは更に驚いた。
「あ、話すのは初めてだよね?俺、心結と仲良くしてる永瀬琥珀って言います♪」
「ちょ、琥珀…。」
そこには、いかにもチャラ男な男の人。
明るい茶髪は、隣の柳田くんの髪色と対照的だった。
ニコニコと笑う永瀬くんの隣では、柳田くんが気まずそうに立っていた。
そんな様子を見ていると、バチっと目が合ってしまい、私は慌てて目をそらす。
「永瀬…噂通りのチャラ男っぷりね。」
「え?それは、褒め言葉として受け取って良いのかな?」
「ちょ、文香!いきなり失礼だよ!」
私が慌てて止めに入ると、永瀬くんは笑い出す。
「アハハハ!!面白いね!愛奈ちゃん!!」
突然笑い出したので、私の頭の上には?マークがたくさん浮かんでいる。
「よし決めた!俺も愛奈ちゃんに協力するよ!!」
「「「…え?」」」
「早速だけど、今日の放課後4人で遊びに行かない?」
「琥珀!お前、勝手すぎ──」
「──良いわね!行きましょうよ!」
永瀬くんと文香によって、話がどんどん進んでいく。
柳田くんの方を見ると深くため息をついていた。
…どうしよう…。柳田くん、嫌そうだよ…。
「わ、私は…遠慮しとくよ。」
絞り出した声はか細く、二人の耳には届いていないようだった。
[ココロside]
「──良いわね!行きましょうよ!」
あーあ。琥珀がまた勝手に…。
寺岡さんの友達も、意外とノリが良さそうだな。
そんな二人の様子を見ながら、寺岡さんは酷く焦っている様子だった。
俺は深くため息をつく。
先走るのは良いけど、友達の様子もちゃんと見てやれよ…。
そう思っていたその時…
「わ、私は…遠慮しとくよ。」
寺岡さんが静かに呟いた。ただ、残念ながら二人の耳には届いていないようだった。
「おい、琥珀。…琥珀!!」
俺は少し大きな声を出した。
「何だよ?」
「寺岡さん、何か言ってるだろ?聞いてやれよ。」
俺の言葉に、寺岡さんは目を見開く。
そして、気まずそうに俯いた。
「愛奈?どうしたの?」
「…私は…遠慮しとくよ…。」
「はぁ!?」
「え!?何で!?」
思っていた通りの反応を示す二人。
「…だって…柳田くん…乗り気じゃないから…。」
ほら、寺岡さん嫌そうじゃ・・・って、
「…俺…!?」
「柳田!!乗り気だよね!?そうだよね!?」
「心結は遊ぶのは大好きだぞ!?」
「お、俺は別に問題無いけど…。」
見れば、寺岡さんの瞳が少しウルウルしていた。
「ちょっ…愛奈ちゃん!?泣かなくても良いんだよ!?」
「あー、ごめん。この子すぐに泣くから。」
「…泣かない…もんっ…!!」
そう言って、涙を拭う。
ドクンッ───。
心臓の音がうるさい…。
収まれ。
収まれ。収まれ。
収まれ。収まれ。収まれ。収まれ。収まれ。収まれ!!!
[アイナside]
私は軽く涙を拭うと、自然と柳田くんの方を見た。
柳田くんは、私を真っ直ぐ見つめていた。
でも、目が合っている感じがしない。
それに、恐怖すら感じる。
…何?この感じ…?
柳田くんは、頭を押さえると、私たちから離れていく。
永瀬くんがその様子に気がついたようで
「ごめん、ちょっと離れるね!」
そう言って、柳田くんを追いかけていった。
…私…悪いことしちゃったのかな…?
二人が出ていったドアを、私は静かに見つめ続けた。




