涙
「───それで、アタシ何忘れたんだっけ?」
永瀬と別れたアタシは、元カレである純哉の家に来ていた。
「忘れ物?何の話?」
「…え?」
頭の上に?マークが浮かんでいる様子の純哉。
いや、それはアタシの方だから。
「さっき言ってたじゃない。忘れ物してるって。」
「あー、あれね。
いや、何かあの永瀬だっけ?気に入らなかったから。」
「…は?」
アタシは思わず耳を疑う。
純哉って誰かの事悪く言うような人だったっけ?
「…いや、ごめん。嫉妬してるのかも。
文香、別れてからすぐに新しい男出来たんだって思ったから。
それに、アイツ絶対に文香のこと好きじゃん。」
初めて純哉に嫉妬されて戸惑いを隠せないアタシ。
そのまま、アタシの頬に触れる。
そして、キスをしてきた。
突然の出来事。
でも抵抗をしようなんて考えなかった。
そのままベッドに押し倒される。
「…文香。俺だけ見てろよ。」
その言葉。
熱い吐息。
与えられる快感に、アタシは溺れていく。
「純哉っ…好きっ───。」
[ココロside]
「あれ?琥珀から電話だ。」
テストも残り1日ということで、追い込みのため俺と寺岡さんの二人で勉強をしていた。
今日は俺の家で勉強をしている。
「出て良いよ?急用だったら困るもんね!」
寺岡さんにそう言われ、電話に出る。
「もしもしー?どうしたー?」
俺は、次の瞬間耳を疑った。
「…琥珀?お前今どこにいるんだ!?おい!聞こえてるか!?」
俺が突然声をあげたので、寺岡さんは驚いてこちらを見る。
琥珀は泣いていた。
アイツが泣くなんて何事だ…!?
「車の中か。とりあえず俺の家来れるか?
無理だったら位置情報送ってくれれば行くから。
…うん。分かった。待ってるわ。」
電話を切ってため息をつく。
何だよ…。何があったんだよ…。
「…私帰った方が良いよね?」
「…え?」
寺岡さんが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「…いや、大丈夫だと思う。もしかしたら、近藤さん絡みかもしれないから、寺岡さんにもいて欲しい。」
「…文香…?」
寺岡さんの顔が強張る。
「ごめんごめん。不安にさせちゃったね。大丈夫だから。」
「…うん。」
とりあえずは、琥珀が来るのを待つしかないか…。
[フミカside]
ヴヴヴヴヴ…ヴヴヴヴヴ…!!!
バイブレーションの音で目が覚める。
隣には純哉が眠っている。
自分のスマホが鳴っているのかと思えば、純哉のスマホだった。
電話がかかってきているようだ。
急用だったらいけないとスマホを手に取る。
それを見てアタシは思わず固まる。
女の人の名前だ…。
しかも丁寧に名前の後にハートまで付けられている。
「…んんっ…?何ー?電話…。」
純哉の声にビクッと体が震える。
私からスマホを取ると、眠そうな目で画面を見る。
そして何のためらいもなく電話に出る。
「もしもしー?…ん。寝てた。ごめんごめん。
今から?良いよ。うん。じゃあ、また後でね。」
電話を切ると、大きく伸びをする。
そして、ガバッと起き上がると散らばっている服を拾い集める。
「ごめん、今から客来るから帰ってくれる?」
「…へ…?」
アタシは自分の耳を疑った。
「俺も汗流さないといけないし。」
アタシは震える声で尋ねる。
「…もしかして…彼女…?」
「そうだよ?」
アタシの言葉に何の悪びれもなく答える純哉。
「何でっ…?じゃあ何でアタシを抱いたのっ…?」
「何で?って、特に理由はないけど。」
「だって、嫉妬したって言ったじゃん!!」
「あー、うるさいな。別れたのに偉そうに言うなよ。
ムード作ってやっただけだよ。分かれよ。」
ああ、もうダメだ。
これはきっと罰なんだね。
永瀬の前であんな冷たい態度をとったから。
元カレの方に動いてしまったから。
アタシって、本当に最低だ…。
服を着替え終わった頃には、純哉は既にお風呂に入っていた。
アタシは静かに家を後にする。
フラれたのはアタシの方だったのに。
何を期待してたんだろう。
『早く元カレの事なんて忘れちゃいなよ。』
永瀬の言葉を思い出す。
涙が溢れて止まらない。
ああ、馬鹿だ。
アタシって本当にどうしようもできない馬鹿だ。
あんなにも寄り添ってくれてた永瀬を、簡単に切り捨ててしまった。
アタシは、スマホを取り出し連絡先を探す。
そして、電話をかけかけて手を止める。
アタシ、何してるんだろう?
こんな時にも永瀬に頼ろうとしてる…。
永瀬に頼る資格なんてない。
もう永瀬に頼っちゃいけない。
「…アタシっ…最低だっ…!!
ごめんっ。永瀬っ…!」
[ココロside]
目の前にはすっかり目を腫らせた琥珀の姿。
隣では、寺岡さんが心配そうにそれを見つめている。
「…元カレか…。」
重い空気の中、俺は口を開く。
「…近藤さんの中で元カレの存在は本当に大きいんだな。
そりゃ、後から出会った琥珀には敵わないだろ。」
「や、柳田くんっ…!?」
その言葉に青ざめた顔で俺を見る寺岡さん。
琥珀も顔をあげた。
「…でも、アイツ何か気にくわない…。
人を下に見てる感じが伝わってきた。
…俺が言うことじゃ無いとは思うけど、文香ちゃんにはあんな奴似合わないよ。」
「じゃあ、奪い取れよ。」
「…え?」
「…近藤さんにふさわしくないんなら、お前が奪ってやれば良い。
お前が、代わりに幸せにしてやれば良い。」
俺の言葉に、琥珀は唇を噛み締めた。
「そんな簡単には…。」
「そうやっていつまでもウジウジしてたら何も変わらない。
近藤さんに好きって伝えたのか?
もしかしたら、可能性があるかも?
俺の方に気持ちが動いてるかも?
そんな勝手な妄想で、近藤さんと付き合えると思うなよ。
優しいだけじゃダメだ。
時には、強引にいくぐらいじゃないとな。」
「…優しいだけじゃ…ダメか…。」
琥珀は、弱々しく呟く。
「…文香は…、文香は永瀬くんといると本当に楽しそう。」
今まで黙っていた寺岡さんが口を開く。
「今まで以上に笑うようになったの。
全部、永瀬くんのお陰だと思ってるよ?
私は、永瀬くんにずっと感謝してる。」
「…愛奈ちゃん…。」
「私はね、二人本当にお似合いだと思う!!
だから、ずっと応援してるよ!」
その言葉に、俺も琥珀も微笑みを浮かべた。
やっぱり、寺岡さんにいてもらって正解だったな。
「二人とも…ありがとうな。」
「ほら、お前もついでに勉強しろ。
明日で最後だぞ!」
「あーあ、頑張るか!!」




