お泊まり①
「───えっと、正式に付き合うことになりました。」
目の前には、ちょうどプリントの見せ合いをしている文香と永瀬くん。
並んで立っている私たちを見て、二人はニヤッと笑う。
「はいはい、おめでとうございますー。」
「まぁ、こうなるとは思ってたけどね♪」
その言葉に柳田くんと目を合わせて笑う。
「ただ、いつまでもその余韻に浸ってたら痛い目見るわよ?」
「…え?どういうこと?」
文香は立ち上がると、教卓から紙を一枚取ってきた。
「次の時間に配られるんだろうけどね…これ。」
そこには、何かの表が書いてあった。
ああ、大変だ…。
「しっかり勉強しないとね。」
そうだ。
前期末試験が待っているのだ。
「まあ、心結は大丈夫だと思うよ?
中学の頃から成績すげぇ良いからな。」
「確かに、そういうオーラ出てるものね。」
「それなら琥珀だって頭良いじゃん。」
「人は見た目によらないって本当ね。」
「ちょ、文香ちゃん。それ失礼だから!」
「───愛奈ちゃんは勉強得意なの?」
一人放心状態になっていると、永瀬くんに話しかけられる。
「…アハハ。」
私が力なく笑うと、文香と永瀬くんが一斉にふきだす。
「ちょっ、やめてよっ!その情けない顔!!(笑)」
「愛奈ちゃん、爆笑っ!!(笑)」
あまりに二人が笑うので、私は軽くへこむ。
「じゃあ、皆で勉強しよっか?」
その声に横を向くと、柳田くんがニッコリと笑ってくれていた。
この人は、神様でしょうか…?
「そうやって甘やかして良いの?」
文香は気に入らないといった目で私を見てくる。
「皆で勉強した方が楽しいよ!!」
私が必死に訴えかけると永瀬くんはまた笑い出す。
「良いじゃん良いじゃん!じゃあ今週末俺の家で泊まりで勉強でもする?」
「あ、噂の永瀬ハウス?」
「噂のって何よ?(笑)」
「愛奈がすごく良い家だったって言ってたから。」
「まぁ、すごいかどうかは別としてそれで良い?」
「わ、私はオッケーだよ!!」
「俺も行ける。」
こうして、週末にはお泊まりの勉強会が開かれることになったのです。
それにしても…
いつの間に、永瀬くんと文香あんなにも仲良くなったんだろう…?
何か…面白いことになりそうだな…!!
そして、あっという間に週末になった。
「───うわ、本当にすごい家なのね。」
家に入るなり、文香はそう呟く。
「どこでも座って良いよー!今飲み物出すから。」
1つの机を挟んで、座る。
私の隣には文香。目の前には柳田くんが座っている。
「何か二人とも緊張してるんじゃない?」
コップを置きながらそう尋ねる永瀬くん。
「やっぱり、人の家は緊張しちゃうよ。」
「アタシはそうでもないけどね?」
「ハハッ!そうか。じゃあ、始めようか!」
それぞれ苦手な科目を取り出し、勉強を始める。
文香と永瀬くんは、相変わらず二人で仲良さそうに話をしている。
そんな二人の事をボーッと眺めていると、頭をペチッと叩かれた。
慌てて前を見ると、ノートを手に持った柳田くんが、こちらを見ていた。
「こら、集中しなさい。」
そう言ってイタズラっぽく笑う。
ボンッ!と音を立てて、私の顔は真っ赤になる。
な、な、何それっ…!?
反則じゃないですかっ…!?
それからも、普段は見れない黒縁眼鏡姿。
勉強している真剣な表情。
分かりやすい説明の仕方。
色々なところにキュンキュンしてしまい、勉強どころじゃ無かった。
「───あー、腹減ったー。」
永瀬くんの言葉に、皆ペンや教科書を置いた。
「もう17時だからね。」
「タコパしようよ!!タコパ!」
永瀬くんの提案に、良いんじゃない?と賛成する二人。
私も勢いよく首を縦にふった。
「俺、車出すから誰か着いて来てくれる人ー!?」
永瀬くんが笑顔で尋ねるが、誰も手を挙げようとしない。
笑顔がひきつる永瀬くん。
「え、あ、わ、私が行くよ!?」
「…気を遣わなくて良いんだよ。愛奈ちゃん。
一人で行ってくるから…。」
「あー、もう落ち込むなよ。俺が行くから。」
「やだっ!!女の子が良いっ!!」
「文句言うな。早く行くぞ。」
「わあああああ!!!心結に連れ去られるうううう!!!」
「はいはい、行ってらっしゃーい。」
文香は愉快そうに手を振る。
二人はそのまま出て行ってしまった。
机の上を片付け始める文香。
私は、顔を見ては小さくため息ばかりついていた。
「何?聞きたいことがあるんなら言葉にしたいと伝わらないわよ~?」
「え!?」
文香はソファーに腰かけると、首をかしげる。
「…いや、文香と永瀬くん、すごい仲良いなぁって思って。」
私の言葉に文香は少し困った顔をした。
「…はぁ。」
文香はため息をつく。
「まぁ、確かに、最近は仲良くしてるわよ。
愛奈は知らない男に独占されてたし、他に仲の良い子なんていなかったからね。」
「…そっか。」
「アタシね、彼氏と別れたのよ。」
「…へっ!?」
思わぬ言葉に、私は驚きの声を漏らす。
「彼氏といても何か楽しくなくて…。
そんな態度を続けてたら、フラれたわ。
でも、永瀬といれば楽しいの。
これが恋なのか?って言われれば分からないけどね。」
「でも、永瀬くんには彼女がいるんだっけ?」
「最近別れたらしいわ。」
「えええっ!?」
「彼女といても楽しくないんだーって、言われたわ。
でも、文香ちゃんといると楽しいって。」
「そ、それってさ、両思いなんじゃないの?」
私が恐る恐る聞くと、再びため息をつく文香。
「…どうなんだろうね?
永瀬にとって、アタシも遊びの一人なんじゃないかしら。
アタシ自身も、アイツの事本当に好きなのか分からないし。
うやむやな関係かアタシたちには丁度良いのかもね。」
「───そんなことないよ!!」
私の声に文香は驚く。
「永瀬くんの文香を見る目は、本当に優しいよ?
永瀬くん、文香の事好きだよ!!」
「…そうねー。分かってるんだけどねー。」
え?
あ、分かってたんだ。
私は、さっきの勢いを誤魔化すように咳払いをする。
「アタシ意地っ張りだから、言葉に出来ないの。
どこかで、アイツが告白してくれるの待ってるんだろうね。」
「…文香。」
そこで、文香の携帯に電話がかかってくる。
一瞬顔をしかめ、出て行ってしまった。
何だろう?
そんな事を考えていると、私の携帯にも電話がかかってきた。
「もしもし?あ、うん!
文香なら、何か電話がかかって外に出ちゃったよ?
え?冷蔵庫に?
分かった!見てみるね───」




