過去3
朝。
久しぶりに袖を通した制服。
緊張感がグッと高まる。
「…行ってきます。」
ボソッと呟いて外に出る。
そこには、蓮斗の姿があった。
「あ…蓮斗っ…。」
「おはよう。愛奈。…緊張してる?」
「…うん。」
昨日、蓮斗が私に言ったこと。
『ちょっとした罰を与えただけだよ。』
『だから悪いやつはもういないよ。』
『愛奈を傷つけるやつなんてもういないんだよ。』
それから、二人で体を重ね合って、求めあった。
蓮斗の体も心も温かくて、私は溺れていった。
校門の前に立つと、やはり足が進まなくなる。
「…怖いよね。でも大丈夫。俺がいるよ?」
そう言って手を差し出す。
うん。
あなたとなら大丈夫。
ガララララと教室のドアを開ける。
皆、こちらを見ると目を見開く。
蓮斗に誘導されて、席に着く。
酷く静かだ。
心臓の音がうるさく響く。
すると、みのりが教室に入ってきた。
みのりは、私と蓮斗の姿を見るとその場で固まった。
「な、なっ、何でっ…!?」
酷く取り乱すみのり。
蓮斗は、立ち上がるとみのりの方に向かって歩いていく。
みのりは、ガクガクと震えている。
次の瞬間───グイッ!!!!
蓮斗がみのりの髪の毛をグシャッと掴んだ。
「いやっ!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
「──!?」
そのまま、教卓に頭を押さえつける。
「ビックリした?学校に来たら、いる筈のない俺たちがいるんだもんねー?」
「ごめんなさいっ!!王子、許してくださいっ!!」
状況が全くつかめず、呆然と立ち尽くす。
「はぁ?王子?お前が謝るのは誰だよ?俺じゃないだろ。」
蓮斗の低い冷たいその声は、今まで聞いたことが無かった。
「誰に謝らないといけないの?大倉さんは、良い子だから分かる筈だよねー?」
そう言ってみのりの顔を掴むと、こちらに向かせた。
バチっと目が合う。
みのりの顔は涙でグシャグシャになっている。
「ごめっ…なさっ…」
「何?全然聞こえないんだけど。」
「ごめんっ…なさいっ…。」
「もっと大きい声。出るよね?普段は、あんなに大きい声で嘲笑ってたんだから。」
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさい!!許してください!」
「ちゃんと愛奈の目見てる?それ、俺に対する謝罪だろ?」
「愛奈っ…ごめんなさいっ!本当にごめんなさい!!」
蓮斗は、ようやく手を離すと教室の入り口を見る。
その瞳はひどく冷たい。
「何してんの?入りなよ。ここは、君たちのクラスだろ?」
そこには、主にいじめをしていた四人組がいた。
「あ、あ…王子っ…。」
四人の目には既に涙がたまっている。
「どうしたの?そんな怯えた目で。もう一度罰を受けたい?」
その言葉に四人は、一斉に土下座をする。
「愛奈ちゃん、本当に申し訳ございませんでしたっ!!」
蓮斗は、そう謝った主犯格の女の子の頭をグリグリと踏みつける。
「…本当は君たちを退学に追い込むつもりだったんだけど、
君たちの親があまりにもお偉いさんでさぁ…。
イライラするよね。」
蓮斗はそのまま、胸ぐらを掴む。
その子の表情は恐怖でグシャグシャになっていた。
「謝って済むとでも思ってる?
愛奈の苦しみ、怒り、ちゃんと分かってんの?
君たちがしたことは絶対に許されない。
これから先、必ず地獄を見るよ。
いや見せてやる。」
そう言ってその子を投げ捨てる。
他の子も、殴ったり蹴ったり蓮斗は止まらなかった。
「───木崎!!お前、何でここにいる!?」
その時、教室の入り口から担任の声がした。
「あー、先生。お元気そうで何よりですよ。」
蓮斗は笑みを浮かべながら、先生にも詰め寄る。
「お前は自宅謹慎中の筈だろ!!」
え……?
どういうこと……?
「自宅謹慎中?そんなこと知ってる。」
そのまま、担任の胸ぐらも掴む。
「どうせ退学になるんだ。もう一暴れさせろよ。」
そう言って一発殴る。
そのまま馬乗りになる蓮斗。
「お前だって、いじめの事分かってたんだろ!?
それなのに、見てみぬフリしたらしいじゃん?
お前も、コイツらと一緒だよっ!!」
そう言って殴り始める。
何、この異常な状況…。
蓮斗の目が冷たい。
こんな蓮斗知らない。
やめて。
もうやめてよ。
気づけば、私は蓮斗の腕を掴んでいた。
蓮斗はハッとして振り返る。
「…愛奈?」
「…もう止めて…。もう十分だから…。」
震える声でそう伝えた時には、他のクラスから人がやって来て先生たちによって蓮斗は取り押さえられた。
蓮斗は私の為に、私の身代わりに…。
それは、本当にありがたかった。
嬉しかった。
でも、それ以上に蓮斗の冷たい目、言葉、表情
それが頭から離れなかった。
職員室から出てくる蓮斗。
私の体は、ビクッと震える。
「ハハッ…。震えてるし。」
近づいてくる蓮斗。
後ずさる私。
「愛奈が、学校休み始めてからすぐにいじめの事実を知った。
そこからは、怒りに任せてとにかく暴れたね。
それで、処分が決まるまで自宅謹慎。
その間、愛奈の家に通い続けてた。
昨日会って、痛々しい姿を見てまた怒りが沸いてきた。
どうせ退学になるのなら…
すべてを壊してやろうって思った。」
蓮斗の手には、退学届けが握られている。
「…蓮斗っ…!」
「自主退学の方が学校にも影響少ないからって、担任に言われた。
本当は、めちゃくちゃにしてやりたいけど、あいつらの親の存在はでかいな。
じゃ、これ出して来る。」
退学届けをヒラヒラさせ歩いていく。
「蓮斗っ!!」
蓮斗は振り返る。
「どうして、こんなこと…。」
「そんなの決まってるじゃん。愛奈の事愛してるもん。」
「蓮斗がここまでするほどの人じゃないよ!!私。」
「俺は決めたんだ。愛奈に一生かけて償うって。
もう2度と辛い想いはさせないって。
だから、ここで俺たちの関係は終わらせないから。」
蓮斗の言葉が、重く突き刺さる。
「だから待ってて。
俺が愛奈を幸せにするから───。」
蓮斗は優しい人。
良い人。
強い人。
私の事も本気で愛してくれている。
でも、その愛は私を酷く締め付ける。
私には、その愛を受け止めきれる自信なんて無いよ。
償う必要なんてない。
蓮斗は何も悪いことはしていないんだから。
蓮斗…。
あなたのその愛は酷く重いよ───。
次話から現在に戻ります。




