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過去②





「───うわぁ…すげぇ雨だな。」



下駄箱で、靴を出しながら琥珀と話をする。



「天気予報も、時には外れるもんだな。」


しみじみと呟く。


「誰も傘持ってきてないだろ。」



その言葉で、俺は朝の事を思い出す。






あの日から波奈とはろくに話をしていない。





でも、朝玄関に俺の傘が立て掛けてあった。



その時は、ばあちゃんが荷物を探すために傘を移動させただけかと思っていた。





昔から波奈は、気候の違いを感じやすい体質だった。


突然、雨が降り出す前には、必ず俺に知らせてくれていた。




でも、今は話が出来ない。


あの傘は、波奈の合図だったのか…。



そう考えると胸が締め付けられた。












「…やみそうにないな。」


琥珀の声で、現実に引き戻される。


ザアアアア…と雨の音が響く。



「仕方ないし、走って帰るか。」



俺たちは、叫びながら雨の中を走って行った。




家に帰ったら、波奈に謝ろう。



ちゃんと話を聞こう。



そう思いながら、家へと急いだ。









玄関の前で、ブルブルと頭を降り少しでも水を落とす。


それにしても酷い雨だった。



どんどん強くなる雨に、体はびしょ濡れになった。






早く中に入ろうと、鍵を差し込み、回す。







しかし、扉は開かない。





あ、誰か帰ってるのか。



玄関に入ると、波奈のローファーが置いてあった。






波奈の傘は、広げて置いてある。


やっぱり、分かってたんだ。




俺の傘は、元の位置に戻されていた。



靴を脱いで、中に入る。




やけに静かだ…。



普段なら、テレビの音や台所で料理をする音がする筈だ。



少し、緊張しながら廊下を歩く。 




外で降っている雨の音が、部屋の中にも静かに響く。





リビングの扉は開いたまま。





そーっと中に入るが、誰もいない。




電気もついてないし、波奈は自分の部屋か?





雨に濡れた衣服が体に引っ付いて気持ち悪い。


髪の毛の先からも、雫が滴り落ちる。




タンスからタオルを取り出し、頭を拭く。



でも、体は冷えきってる。





とりあえず、お風呂に入ろうと脱衣所に入る。








…あれ?



電気ついてる…?





しかも、ほのかに温かい。




浴室の扉に触れると、さらに温もりを感じた。



お湯をためる音もする。




もしかして、波奈がお湯入れてくれてるのか?





浴室の扉をガシャンと開け放つ。







「─────っ!!??」





そこに広がっているのは、赤。赤。赤。



浴槽にためてあるお湯は真っ赤に染まり



壁も、少し赤く染まっている。


床にも、お湯が溢れ赤くなっている。




そして、お湯に片手を入れて眠っているのは





「───波奈っ!?」











そこから、どうしたのか覚えていない。



ただ、119番だけはしたようで救急隊員が来ていた。



訳も分からず救急車に乗り込み、病院に向かう。





待合室で、ボーッと待っているとばあちゃんも到着する。



医者が出てきて、俺たちに告げる。




「最善は尽くしましたが…手遅れでした。」




深々と頭を下げる。




ばあちゃんはその場で泣き崩れた。



手遅れって何だ?



波奈はどうなったんだ?







ベッドに横たわる波奈。




顔には白い布。




ああ、そうなのか。



波奈は死んだのか。




死んだ…?




震える手で、布をめくる。



そこには眠っているの波奈がいた。



眠っているんだ。



波奈は眠ってるだけなんだ。



ポタッ。



手の甲に涙が落ちる。




視界がぼやけて、波奈の顔も見えなくなる。



波奈…?



目開けろよ。



またいつもの様に俺に笑顔見せてよ。



波奈。



波奈。



「波奈っ…?起きろよ、波奈っ…。」



その声にばあちゃんが、俺の手を握りしめた。




「波奈あああああああっ!!!!」



















それから、波奈の自殺は


クラスでのいじめが原因だった事が分かった。




遺書も見つかった。




葬儀にはクラスの友達、その親


色んな人が訪れていた。






「───可哀想にね。」




「自殺だったそうよ。」




「まだ若いのに…。」




「酷い話よね…。」



クラスメイトの母親らが、そう話をする。






うるさい。


そんなこと誰一人として、思っちゃいないだろ…。


 



泣いている友達なんて一人もいなかった。



波奈は、こんな中で孤独に過ごしていたのか?





良いから少し黙っててくれよ。


俺は遺影を抱きながら、必死で涙をこらえる。



俺の側には琥珀がいて、琥珀も涙をこらえていた。







大嫌いだ。


こんな世の中なんて。




大嫌いだ。


こんな人間なんて────。
















その1ヶ月後、後を追うようにばあちゃんも天国へ旅立った。





俺のまわりからは、誰もいなくなった。




涙なんて、とっくに枯れ果てた。




ただむなしさだけが俺を包み込んでいた。







もしあの時、波奈の異変に気づいていれば







もしあの時、涙の意味を聞いていれば







もしあの時、もう少し早く帰っていたら







もしあの時───。









枯れ果てた筈の涙が溢れ出る。





何もかも無くなってしまった。





無くしてしまった。





大切にしなければいけなかったのに。





こんなにも簡単に無くしてはいけないものなのに。






「もうっ…何もかも…大嫌いだっ…!!!!」






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