過去①
心結の高校生時代の話です。
2、3話程度続くと思います。
「───お兄ちゃん!」
駅前で、突然声をかけられる。
「波奈。帰りか?」
セーラー服に身を包んだ妹。柳田波奈。
俺は高校2年生。波奈は、中学3年生だ。
「うん!ちょうど、部活終わりだったの!
永瀬先輩、こんにちは!」
「波奈ちゃんこんにちは!」
永瀬琥珀。
俺の一番の友達だ。
「あ、お兄ちゃん。もしかして、また喫茶店寄ってたの?」
波奈はそう言いながら、下から俺を覗き込む。
「まぁ、腹減ってたからな。」
「もうー!!またおばあちゃんに怒られるよ!!」
「大丈夫だって。夕飯もしっかり食べる。」
幼い頃から、母親から虐待を受けていた俺たち。
シングルマザーだったため、父親には会ったことはない。
俺が小6、波奈が小4の時に、母親は逮捕された。
それからは、祖母の元で生活を始めた。
「とりあえず帰るよ!!あ、良かったら永瀬先輩もどうですか?」
「え?マジで!?じゃあ、お世話になろうかなー!」
「ばあちゃん琥珀の事好きだから、喜ぶぞ。」
「ハハハ!おれ、心結たちのばあちゃんにだけは愛されるんだよな!(笑)」
琥珀の言葉に、俺と波奈は何も反応が出来ない。
「…何でそんな顔すんの?やめろよ。」
琥珀は、俺からパッと目をそらした。
琥珀の家庭も俺たちと同じく複雑だった。
だから、仲良くなったっていうのもあるだろうけど。
母親は小さい頃に亡くなっており、父親は社長ということで親に甘える事を知らずに育ってきている。
家に帰っても広がるのは、ただの広い空間。
深い孤独に襲われると前に話してくれた。
欲しいものはお金で手に入る。
でも、親との時間はほとんど手に入らなかった。
その分だけ、ばあちゃんの愛情はありがたいのだろう。
ばあちゃん自身も、実の孫のように可愛がっている。
「ばあちゃん、ただいまー!」
勢いよく扉を開け放つ。
ばあちゃんは、台所で作業をしていた。
「おや?その声は琥珀だね?」
振り返ったばあちゃんは、嬉しそうに尋ねる。
「当たり!!今日もご飯食べて行って良いかな?」
「もちろん。食べていきなさい。どうせ、心結はあんまり食べんからね。」
嫌みのように俺を見ながらそう話す。
俺は苦笑いをするしか無かった。
今思えば、この頃が一番幸せを感じてたのかもな。
本当にもっと大切にするべきだった。
だよな。波奈───?
「───県外の高校に通いたい?」
部屋で雑誌を読んでいる時に、突然波奈が部屋に入ってきてそう言った。
「うん。お兄ちゃんには話しておきたくて…。」
俺は雑誌を閉じると、波奈の前に座った。
「ちょっと前までは地元の高校に行くって言ってたじゃん。
俺だって、実際その高校に通ってるし。
評判もそこまで悪くないし、ここからも通える。
何が気に食わないんだ?」
波奈は、地元を愛している。
就職も、地元でしたいとずっと話をしていた。
それが突然県外に行きたいと言われたものだから、俺は動揺が隠せなかった。
「…自立したいの。」
「他には?」
「新しい場所で生活してみたい。」
「それで?」
「他は…。」
波奈は黙り込む。
俺は、はぁと大きくため息をついた。
「あのな、俺たちに金の余裕が無いのは知ってるだろ?
波奈だって、ばあちゃんの負担にならないようにって今までずっと色々気にしてきたじゃん。
何か夢があるんなら別だけどさ、ただ外に出たいからって言われても、ばあちゃんに更に負担かけるだけだぞ?」
波奈はギュッとスカートを握りしめた。
「…まぁ、ばあちゃんに言えば通わせてくれるだろうけど、もう少し考えろよ。」
俺は、そう言うと立ち上がる。
「…てた。」
「…は?」
波奈が小さく呟いたので、俺は足を止めた。
「───お兄ちゃんなら分かってくれると思ってた!!」
波奈の目からは涙が溢れ落ちていた。
俺は訳も分からず、波奈に体を押された。
そのまま派手に転ぶ。
乱暴に閉められる扉。
『波奈…泣かない…もん…!!』
そう言った後から、波奈は本当に泣かなかった。
母親の酷い虐待にも、涙一つこぼさなかった。
俺は、動揺を隠せずその場を動けなかった。
あの涙には、どんな意味が含まれてるんだ…?
波奈。
その意味は、お前から聞きたかったよ。
波奈。
本当にごめん。




