ジャマモノ
「───愛奈。」
その声に、私は自然と足を止めていた。
後ろからギュッと私の体を抱きしめる。
耳元に口を寄せ、ハァッと吐息が漏れる。
「…愛奈。会いたかったよっ…。」
「…やめて。」
「そんなこと言わないでよ。好きだよ、愛奈。」
「お願い。離れて。」
私が離れようとすると、さらに力を込められる。
「…愛奈。愛奈。…あぁ、愛奈だ。」
「───やめてよ!!蓮斗!!」
私は思いきり体をねじると、急いで距離を取る。
「…愛奈。何でそんな顔してるの?久しぶりの再会を喜ぼうよ?」
「お願いだから、もう私に関わらないで…!!」
「──もしかして、高校のあの事、まだ気にしてるの…?」
「──っ!?」
[ココロside]
「──あれ?もうこんな時間か。」
琥珀がバイトということで、久しぶりに図書室に寄ってみた。
やっぱり環境が整っていると、勉強にも身が入るものだ。
気づけば、18時になっていたので、荷物をカバンに詰め込んで、図書室を後にした。
階段を下りていると、何か話し声が聞こえてきた。
「お願いだから、もう私に関わらないで…!!」
「…寺岡さん?」
その声が寺岡さんだと気づいた時には、寺岡さんの姿も確認することが出来た。
その前にいるのは…あの時の男だ。
すると、その男はある言葉を口走る。
「──もしかして、高校のあの事、まだ気にしてるの…?」
その瞬間、寺岡さんの体がビクリと震えるのが分かった。
その様子を見て、俺は階段を駆け下り、寺岡さんの前に立つ。
「柳田くんっ…!?」
「…あれ?君は、この前の…?」
「…寺岡さん。帰ろう。」
「…へ!?」
俺が寺岡さんの腕を引っ張った時
「──愛奈に触らないでくれるかな?」
先ほどまで冷静に俺を見つめていた男が、少し低めの声でそう脅してきた。
「…君は、愛奈の彼氏?」
「そうですけど。何ですか?」
少しの間睨み合う。寺岡さんは、戸惑っているようだ。
「…そうだ!君の名前を教えてよ!あ、こういう時は、自分から名乗るべきだよね!俺は、木崎蓮斗。」
「柳田心結です。」
「心結?珍しい名前だね?」
「…よく言われます。じゃあ、これで失礼します。」
寺岡さんの手を引き歩き始める。
「───愛奈。」
その声を聞くと、寺岡さんは足を止めた。
「逃げようと思っちゃダメだよ?」
その言葉が、俺にも重くのし掛かった。
[アイナside]
「…お、お邪魔します。」
きちんと整理されて、必要最低限の物しか置かれていない部屋。
そう。私は、柳田くんの家に来ているのだ。
流れで来ちゃったけど…き、緊張するなぁっ…!!
10分前……
「え!?今日、雨降るって言ってたっけ!?」
外を見て、柳田くんが叫ぶ。
「いや、言ってなかったと思う…。私、傘持ってないや。」
かなり酷い雨で、傘がないと大変な事になりそうだ。
すると、私の体が何かで包まれた。
見ると、それは柳田くんの着ていたパーカーだった。
「寺岡さん。とりあえず、俺の家までダッシュね。」
「え、ちょ、待っ───。」
私の言葉は、柳田くんにまわされた手によって遮られた。
そのまま、二人で雨の中へと走り出した。
「───服とかすごい濡れたんじゃない?俺ので良かったら貸すけど?」
「え!?あ、いやいや!!パーカーのおかげで私は無事だよ!!それより、柳田くんが…。」
私が否定していると、バスタオルを頭から被せられた。
あ。
柳田くんの香りがする。
「俺の心配は良いから。」
そう言って、両手で頭をわしゃわしゃっと撫でてくれた。
あぁ…ダメだ。
好きだ。
「…俺さ、どうしても雨の日は苦手なんだ。」
タオルを探しながら、そう呟く柳田くん。
「…え?…あ…。……波奈さんを思い出すから…?」
「…そう。」
そのまま、柳田くんはピタッと動きを止めてしまう。
髪の毛の先から、雫がポタリと落ちる。
気づいた瞬間には、私は柳田くんに後ろから抱きついていた。
冷たく濡れた衣服の中から、温かい体温を感じる。
「寺岡さん…!?ちょ、濡れちゃ───」
「───大丈夫だよっ…。私がいるからっ…。」
「──!!」
精一杯の気持ちを伝える。
柳田くんは、私の腕を引き剥がすとこちらを向いた。
「その言葉…寺岡さんにそっくりそのまま返すよ。」
そう言って、ギュッと抱き締めてくれた。
あぁ。
何て温かい人なんだろう。
私は、やっぱりこの人を好きになって良かった。
『逃げようと思っちゃダメだよ?』
ドンっ───!!!!
気づいた時には、柳田くんの胸を押しやっていた。
柳田くんは、目を見開いていた。
「…あ、ごめん。調子乗った。ちょっと着替えてくるわ。」
「あ、ごめん!違うのっ!!」
私は、慌てて否定をする。
「気にしなくて良いよ。」
ガチャリと、扉が静かに閉まる。
私は、頭を抱える。
やめてよ。
早く出ていってよ。
お願いだから。
もうこれ以上
私を縛り付けないで───。




