ありふれていて、そしてくだらない……そんなお話。
愛すべき近衛の兵が目の前で儚く散ってゆく……。
目の前に転がる首と、噎せかえるような血の匂いに酔ってしまったのか……
惨憺たる光景のはずが、宗主である彼女はそれをどこか夢物語のような……現実とは別の何かを観ているような……そんな感覚に陥っていた。
黒衣がはためき、踊る刀は燐火を纏って死を振り撒く。
それは負の激情に狂った暴悪ではなく、練達の士が織り成す美しい武技だった。
『御身は我らが必ずお守りいたします』
雄々しくそう言ってくれた近衛の副隊長が倒れた。
腰まで流れる金髪に青い目、端整の取れた身体に純白のドレスを纏った麗人。
女神の生まれ変わりと呼ばれる彼女は玉座から彼を真っ直ぐに見ていた。
彼もまた、その視線から目を背けずゆっくりと彼女に近づいて行く。
再びの静寂。
彼の間合いに彼女が入る。
「目的は、私とこの短剣ですか?」
「……」
加護を与えることのできる宝剣……単なる小悪党でしかなかった男がこれを偶然手に入れてしまったのが始まりだった。
加護を与えられた人は生命力と身体能力が上がる。
まさに奇跡の術……
そして《真》はこの短剣のある場所に所有者を誘う……加護を授かった人間を殺しながら……。
刀が哭く……だがそれもすぐにおさまった。
「あなたは、刀の怨念に囚われていないのですね」
「ああ」
「ならばお願いがあります」
「俺がそれを聞くとでも?」
顔を伏せ、それでもと再び顔をあげる。
「私の命とこの短剣など何も惜しくはありません……ですが、これ以上の殺戮を止めてほしいのです……身勝手な願いだとは重々わかっています。しかし全ては私の命によって行われたこと……そしてこの短剣から始まる神聖国の大罪によるもの……加護を持つ人の中には何も知らない……罪の無い人達もいるのです……」
目に宿る悲壮……必死の嘆願に彼女の身体も震えている。
だが……
「駄目だ」
彼が許すはず……ないのだ。
わかっていたというのに……
失望感が身体を満たす。
「この身と刀が滅びるまで、復讐は終わらない……お前を……お前達を俺は絶対に許さない……必ず殺し尽くす……それだけだ」
ぶつけられる殺意に呼吸を忘れ、恐怖に身体がすくむ……
わかるのは……死に満ちた彼の行く末のみ……
一筋の紅涙が落ちる……
(私達は一体……何のために……)
胸に突き立つ刀を見つめ……
彼女は静かに死を迎えた。
「マイ……父さん……」
短剣を空中に放り投げる。
太刀風が吹き……折れた宝剣が地に落ちる。
刀は狂喜し、弧影は次の敵を探すために玉座を後にする。
外には敵しかいない……だがその歩みに淀みはなかった。
この日、神聖国の歴史はたった1人の復讐者の手によって幕を下ろした。
殺して……殺して……殺し尽くした彼が最後に見た約束の風景がどのようなものだったのかは、誰にもわからない。
初めて書いた小説を完結させたい。その一念で書いた物語でした。
お付き合いいただきありがとうございます。




