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1ー3

「うわぁあああああああ!!……はぁ……はぁ……はぁ…」


 絶叫と共に飛び起きた青年は汗にまみれた額に手を当て、荒い呼吸を繰り返す。


 少しの間、そうしていると自分が布団の上にいることに気付き、段々と頭が回り始めた。


(さっきのは……夢?いや、それよりも今はいつだ……ここは、俺の部屋のようだが……ダメだ……何もわからない……)


 混乱する頭をどうにか落ち着かせるため、少しずつ情報を整理しようとするが記憶が混濁し、感情も昂っているためか思考が空転する。


「起きたようじゃな」


 落ち着いた声音と共に襖が開けられ彼女は現れた。

 それに驚き、固まる青年の横に流れるような所作で座る。


「えっ?……なぜあなたがここに……?」


「ふむ、やはりそうか……」


 青年の質問にそう呟くも、その女性は何も答えてはくれなかった。


「水じゃまずはこれをゆっくり飲むがよい」


 手渡された水を言われた通りゆっくり飲みながら、さらに混乱しそうになる自分を落ち着かせる。


「わしを覚えておるかの?」


 目の前の女性を見る。


 藍色の和服を着流しており、紺色の羽織姿。年齢は20代前半くらい、目と肩まである髪は青年と同じく黒だが、その造りは見つめ続ければ吸い込まれてしまうような錯覚に陥るほど、神秘的で美しい。


「もちろんです。おひさしぶりです、カンナ殿」


 青年はいづまいを正そうとするが、身体がうまくうごかなかった。


「無理をしなくともよい、お主の身体に蓄積された疲れは尋常のものではないのでな」


 記憶が混濁している青年はカンナのそのセリフを聞き


(なぜ俺がこんなに疲労しているんだ?)


 と疑問に思ったが、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった思考はその理由を断片的に思い起こしはじめてた。


 日暮れの鍛練

(やめろ!)

 村の入り口で見た惨状

(やめろ!)

 襲ってきた山賊風の男達

(やめろ!)

……師匠と……マイが……死んだ?


「うわぁあああああああ!!」


 頭を抱え泣き叫ぶ青年、その形相は狂気と哀しみに支配されていた


 ガバッ!!


「っっ!?」


 自分がその時どんな状況にあるのか青年は理解できていなかった


 だけれど……


(あったかい……)


 それだけは心が理解していた。


「これだけは忘れるな……お主はあのカフネの息子じゃ……」


 そう言って自分を強く抱き締めるカンナの中で、青年は哀しみと優しさを感じながら再び眠った。






 ……それは懐かしき情景


 パシッパンッパシッ


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肩を大きく上下させ、それでもなお闘志みなぎるその瞳に


「ふんっまだまだ修行が足りんな、もう終いか?」


 そう語りかけながら不敵な笑みを浮かべる老人は自分の父であり、剣術の師匠であるカフネその人だ。


「まだまだぁあああ」


 俺は必ずこの人よりも強くなる!!




 ……それはもう失われた情景


「お兄様!今日も見事にボッコボコですねぇ」


 俺の手当てをしながら無邪気に笑い、痛烈にそんなことを言ってくる妹のマイ


「きっついなぁ……ちょっとは労ってくれよー」


 苦笑いと共にそんな愚痴をこぼす


「はいはい、そーゆーのはお父様から一本とってから言ってくださいっねっっ!っと」


 ばちーん!と打ち身をした箇所に湿布を貼って立ち上がるマイ


「ぐぁぁ……」


 涙目でマイを見上げる俺に笑顔で


「今日は兄様の好きな鳥鍋だから楽しみにしててね!」


 そう言いながら台所に向かう妹の背中……10歳になったとはいえ周りの子より成長の遅い妹は、まだまだ小さい


 守るべき小さな背中を眺めつつ、強くなることを決意する。






 その村からは風の吹く音と土を掘る音しか聞こえてこない……


 風を背に受け、土を木製のシャベルで掘り続けている青年の姿は、どこか朧気で、舞い落ちる枯れ葉のような儚さを纏っている


(何も守ることができなかった俺はこれからどうやって生きていけばいいのだろうか……)


 そんなことをずっと考えながら青年は墓を作っていた。


 村人全員分を作る過程で、最初は死体を見て吐いてしまったり、泣き崩れてしまっていた青年も、残りがあと2人分になった時点では慣れてしまっていた。


 カフネとマイの遺体から槍を引き抜く作業をカンナと共に終えた後、カンナが遺体を綺麗に拭き、青年が墓を作っていた


 2人の遺体は抱き締めあったままにしておいた


(そのほうが寒くないもんな……)


 そして2人を埋め、師匠の刀をそこに突き立てる


 涙はもう枯れていた……


 生きる気力も尽きかけていた……


 二度目の眠りから覚めた青年は、カンナに弔いをどうするか問われた。


 この村を襲った集団の別動隊が来る可能性があるため、あまりここに長く居座れないことも同時に伝えられた。


 青年はその別部隊を迎え撃ち、この村を襲った理由を聞き出そうとしたが、カンナはそれを許さず、もし強硬するなら気絶させ、無理やり移動すると言い渡された。


(カンナ殿は強い。師匠の一番弟子で免許皆伝の腕を持つ方だ)


 こうなっては逆らうことができず、青年も諦め、せめて村人の供養だけはさせて欲しいと願い出たのだった。




「さて、一通り、弔いは終えたな……一休みしたら私の家に移動する。準備しておくのじゃ」


 そう促されても、その場で立ち尽くしている青年は微動だにしなかった


「これ、呆けている場合じゃないぞ?時間はあまりない」


「……カンナ殿……俺はもう……生きる気力がありません……」


 か細く、消え入りそうな声で青年は呟く


「ふむ、確かにな……今のお主からは活力が一切感じれん……だがな、お主の意思などすでに関係ないんじゃよ」


 ゾワッッッ


 その言葉と共に背後に立っていたカンナから殺気が放たれ、青年を威嚇した


「!?」


 その殺気に反応した青年の身体は振り向き様に構えをとる


「ふん……お主の心に活力がなくとも、身体は生きたがっているようじゃな」


 殺気が収まり、青年が構えを解くとカンナはさらに続けた


「お主がどう思っていようと今さら関係ないのじゃよ……すでに師匠からもしもの時はお主を頼むと言われておる……師匠の頼みは、無下にはできんからなぁ」


 苦笑と共に哀しみを滲ませた瞳が青年を射抜く


「お主を一人前にするためならば、わしはなんでもする覚悟じゃ。悪いが付いて来てもらうぞ。それともお主は、師匠……いやお主の父から授かったその技を腐らせ、ただ死ぬことを望むのか?」


 青年はその言葉を聞き、己の手のひらを眺め、そして墓に振り返る。


(……)


 再び、カンナと向き合った青年は、先ほどよりもほんの少し力強い瞳でカンナを見据え


「よろしくお願いします」

 そう言い、旅立ちの準備をするのだった。




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