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ヒュンッッ…ヒュンッッ…
日暮れまでもうすぐという時間帯のこの場所で、風を斬るような音が木霊する。
ここは村から徒歩で1時間ほど歩いた場所にある森の入り口で、青年は大体毎日この時間帯にこのあたりで自己鍛練をしていた。
「ふう…そろそろ日暮れか…頃合いだな」
緑のシャツに黒のズボン、革製の簡素な靴、腰に布を巻いており、手拭い代わりにもしている。
汗を拭い、呟くと、手に持った木刀を腰に差し込み、今日の収穫である猪を担ぎ上げ、村に向かって歩き出した。
この世界は大きく3つの国に区分されており大陸の中央線から西側が帝国領。 東側が共和国領となっており、北側の一部が神聖国の領土となっている。細かく区分すれば、貴族の領地や自治区など様々あるのだが、今は割愛する。
青年の住む村は、帝国領の国境際にある小さなところで、貧しいが平穏……そんなありふれたごく普通の村だ。
今日の夕飯は猪だと知ったら、妹のマイや最近少し元気のない師匠も喜んでくれるだろうと思い、少し足早に帰路を歩く。
異変に気づいたのは、村が視認できる程度の距離まで来た時だった。
村のあちこちで火の手が上がり、黒煙が夕空を汚しているのが見えた瞬間、担いでいた猪をその場に放り捨て、全力で村まで走る!
(なんだこれは!?盗賊か!?魔獣か!?いや、村には師匠がいる。こんなことになるはずがない!!)
発狂しそうな思考を走ることに集中することで無理やり押さえつける。
村の入り口付近に到着した彼は唖然とした。
「はぁ……はぁ……なんだこれは……?なんなんだこれはぁあああああ!?」
目の前に広がるのは見知った村人の死体の数々と燃え盛る家屋だった。
思考が真っ白になり、膝から崩れ落ちそうになる。
だが妹と師匠の顔が頭を過ると、全力で道場兼自宅であるその場所に向かって再び走り出す!
「無事で居てくれよ!!頼む頼む頼む頼む!!」
道場に近づくにつれ、異変が起こる。
それまで人の気配なんてしなかったはずが急にするようになったのだ。
(それも殺気が混じっている……?)
注意しつつも先を急いでいると、横合いの脇道から鈍色の刃が振り下ろされた!
その斬撃を咄嗟に前転することでかわし、振り向き様に木刀を腰から引き抜く。
「何者だ!!」
青年が発したその問いに相手の男は答えずさらに斬りかかってくる。
男は革製の粗末な鎧を着て、安物の剣を持った盗賊風の出で立ちだったが、その身のこなしは一定の訓練を受けているような動きであり、青年は戸惑った。
(兵隊くずれの盗賊か?それにしては動きに隙がなさすぎる)
「くっ」
(いずれにしても、こんなところで負けるわけにはいかないんだよ!!)
青年の意識が切り替わり、動きも一段階速くなる。
盗賊風の男は青年の急な変化に動揺し、多少の隙ができる。
そこに青年は渾身の突きを放つ!!
「ドシュっ」っという鈍い音がし、肉を穿つ感触が手の中に広がる。
「ゴフ……カハ……」
安物の革製鎧は喉を守ってはおらず、木刀は喉に突き刺さり、吐血と共に男は絶命した。
「はぁ…はぁ…やってしまった…」
青年は初めての殺人に動揺し、多少の震えを感じたが
(後悔や、気持ちの整理はすべて終わってからだ!!今はとにかく進むしかない!!)
歯を食いしばり、死んだ男から木刀を引き抜き、右手に持ったまま道場へと再び走った。
途中何度か山賊風の男に襲われたが、それらを戦闘不能にし進み続けて、やっとの思いで道場の近くまでたどり着いた。
そこはまだ燃えていなかった。
それに安堵し、そして……
青年は、その光景を生涯忘れることはないだろう……。
足が止まった、背筋に冷たいものが走り、周りの音が聞こえなくなるくらいに鼓動がうるさく鳴っていた。
目の前のモノが現実であることを認められない青年は、ヨタヨタという足取りでソレに近づいて行った。
ソレの周りには盗賊風の男達が群がっており、何やら話し合っていたが、そんなことはどうでもよかった……
「ま、まさか……」
(そんなはずない!そんなはずない!そんなはずない!)
「う、うそですよね……?」
(そんなはずない!そんなはずない!そんなはずない!)
山賊風の男達の1人がこちらに気付き、何やら言っているが耳に入らない……
「そんな、そんなはずがないんだ!!」
道場の出入口の前には……
そこには……
小さな少女の身長に合わせ、しゃがみこみ、守るように優しく抱き寄せる老人とその老人を抱き返している少女が、何本もの槍に貫かれた状態でそのままにされていた。
その光景は一種の神々しさすら感じさせるほどだった。
そして、青年を狂わすには十分だった。
刀は待っていた。
憎悪と殺意と哀しみに心を奪われたその者を。
みずからを解き放つことができるその者を。
((我が主となれ))
((さすれば殺戮の果ての風景を見せてやる))
((我は殺すための存在))
刀は呼んだ、魂の呼応を感じ、その者の殺意に惹かれ、その者を呼んだ。
バキッ…グシャーン!!
壁をぶち破り、吹き飛ばされた青年が刀の前に投げ出される。
「はぁ……はぁ……はぁ……殺してやる……皆殺しだ……絶対に許さない……絶対に!!」
青年は震える身体を少しずつ起こし、自分の身など省みず、前方に殺意、憎悪をぶちまける。
盗賊風の男達はそれに一瞬怯むが、青年がぶち破った壁の先にあるものに気付き、表情が変わる。
「おい、こんなところに隠し部屋があるぞ!!」
「見てみろ!奴の後ろに奉ってある刀を!アレじゃないのか!?」
「間違いない!情報と一致する。速やかに回収して、撤収だ!」
「っというわけで、すまんが死んでくれ!!」
男の1人が剣を振り下ろす!
(死ぬのか?こんなところで?まだあいつらを殺してないのに?それはダメだ……俺の命なんてどうでもいいが、それはダメだ……あいつらを殺さなきゃダメだ……殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ)
((ならば我を振るえ))
剣を振り下ろす男と青年の間で何かが弾け、そこを中心に衝撃が荒れ狂う!
その場にいた青年以外の全員が吹き飛ばされた。
((貴様に……殺戮の力を与えてやろう……))
青年にそう語りかける声に青年はなんの躊躇もなく従った。彼にはもうすがれるモノがそれしかなかった…
「つぅ~……なんだったんだ今のは……ん?なっっっ」
男は目の前の光景を信じられなかった。
情報では、誰もその刀を鞘から抜くことができないはずだった。
その刀は持ち主を選ぶ宝刀で、同時に呪われた妖刀だった。
あれが本物だったとしたら……
「おい!全員起きろ!!寝てる場合じゃねぇ!!」
男の叫びと共に起き上がった男達も目の前の光景に絶句した。
「どういうことだよおい!!情報では所有者はまだ決まってないはずだろ!!」
「知るか!!とにかくあのガキを殺して、持ち帰るしかないだろうが!!」
「人数はこっちが多いんだ落ち着いて対処しろ!!俺とギンがまず行く、その隙に囲め!!いくぞぉ」
「うらぁあああ」
山賊風の男達は混乱しながらも迅速に対応し、青年を抹殺しにかかった。
「お前らは許さない……絶対に!!」
剣閃が走る。
一瞬だった……一呼吸分の時間だけでギンと呼ばれた男ともう1人の男は斬り刻まれ、ただの肉塊となり果てていた。
「さぁ……殺し尽くしてやるよ……」




