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「やはり、こうなってしまったか……」
カンナの目の前には弟弟子が立っていた。
黒の上下には所々血の染みが着き、右手に握られた呪われし宝刀は、切っ先から血を滴らせている。
こうならないために自分はあらゆるものを犠牲にしてきたというのに……
苦笑いと溜め息しか出ない。
「お主の目的は復讐か?」
「……」
答えは沈黙……だが弟弟子から放たれる濃密な殺気が肯定の意を伝えてくる。
あの宝刀に込められている怨念は、神聖国の奉る神へのもの。
それを一身に受けている弟弟子にすでに自我はないのだろう。
あれはそういうモノなのだ。
だからカンナはあの宝刀を封印ないし破壊しなければならなかった。
例え、己の師を殺すことになろうとも……
カンナは神聖国の現宗主に仕える近衛部隊の隊長だ。
彼女にとって……いや、神聖国にとって彼の宝刀は最も忌むべき存在だ。
神聖国の領土は帝国や共和国よりも小さい。
だが、その歴史は最も古い国だ。
説く教義は世界中で信仰されており、他の2国の中枢にも根が張り巡らされている。
この世界を統べているといっても過言ではない存在だ。
だがもし……その存在理由を根底から覆す可能性のあるモノが在ったら?
それがあの呪われし宝刀《真》だった。
始まりはとあるペテン師の嘘だったのだ。
それが巡りに巡って今日に至った。
つまりそういうことなのだ。
神聖国の神になんの正統性もないのだ。
その真実を塗り潰すために幾千、幾万もの人が犠牲になってきた。
邪教徒や、反逆者として……。
《真》はそんな歴史の中で生まれた。
所有者に選ばれた者へ《真》は真実を語り、そして神聖国の教徒達を無差別に殺す殺戮機械にする。
そしてその者がまた新たな語り部に加わる……
歴史の中で幾度も現れ、そして消えていった……。
もしその存在を帝国や共和国に知られ、それらの手に渡ったら?
もし何かの拍子で真実が露見したら?
その結果があの惨劇だった。
少しの憂慮も残さぬために、村をまるごと焼き尽くす……
命令が出て、私が実行した。
顔見知りの村人が死に、信頼のおける部下が死に、敬愛する師匠が死んだ……いや、私が殺した。
所有者となってしまった弟弟子を引き取ったあの日から10年。
修行を終え、自分の下から旅立ったのが5年前。
5年間、あの刀は沈黙していた。
カンナは何度か破壊や封印をしようとしたが、触ろうとしたり、攻撃を加えようとすると何かの力で弾かれてしまい、出来なかった。
残った手段は弟弟子の抹殺……
上からもその指令は出ていた。
だが……できなかった……
今さら……だと思う。そんなことはわかっている……
それでも、できなかった。
私の弱い心は、甘い幻想に囚われてしまっていた。
弟弟子は所有者になったというのに、殺戮機械となったのは最初だけで、それ以降はいたって普通だったのだ。
心身を強く鍛え、生きる活力を与える。
そして自分との絆を深めればあの刀がもし真実を語ったとしても彼ならば大丈夫なのではないか……?
殺す必要などないのではないか?
そんな甘言に耳を傾けてしまった……
旅立ちの日、確かに寂しさを感じた。
彼の存在は、結果的に私にとってかなり大きなモノになってしまったのだ。
そしてそれが……最悪の事態を招いた。
(この手は……この身体は……今やあの刀と同等に血と呪いで穢れているというのに……今さら誰かを愛しく想う資格などないというのに……)
再び苦味ばしった溜め息を漏らす
そして……見据える……
「わしは神聖国の剣……お主は敵……ならば仕方あるまいな」
カンナは刀を抜き、構える。
白い軍服に包まれた肢体に力が行き渡る。
もはやその冷たく透き通った面に迷いはなかった。
美と死を一体とした名刀のごとき麗容……
半端な者では相対することすら許されないだろう。
殺気が膨れ上がり……
「行くぞっっっ!!」
そして……




