第三章:『ダブルベッドの境界線、あるいは湿った擬音』
『セプテンバー』の熱狂が冷めやらぬまま、僕らは「戦果」を連れてディー5を後にした。
男三人、女二人。セリカの車内は、期待に満ちた熱い吐息と香水の匂いで充満していた。狙い通り、相手はバスガイドの二人組だ。今夜は母が用事で泊まりなのをいいことに、僕は意気揚々と自分のアパートへ彼女たちを誘った。
だが、運命というやつは、いつだって最悪なタイミングで「知り合い」というカードを切ってくる。
僕のアパートの狭い玄関で靴を脱いでいる時、悪友の一人が声を上げた。
「……あれ? お前、もしかして、〇〇の妹か?」
その瞬間、支配していたギラついた空気は、一気に冷え込んだ。よりによって、連れてきた一人が悪友の顔見知りだったのだ。
人生というやつは、往々にして僕らの想定を超えた角度から牙を剥く。あるいは、舌を伸ばしてくる。
結局、その夜の構図はこうなった。僕の部屋は「知り合い」のペアに明け渡し、母の寝室にあるダブルベッドに、僕と悪友、そしてもう一人の女の子の三人が川の字で寝ることになったのだ。
左端に僕、真ん中に悪友、右端に彼女。
二人で襲いかかろうなんて野蛮な気は毛頭なかった。
ただ、深夜の静寂の中で、真ん中の悪友が「勝負」に出たのが気配でわかった。衣擦れの音と、彼女の微かな抵抗。数分後、悪友は不貞腐れた声で「……場所、変わってくれ」と僕に囁いた。
場所を入れ替わり、僕が真ん中になった途端、空気が一変した。
彼女が、待っていたかのように僕の身体に寄り添ってきたのだ。拒む理由などどこにもない。悪友がすぐ隣で寝たふりをしているという異常なシチュエーションの中、僕らは極めて静かに、そして事務的に「事」を終えた。
やれやれ、これでようやく眠れる。
そう思った瞬間、予想だにしないことが起きた。
彼女が唐突に布団の中へ潜り込み、僕の「それ」を口に含んだのだ。
十九歳の僕にとって、それは未知の領域に近い経験だった。生々しい肉体の感触と、静まり返った部屋に響く湿った音。僕はあまりの衝撃に少し腰が引けたが、同時に「大人の階段」の踊り場で、とんでもない景色を見ている自覚があった。
数日後、平岸の喫茶店。あの夜の悪友は、ニヤニヤしながら常連たちの前でこう言い放った。
「いやあ、まいったぜ。こいつの隣でよ、チュッパチュッパといい音が聞こえてきてよ……」
坂田さんが吹き出し、マスターが苦笑いし、のりこが少しだけ顔を赤らめて目を逸らす。札幌の夜は、どこまでも深く、そして時折、ひどく恥ずかしいほどに生温かかった。




