第二章:『セプテンバーの夜、ススキノ・ダンス・フロア』
ジョン・トラボルタが白いスーツでポーズを決める映画『サタデー・ナイト・フィーバー』の熱狂は、北の街、札幌にも容赦なく押し寄せていた。
みんなが同じ振り付けで踊る『アトラス』のような行儀のいい店には目もくれず、僕らはフリーダンスで不良っぽさが売りの『ディスコ55(ディー5)』に入り浸っていた。そこは、テーブル席でボトルをキープし、酒と煙草と、そして獲物を探す視線が火花を散らす場所だった。
夜が深まると、ダンスフロアに生バンドが入り、熱気は最高潮に達する。
ラストの定番はアース・ウィンド・アンド・ファイアーの『セプテンバー』。 あの高揚感のある曲が響き渡る中、フロアに漂う空気は「純粋なダンス」から「剥き出しの狩り」へと変質していく。
フロアの隅で最後まで踊り続けている女の子たちの目的は明白だった。
彼女たちは、誰かに「持ち帰り」されることを待っている。それは、まるで最後の一曲が終わるまでに相手を見つけなければならない、残酷な椅子取りゲームのようだった。
「今日はどうする? バスガイドのグループがいるけど」
高校時代からの悪友が耳元で囁く。僕はセリカのキーをポケットの中で転がしながら、品定めをするようにフロアを眺めた。ディマジオのジャケットを羽織り、マスターの影を背負った今の僕は、かつての無邪気なガキではない。
バスガイドの彼女たちは、仕事の制服を脱ぎ捨て、派手な服に身を包んでいても、どこか「日常」の匂いを引きずっていた。そんな彼女たちをセリカの助手席に乗せ、夜の静寂へと連れ去る時、僕は自分がこの街の支配者の一員になったような錯覚に陥った。
だが華やかなステップの裏側で、僕らはみんな、何かに追われるように踊っていたのかもしれない。




