第四章:友への博打、パドックの詐欺師
幸福な時間は、いつだって炭酸が抜けるよりも早く過ぎ去る。
ダブルベッドでの一件を言いふらしていた悪友が、ふっつりと僕の前に顔を見せなくなった。久しぶりにかかってきた電話の声は、僕の知っている彼のものとは似ても似つかない、砂を噛むような掠れ方をしていた。
「……車、貸してくれよ」
僕は車を貸すのが好きではない。ましてや、電話越しに伝わってくる尋常ではない気配。僕は嫌な予感を振り払うように、「俺が運転する、どこへ行くんだ」とだけ答えた。
待ち合わせ場所に現れた悪友は、見覚えのない男を連れていた。その二人の瞳には、平岸の店に時折現れる「イカれたカップル」と同じ、焦点の合わない虚ろな光が宿っていた。僕は何も聞かず、ただ彼らの指示通りススキノの雑居ビルへ車を走らせた。あの上階には、覚醒剤を扱う組事務所が入っているはずだ。
数日後、僕は彼に連絡を取った。「そんな奴らとつるんでないで、俺と遊べ」。
僕は彼を、平岸のあの白い喫茶店へ、そしてマスターの元へ引き込むことに決めた。あちら側の闇に飲み込まれるくらいなら、まだこちら側の闇にいた方がいい。それが、十九歳の僕が出した、精一杯の「友情」という名の博打だった。
悪友もマスターと親しくなり店に二人で出入りし、僕は働く女の子達とも深くなり、店の鍵を預かりシャッターを閉めて帰ることも多く、女の子達
の様々な事情にも通じ、頼られる存在となっていった。
それからは黄金色の停滞だった。週末になればマスターのセドリックで競馬場へ繰り出した。パドックで目星をつけた客に別々の番号を教え、当たった時に分け前をせびる詐欺師を二人で脅し、追い払った。
夜はマンションの一室での三人麻雀。有名チームの監督が座り、隅には金貸しの男が控える。全てが淀みなく回っている。面白ければそれでいい。そう思ってアクセルを踏み続けた、あの不純で黄金色の季節。
――けれど、雪が降り始める。
すべてを真っ白に覆い隠す前に、一度だけ激しい嵐が来ることを、僕はまだ知らなかった。
続きは↓
札幌、北の境界線 ―― NORTHERN BORDER ―― vol.3:白日の亀裂、あるいは遠ざかる轍
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