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第2話 接触病ー美しいものへの執着と、利害関係のはじまり

「はぁ?」

チュンチュンと

庭に雀が朝を祝福するかのような

鳴き声が響く。

慈眼は目を開けた。

そして目を開けたことを後悔した。


黒髪に黄金の目を持つ蘇芳という少女は

自室で、頬を赤らめながら

手のひらサイズの藁人形を取り出し

頬ずりしていた。

昨日はよく見ていなかったがよく見ると

部屋の壁には同じような藁人形が

数十体並べられている。

気持ち悪いものをみたなと慈眼は思い、

見なかったことにしようと思った。


だが、壁にある藁人形もガタガタと震え

【モットナデテ】

【アタタカイ】

【ダキシメテ】

と何事がぶつぶつと言っている。

慈眼はその藁人形を見ていると

お腹が空くことに気が付き、

陶器の体を動かし、

壁にある藁人形の一体を掴み

まじまじと見てみた。

「蘇芳、お前・・・これ」

慈眼が言い淀んでいると蘇芳は

「あ、気が付いてしまいましたか?はいこれは―ケガレの欠片です。

でもお腹が空いても食べないでくださいね、

これは私の大切なものですので」

そう蘇芳はけがれマニアで

収集癖があったのだ。


慈眼はぼそっという

「俺を盗んだのってもしかして・・・」

蘇芳は、キラキラした目で慈眼へ言う

「はい!最上中に美しい病を初めてみたので

持ち帰りたくなりまして!」

慈眼は聞かなかったことにした。


陰陽師の朝は早い。

朝起きたらまずは三原則を唱える。

1 病は欲望から生まれる

2 病が悪化すると妖になる

3 病は広がる前に抹消、

できなければ封印をする。


唱えた後に、呪文を唱え、神仏に祈り、

祝詞を唱えた酒で場を清める。

火で浄化した正常な水を作ったり

特別な呪術を込めた札を作るのだ。

病によって効く呪術は違うため、

足りない数を確認して作成している。

病にあたった人から別の人へ行くときは、

自分の身を清めてから向かう決まりだ。

日々、病にかかった人が運ばれるため、

陰陽師堂は大忙しだ。

柴犬のようにふわふわした髪を持つ男、芹は、

同じく見習いが事件を起こしたと聞いて

そわそわしていた。


頭に浮かべていた人物が、

同じ背丈くらいの人形を

引き連れてやってくる。

無機質な表情を浮かべた少女と、

怒りの表情を浮かべた

陶器の体をつけた人形だ。


表情を浮かべてないと

どっちが人か分からないな

と芹は思いながら声をかける。

「おーい、すおーう!」


せりが呼びかけると、

蘇芳は表情のない顔を少しだけ緩め、

駆けよる。

「芹!私やらかしてしまいましたー」

悪びれてないように言う、

その首には青い印がある。

まるでこの線に沿って

首を切られた後のようだなと芹は思った。

芹は、同じ時期に陰陽師見習いとなった蘇芳の悪癖を知っていた。

今回のことも、

有名な妖を一目見てみたいと思ったのだろう。


芹は、横にいる

陶磁器の体を持った不機嫌そうな表情をした

男でも見惚れる少年の顔を見る、

きっとこいつが女だったら惚れてた。

ごまかすかのように芹は蘇芳を見て言う

「蘇芳、これがあの・・・酒呑童子か?

その昔に、源頼光が持ち帰り安倍晴明が

調伏したとされる酒呑童子の首だぞ!!!

当時の討伐に引き連れた人間のほとんどは

死に、酒呑童子に連れ去られていた姫は

全員病が進行し

手遅れだったっていうじゃねぇか?

よく生きていたな」

と蘇芳へ言うと


不機嫌そうに慈眼が言う。

「うるせぇ、若造。お前を守れなんて

一言も言われてないから噛みついてやろうか?あぁ?」

威嚇するように慈眼が長い牙を見せる。

獰猛なトラのようだ。


「まぁまぁ、慈眼、お腹空いているでしょ。

ちょっと病を見てくださいますか?」

慈眼が今にも

芹の喉元を嚙み切りそうな顔をしていたため、

蘇芳は気をそらすため、

慈眼に病人がいる小屋を指さす。


慈眼の表情がさっと変わって

蘇芳が指さした方でなく別の方向へ走り出す。

「え、慈眼!」

慈眼が小屋の入り口の布を開けると、

汚れた布団の上に不釣り合いな

赤い宝石を散りばめた体を投げ出すように

女性が眠っていた。


慈眼の表情が曇り、

後から追いついた

蘇芳たちにドスの聞いた声で聞く。

「なぜ、この小屋はこんなに汚いんだ?」


芹が答える。

「この病はうつります。

だから私たちも触れない、

看病ができるのは

直接さわらずに済む人形遣いのみ

だけど、人形遣いの数は多くないー。

貴族の方々へ優先的に

人形遣いはつくことになります。

結果的に数が足りなければ

平民は手が回らずこうなります。」


芹の言葉を聞いて慈眼は

不機嫌な表情を隠さない

「うつるのが怖いから触らねぇのか?

貴族も平民も人間に変わりはないだろうが、

優先順位をつけるざなんざ、

陰陽師様は偉いもんだな」

と吐き捨てるように慈眼は言いながら、

陶器の体を動かしながら女性に触れる。


宝石だらけの女性は、ふと慈眼の顔を見た。

「あぁ、誰なの?私に触れてくれるのは・・・・?」

触れたところから女性の皮膚が裂け、

柘榴色の宝石が出てくる。

慈眼は青い眼を光らせながら言う。

「腹が減った。お前の病を喰わせろ」

慈眼はそのまま彼女の宝石を見て噛みつく。


「え!」

噛みつかれた女性は驚きの症状を見せて

もがく。

慈眼はそのまま宝石があるとこを

容赦なく噛みくだいた。

周りに宝石の破片がキラキラと舞う。

芹が慌てて止めようとする。

「この病は触れれば触れるほど、

悪化するんですよ!」

芹が言うと慈眼は振り向いて言った。

「この病の患者に触れたら体をすぐ清めろ、

布団もすぐ酒で清めろ。

そうすれば看病するものは、感染しない」

と言い切りその患者を抱きしめた。

芹は触っていけないし止めることができないと

おろおろとしながら蘇芳を見たが

蘇芳は芹へ首を振るだけだった。


蘇芳には見えていた。

慈眼が宝石を嚙み砕く度に、

女性の胸のあたりにある

黒い靄が消えていくからだ。

―病を喰っている

蘇芳は直感した。


慈眼だけがその青い瞳を一切そらさずに

赤い宝石を捉える。

ひときわ大きな石が

女性の背中の皮膚を破って発生した。

その羽をみて思った、羽化のようだと―。

その赤い宝石の羽が、

さらに背中を引き裂いて

すらりとしたのっぺらぼうの少女が出てくる。

【サ・・・ ヒ・・・】

と赤い宝石の体を持った少女は言う。


芹が引き攣れた声で言った。

「あ、あやかしだっ!」

芹の恐れを込めた声を聴いて、

蘇芳はすぐに人差し指を動かし、

近くにいた木偶人形を引き寄せた。

―いますぐ抹消しなくては!

蘇芳は清浄な炎を出すため、

さらに指を動かしたその瞬間。

慈眼が木偶人形に繋がる糸を断ち切る。

《《黙って見ていろ》》とでもいうように


その少年の綺麗な口が耳元まで裂け、

人間ではない形相を見せる。

まっすぐと射抜く青色の瞳が赤を映していた。

「俺が喰らってやる」

赤い宝石の少女へ噛みついた。

途端に慈眼の顔にも宝

石が皮膚を突き出てでてくるが

それも一瞬で

何事もなかったかのように消えた。

その瞬間、宝石は砕けて

キラキラと舞いながら消えていく。

「はぁ、腹いっぱいだ」


病にかかっていた女性は

宝石一つない肌をして

しゃがみこんでいた。

「な、治っている!?」

芹が驚いたように言う、

蘇芳も驚きを隠せない。

あそこまで進んだ状態の病を

どうにかできたのだろうか?

女性は自分の胸を抱きしめるように頷いた後、

「ありがとう、ありがとう・・・」

と言って気を失った。

蘇芳と上着を脱いで、

女性が寒くないように着せる。

芹は目を輝かせて慈眼へ駆け寄り言った。

「すげぇ!!本当に病を喰った!」


隣から私も興奮を抑えきれずに慈眼へ言う

「抹消もせずに、あんなに進行していた病を

人に戻せるなんてすごいです!」

慈眼はうるさそうに陶器の体で耳をふさぐ。

「あー!落ち着け!

俺はただ病が喰いたかっただけだ!」


興奮冷めやらぬ中、

後ろからパチパチと拍手の音が聞こえる。

思わず蘇芳も芹も振り向いた。

狐のような顔をした大男、

師匠が慈眼に向かって言う

「さすが酒呑童子!病だけを喰うという言葉、

嘘でなかったのですね?」


「なんだよ、俺が人を喰うと思ったか?」

口元をぬぐいながら慈眼が言うと

師匠は心底嬉しそうに慈眼へ告げた。

「あなたが先ほど食べた赤い宝石が

できる病気ですが、

他の患者も同じように

寛解かんかいしましたよ、

どうやら貴方が喰った病は

すべからくなくなるようですね?」

その言葉を聞いて、

蘇芳は部屋にある赤い宝石ができる患者のけがれの欠片も消えているのだろうか

とふと気になったが顔に出さないようにした。

芹がこちらを見つめてくる。

芹は私の収集癖を知っているため

気になっていることが分かっているようだ。


「・・・」

慈眼は芹の視線で

私が何を考えているかわかったのか、

じとっとした目で蘇芳を見てくる。

そのあと、ニコニコと笑う師匠を見て

さらに機嫌を悪くさせた。

「都を救う救世主様」

師匠は、慈眼の不機嫌そうなそぶりなど

まるで気にしていない告げる。

「同じように病を

これからも喰っていってくださいね?

お腹、減るでしょう?」

師匠は私の肩に手を置きながら言った。

首の印が慈眼の目に入る。


慈眼は舌打ちをした後に

「あぁ、腹が減って仕方ないから

喰ってやるよ。」

と自分の首を触りながら言った。

慈眼の肌と同化している青い絹糸が目に入る。

まるでわかっている

と師匠に言うよな仕草を見て

妖でもやっぱり痛いのは嫌なのだと

と蘇芳は思いながら、

慈眼の表情を見ていた。


「よ、よかったぁ・・・」

蘇芳は一日を終え、部屋に戻ると

すぐさま心配で仕方なかった藁人形を見た。

赤い宝石の対応した人の一部を入れた

藁人形は今日もカタカタと震えている。

【サミシイ】

【アイサレタイ】


じとっとした目で呆れたように蘇芳を見る。

「それ欲の欠片だろ?けがれの元の

お前なんでそんなもん大事にしてんだ?」


蘇芳は答える。

「欲は美しいからー

・・・分かっているんです、

陰陽師としておかしいって

だって欲は病の元で妖になるものでしょう?

私は異端なんですよ

でも惹かれてしまうんです。

この気持ちは理屈じゃない」

慈眼をまっすぐ黄金の瞳が射抜く。


蘇芳の答えに静かに慈眼は言う

「おかしくねぇよ、

欲なんてな人間ならだれでも持っているもんさ

腹が空いたら飯を喰う、眠たくなったら寝る、これも欲だ。」

慈眼は何かを考えこむように言った。


蘇芳は慈眼へそっと手を伸ばしていう

「頬に触れてもいいですか?」


慈眼は目をそらしながら言った。

「あぁ、許してやる」

ひんやりとした肌、

生きていないんだろうと思う。

でもこの焦燥感は一体なんなんだろうか・・・・。


蘇芳は思う、やっぱりこの妖は美しいー


まるでこの妖に触らないと

私が壊れてしまうと感じるくらいに。

世界の輪郭を描いた回でした。

ここから、その内側を書いていきます。

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