表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【病を喰らう酒呑童子と、病を祓えない陰陽師の怪異譚】  作者: 白瘡
二章 摩天楼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/29

第23話 逃走病 【思いの重さ】

 中に入るとじっとりとした闇だった。


 闇を飲み込んだような摩天楼の入り口を私は思わず息を飲んで、歩を進める。

 壁の左右には狐を模した灯篭が取り付けられ、ゆらゆらと揺れて、その影に沿って

 自分の影が揺れていた。


 慈眼が先頭を歩き、芹が私に縋り付きながら真っ暗な部屋を進んでいると、闇の中で何かが蠢く。

 私は思わず、慈眼達に言った。


「何か居ませんか?」


「おれには見えない、見たくない!」


 芹は震えて前を見ようとしていない、目を瞑って歩いている。

 慈眼は、芹を見てため息を漏らす。


「芹、目を瞑った方が怖くねぇか?」


「もうどっちも怖い! どうしたらいい?」


 芹が、私に持たれるかかるようにしているので、中々に歩きずらい。

 私は、芹の手を持って勇気づけようと思った。


「どちらも怖いなら目を開けましょう。美しいものがあったときに見逃しますよ」


「嫌だ! 開けたくない!」


 芹は、私がせっかく勇気づけたのに目を開けない。


「蘇芳、それはお前しか目を開けないだろ……。

 芹、目開けねぇと逃げれんぞ」


 慈眼が言うと、芹が恐る恐る目を開けた。


「……何かいるっすね」


「いるな」

 芹と慈眼も、目の前の蠢くものに気が付いたみたいだ。

 カサカサ――。

 白いものが闇の中で蠢き、歩を進めるごとに灯篭の数が増え、部屋が明るくなる。


 目の前には大量の狐がいた。


 白い狐が、百匹くらいはいる。

 部屋の広さは庶民の家の三件分くらいはある広間に狐が群れを成してこちらを見ながら座っていた。

 狐の後ろには木製の赤い階段があり、その上には鉄製の大きな扉。

 私は思わず、声を漏らす。


「狐が……」


 私が呟くと芹と慈眼も反応する。

 私達は、狐を通り抜けながら階段の方へ進む。


「狐っすね」


「狐だな」


 芹と慈眼が返事をすると、狐をじっと見た。

 狐は全部同じ顔をしていている、毛並みも一緒。

 一つだけ違うところがあった。


「額に……数字が書いていますね」


 額に数字が書いている。

 何か意味があるのだろうか。

 私の呟きに慈眼が、狐を観察するようにして見た。


「数字なんてどこにもないぞ」


「え、そんなはずは」

 私はもう一度狐たちを見る。

 何度見ても額には、数字が書いている。


「芹は、見えますか?」

 私は芹にも確認をすると、芹は目を何度かこすりじっくりと狐を眺め


「いや、おれにも見えない」


「私だけに見える……」

 私は芹の答えに自分だけ見えることの意味を考えていた。

 慈眼は私の考えこんだ顔を一瞬見た後、私の横を通り過ぎた。

 慈眼の綺麗な白銀の髪が私の横をかすめてつい見入ってしまう。

 狐が一匹私に寄ってきた。


「とりあえず、先に進むぞ」


 慈眼は、狐を無視して階段を上り、扉を開けようとした。


「は、重てぇ!!」


 だが、びくともしない。

 慈眼の手が力入れても動かず、体全体で押すようにしても動かない。

 慈眼は全体重をかけるかのように扉を背中に押し付けて足を突っ張ったまま

 後方にいる芹へ呼びかけた。


「芹! 来い!」


 慈眼が大きな声を出して芹を呼ぶ。


「え、あ! え!」

 芹も慈眼から睨まれて慌てたように手伝ったが、爪先ほども動かなかった。

 ついでに私も全体重をかけて扉を押したが三人の力を合わせてもダメだった。


「動かないですね……」

 私が呟くように言うと


「普通に通す気がなさそうだな、あざねは……」


 慈眼が、イラつくのか扉を蹴った。

 ゴウンっと厚みがある低い音がする。


「ナニコレ、どんな人間なら開けれるんすかこれ」


 芹が扉の前に座り込んだ。

 私は、扉をじっくりを眺めていると、鉄の扉の真ん中には、丸い何かをはめるくぼみがある。


「扉に窪みがありますね。何か、仕掛けがあるのでしょうか」


 私が二人に言うと芹が扉の方を見る。

 そして手でくぼみを触った。


「仕掛けって何が……」


「部屋にこれに嵌るものあるか見てみるぞ」

 三人で探してみたが、部屋には狐しかおらず、この窪みにはまるような物は、なにもなかった。

 扉の前に集まり、頭を抱える私と芹。

 慈眼は扉を足で小突いている。


 狐が、私達が困っている姿を眺めるように着いて来て階段を上ってくる。

 慈眼はそんな狐を見て呟いた。


「腹立つなこいつら」


 慈眼がそう言うと、塔の上部から甲高い音が響いた。

 余りの大きな音に耳を抑える。


「狐の額に一から九十八まであるわ、その中の九十六の数字の子を連れてきたら

 次の扉に入れるわよ」


 あざねの声。

 慈眼がすぐ声に反応した。


「早く出てこい!」


 慈眼の声が大広間に響く。

 反響して声が返ってきた。

 上からあざねの笑い声が聞こえる。


「そう、焦らないで。ちゃんと会えるわ

 私の言う通りに進めばね。じゃ、頑張ってね」


 それっきりその声は聞こえなくなった。

 芹は私達の横で、息を吐き出し


「怖くなくてよかったぁ」


 と一人呟きながら狐を眺めていた。


 狐を捕まえないと思うと、私の気持ちを気取ったのか近くにいた狐が高く飛んで階段から奥側へ降りて行った。

 額には九十六。


「でも、数字って蘇芳にしか見えないですよね」


「全部捕まえたらいいだろ」


 慈眼はそう言いながら、狐を観察するように見ていた。

 私は、狐は歩き回るせいで、額の数字がよく見えない。

 狐の額をじっくり見ると、広場の階段から一番遠い所に九十六の狐がいる。


「あ、あそこに九十六の狐がいます」


 私が指し示した方を二人とも見た。


「どこだ」

「うん?どこっすか」


 二人はやはり見えないようだ。


「見えないんですね……私が捕まえますね!」


 私は、二人に協力してもらう事を諦めて、私は糸を狐に投げる。

 しかし、狐を捕まえるはずの糸がすり抜けた。


「あれ……」

 私の疑問の声に何かを察したのだろう。


「掴めないのか?」


 慈眼が私に聞いてきた。

 私は、もう一度糸を狐へ投げる。

 完全に狐を捉えた糸は、


「えぇ……」

 無残にも通りぬけた。


「待ってろ」

 慈眼は階段を降り私が糸を投げた方向へ走り、狐の一匹を捕まえようとした。

 狐は、高く飛びあがり逃げようとしたが、慈眼の方が早く、その尾を掴んだ。

 ――かに見えた。

 その手をするりと抜ける尾。


「こいつら実体ねぇな」


 眉根を寄せ、苛立たし気に慈眼が呟いた。

 芹も、自分の近くにいた余裕そうに座る狐に突進をする。

 そのまますり抜けて芹は転び階段を滑り落ちる。


「痛っ! 掴めない! え、どうしろと……」


 芹が頭を打ったのか蹲りながら言った。

 狐が芹が転んだのを見たのを馬鹿にしたように何度か飛び上がった。


「馬鹿にされている気がする!」


 芹は狐を指さし、いじけたように唇を尖らした。

 狐はこちらを見ながら何度か飛び上がる。

 ――捕まえられるなら捕まえて見ろとでも言うように。

 私は階段から降りて広場に出た。


 狐は私達の周りを取り囲む。

 慈眼も私も狐を何度か追いかけ、逃げて行ったりすり抜けたりする。


 狐は私達が追うたびに、可笑しそうに口を開けて近づく離れるを繰り返していた。

 一刻ほど同じことを繰り返し、私は疲れ切っていた。

 横を見ると芹は、息が切れて座り込み。

 慈眼は、狐を目を見開いて睨みつけていた。


 いい加減追いかけすぎて息が切れる。



「はぁはぁ……やっぱり、おれの事、馬鹿にしている!」

 と芹が立ち上がって地団太を踏んだ。


「たしかに、ぜぇ……狐に馬鹿にされているような気がします」

 私も芹と同じ気持ちになり返答をすると、九十六の狐が笑った気がした。


「くそ狐」

 慈眼も苛立たし気に狐を睨みつける。


 狐はわざとなのか私達の方へ寄ってきては逃げるを繰り返している。

 芹が狐に馬鹿にされたことが許せないのか、もう一度捕まえようとしたが

 遠くへ駆けていく。

 芹が、しゃがみ込みながら狐を見つめる。


「触る事が出来ない。

 数字を見れるのは蘇芳だけ。

 え、ナニコレ、無理じゃないっすか」


 芹の声が広間に響き渡る。


「面倒くせぇ」

 慈眼は頭を掻きながら言って、狐を憎らし気に見つめる。


「どうしましょ……これ」


 私は、もう追いかけたくないなと思い。

 自分の疲れを癒すために、慈眼の美しい顔を眺める。

 私と芹と違って息は上がっておらず、真剣な顔で考え事をしていた。

 狐に囲まれる慈眼は、思わず絵になると思いばれないように眺める。


 その時、九十六と額に書いた狐が私の方へ寄ってきた。


 私がすぐ触れるところまで来た。

 ――私だったら捕まえられるんだろうか

 私は狐に手を伸ばした。

 その手はすり抜ける。

 狐は、すり抜ける手を、せせら笑うように口角をあげた。


 私が近くに来た狐に手を伸ばしたのを見て慈眼が声をかけてきた。


「蘇芳、今の狐の数字は何番だ?」


「九十六番の狐です」


 私が返事をすると、慈眼は考え込むように目を閉じる。

「すり抜ける、九十六……」

 ややあって慈眼が、私を見て聞いてきた。


「蘇芳、今何を考えていた?」


 思わず言葉に詰まる。

 真剣にどうにかしようと考えていた慈眼の顔を盗み見ていました。

 なんて言ったら、怒られる気がする。

 私は誤魔化すことにした。


「……え、追いかけたくないなって」


 慈眼が目を見開いた。


「蘇芳、追いかけなくても、捕まえなくていい。

 扉の前に行け」


 慈眼はそう言うと、床に座り込んだ。

 そして、疲れ切って休んでいる芹に声をかける。


「芹、お前もここでただ休んでいろ、蘇芳だけ扉の前に行かせろ」


「え、なんで?いや休んでいいなら休みますよおれ」

 芹は不思議そうにした後、嬉しそうに床に大の字になった。


「え、じゃぁ私だけ行きますね」


 慈眼は私の返答に頷く。

 狐は、私が捕まえようと思わなければついてくる?

 たしかに思い返すと、慈眼の事を考えていた時だけ寄ってきている。

 これは慈眼には言えないなと思いながら、階段を駆け上がる。


 なるべく慈眼の事を考える。

 ――この気持ちは、霞の体の気持ちなんだろうか。


 どこからどこまでが安倍晴明の思惑で、私の気持ちは作られたものなのか気になる。

 慈眼の青い瞳を思い出す。

 この鬼の為なら、なんでもしてあげたいと思う気持ちがある。


 扉の前についた。

 後ろを振り返ると、九十六と額に書いてある狐が私の傍にいた。

 狐は私の顔を覗き込むようにして見つめる。

 狐が口を開いた。


「その欲はお前の欲か?」


 私はその問いに思わず扉の方へ後ずさる。

 狐が喋ったことにも驚いたけど、一番驚いたのは図星をつかれた事。

 私の考えている、この気持ちは私のものかどうか。


 慈眼が私が後ずさったのを見て、下から声をかけてくる。


「蘇芳!どうした」


 私の名前を呼んでくれる慈眼。


「えぇ……ちょっと狐が喋って……大丈夫ですから」


 何よりも美しい白銀の髪、青い瞳。

 ――あの鬼は私のものだ。

 安倍晴明にも、この体の持ち主の霞にも、あざねにだって渡さない。


「これは私の欲です」


 そう狐に伝えると、狐はくすりと笑うように目を細めた。


「ならば、その欲は絶対に捨てるな」


 そう言うと狐は高く跳ね、白い体が光にほどける。

 次の瞬間、地面には淡い桃色の宝石が落ちていた。


 その宝石を拾い扉に取り付けた。

 光り輝く紅水晶。

 カチャリと扉の鍵が開く音がして、自動的に扉は開いた。


 慈眼と芹が階段を駆け上ってくる。

 慈眼を追い抜いて階段を一段飛ばしで上がり、芹が目を輝かせた。


「なんか知らないけど、やっと開いた!」


「開きましたね」


 私が言うと、芹は後ろから歩いてくる慈眼の方へ向いて言う。


「なんで、追いかけたらだめってわかったんすか」


 慈眼は、扉の前まで来て芹へ返答をした。


「あざねは捕まえろでなく、連れて来いって言っていたことと

 番号をわざわざ指定して来たからな、それで考えたんだよ。この塔の名前を」


「塔の名前は九十八結ですよね」

 私が慈眼へ言うと、小さく返答する。


「あぁ、仏教用語だ。ということは九十六にも意味がある。

 煩悩の貪――抑えようとしても抑えられない欲を示す。

 なら、捕まえようと思っては駄目だと思ってな」


 私は慈眼が言った。抑えようとしても抑えられない欲という言葉で合点がいった。

 あざねは私の心をどこまで見ているのか怖くなる。

 思わず自分の首にある×印に触れた。


 私は、慈眼への気持ちが抑えきれない。

 執着をしている。

 少し気まずい気持ちになり、目を逸らす。

 慈眼は気が付いてない。


 慈眼が、芹にここまでわかるかと小さく聞くと芹は頷いた。

 そして続ける。


「蘇芳だけに見えるなら、蘇芳は捕まえようとしなければ連れて来れる。

 欲を無くせばいいんじゃないかと思った」


「それで私に『追いかけなくていい』と言ったんですね」

 私がそう返すと慈眼は頷く。


「あぁ」


「捕まえろと言っているとばかり……」


 ただ慈眼の推測が当たっていない事が一つだけある。


 むしろ私は欲まみれなのだ。

 慈眼には言えないけど。

 私は、最初に出会った時より欲深くなっている。


 私の含みを持った言い方に芹は気が付かず、ため息を吐く。


「追いかけてはいけないなんて気が付かないですよ」


 と芹が肩を落としてがっくり頷いた。


 慈眼が芹の背中を叩く。


「ほら、行くぞ」


 慈眼は目の前の入り口を眺める。

 私も目を向けると、扉の先は黒い煙で充満をしている。

 部屋の奥からは笑い声が聞こえた。


 ――老若男女のとても楽しそうな声。


 私は二人に目を合わせた。


 慈眼が、私と芹を止める。


「俺から入る。お前らは後からついて来い」


 私は一瞬迷ったが、その背中を追った。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2026/03/18(水) のランキング ■ 04-07時更新 医鬼【病を喰らう酒呑童子と、病を祓えない陰陽師の怪異譚】N1523LV 95 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - すべて 70 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - 連載中 292 位 [日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - 連載中 2026/03/16(月) のランキング ■ 11-12時更新 医鬼【病を喰らう酒呑童子と、病を祓えない陰陽師の怪異譚】N1523LV 95 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - すべて 70 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - 連載中 285 位 [日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - 連載中 ■ 04-07時更新 医鬼【病を喰らう酒呑童子と、病を祓えない陰陽師の怪異譚】N1523LV 91 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - すべて 65 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - 連載中 277 位 2026/3/1 ■ 18-19時更新 医鬼ー病を喰らう酒呑童子と、病を祓えない陰陽師N1523LV 74 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - 連載中 192 位 医鬼ー病を喰らう酒呑童子と、病を祓えない陰陽師N1523LV 72 位 [日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - 連載中
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ