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【病を喰らう酒呑童子と、病を祓えない陰陽師の怪異譚】  作者: 白瘡
二章 摩天楼編

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第18話 羽肩病 【名声の対価】

 肩に生えた羽は、カラフルで眩しいほど派手だった。

 まるで小さな孔雀が肩に乗っているみたい。

 羽は光を受けて、ぎらぎらと色を変えていた。

 クラゲとの戦いで疲れ切った私たちの前に、あざねの使いだという女性が現れた。


 慈眼は、あざねの手紙を破ると


「喰わせろ」


 と孔雀の羽がある女性に言った。

 女性は眉間に皺を寄せ、自分の羽を大切そうに持って私達を見る。


「え、いや、目立たなくなるじゃん?」


 羽が生えた女性は、花と名乗った。

 黒髪、黒目、肌が少し浅黒い。

 ごく普通の見た目をしている。


 2年前から、急に肩に羽が生えだしたそうだ。


 私達は、花に連れられて摩天楼の近くの宿へと案内されている。

 みやさんがいない以上、あの場所にとどまらないでほしいとのことだ。


 食べ物が立ち並び、人通りが多い商店の道を私達は歩く。

 周りの村人は、最初に慈眼を見るが、花の肩の羽を見て関心したように手を叩く。


 花は笑いながら、わざと人の多い方へ肩をぶつけていく。


「ほら、見てるでしょ?」


 誰かの感嘆した声を聴く度、羽が大きくなっているように感じた。


 肩の羽は歩く度に羽ばたき、後ろにいる私達の顔にあたる。

 痛い。少し、距離を取った。


「うわ、あの羽…自立して動いてる?」


 芹が目を丸くした。

 羽が歩くたびに羽が道行く人にあたっていく。

 花は、嬉しそうに笑った。


「ふふ、あんたたちといればもっと目立ちそうだって、あざねさまが言ってたの!」


 師匠から聞いた孔雀を思い出す。

 確かに、これは…派手すぎる。


 慈眼が冷静に首を傾げる。

「…お前、それ邪魔だろ」


 慈眼が言うと花が、振り向いて返した。


「価値の重みですよ!」


 羽とは言え、たしかに重そうだと私は感じた。

 動く度にずしりと重量を感じる。


 羽は、感情に応じて色が変わるらしい。

 花が照れると赤くなり、得意げになると青に光る。

 芹は驚きの声を上げる。


「派手派手でどこにいても目立ちそうっすね」


 芹が言うと、花は真剣な顔で言った。


「でも、私、もっと目立ちたいんです!」


 そして次の瞬間、風が吹いた。

 羽が風を受けて花の体が浮く。

「ひゃあっ!助けて!」

 ばたばたと動かした手を、近場にいた芹の頭へ伸ばす。


「痛い! 禿げる!」


 芹は、必死に叫んで花の手から逃れようとした。

 私と慈眼は、思わず顔を見合わせた。


「…目立ちたい、ね」


 慈眼の声が、少しだけ低くなった。

 助けを求める芹のために、花の手を掴み、慈眼が下ろそうとした。

 周りの人が、騒ぎを聞き付けて集まってくる。


「慈眼様だ!」


 宙に浮いてる花と、慈眼はよく目立つ。

 わらわらと集まった人を見て、花が興奮気味に言った。


「あぁ……もっとみて」


 恍惚とした表情で、嘯くように花が言った。

 慈眼が横で呟く。


「際限ねぇな」


 眼光を鋭くさせて、花の首元を慈眼がじっとみている。

 私もその視線を追うと、花の首に×印があることに気がついた。

 赤く光っている。


 思わず私は、自分自身の首の印を触る。

 慈眼と、目があう。


 花の羽がさらに大きくなる。

 羽は体を裂いて湧き出ていた。

 血は出ていないが、なんだか不安になる。


 花の注目されたいという欲に呼応しているようだった。

 そしてさらに花の体が浮く。


 芹が、急に大声を出した。


「毛根が、死ぬぅ!」



 芹は髪を引っ張られ、顔の皮膚がつり目になるほど上がっていた。


 慈眼が、ため息をついた。

 私を見る。


「糸を、あの羽女に巻け」


 慈眼が言葉少なめに指示をするので、私は糸を巻いて地上側に引っ張った。

 花の足が地面に着く寸前、慈眼が花の羽めがけて手を振り下ろす。


 花の見事な羽が、裂かれた。

 落ちる羽、地面に足がつく花。


「普通にしてたら、誰も見てくれないのに……」


 花は地面を見ながら呟いた。


 芹は、膝をついて自分の頭を触る。


「これ、禿げてない?」


 私に一言聞いてきた。

 小さな禿げが出来ていたが、言わないことにした。


「ええ、大丈夫ですよ」


 芹は私の言葉を聞いて、胸を撫でおろしていた。


 花は斬られた羽を見て、自分の肩を触った。

「あぁ、」といいながら顔が曇る。

 花が慈眼を眼光を鋭くして睨みつけて言った。


「なぜ!切ったの??」


 慈眼は、面倒そうに答える。

 その目は花の裂けた肩を見ていた。


「あれ以上は駄目だ」 


 慈眼が、そういっているとわらわらと人が集まり、慈眼を拝み出した。


 周りに集まっていた人は、花を見なくなり、慈眼の方だけに集まる。

 それを下唇を噛みながら、花が見ている。

 さっきまで見ていた人がいなくなり、寂しそうにする姿に心が痛む。


 慈眼は、花に何かを言いたい様子で口を動かしたが、慈眼の行く手を村人が阻む。


 そして、花が何かを思い立ったように、近くにある建物へよじ登りだす。

 顔が興奮したように赤くなっていた。

 慈眼が、村人に文句を言っていた。


「どけ!邪魔だ!」


 村人は、まるで狂ったかのように慈眼を触る。

 慈眼は、花を止めることができない。

 花をそれをじっと目を逸らさず見ている。


「あぁ、特別って羨ましい」


 花の呟きが耳に入った。

 屋根の上まで上ると、嬉しそうに叫んだ。


「見て!今から私はここから飛び降りる!!」


 叫んだ花。

 でも、慈眼に夢中の村人は花を一切見ない。

 私は、何かに押されるように気持ちが落ち着かない。


 芹と、目が合う。


「これ、やばくね?」


 花は、村人が自分を見てないのがわかると、頭をかきむしった。

 そして、屋根に足をかけながら言う。


「本当に飛び降りる!!」


 そして、花は、周りをみるように視線を動かした。

 村人は、まるで聞こえてないかのように、慈眼へ話しかける。 

 わざとかと思うくらいに。


 村人たちの仕草に私は違和感を感じる。

 だって、わざと気持ちを増幅させているみたいに感じた。


 花は顔が青くなって、そのまま飛び降りた。

 慈眼は大声を出す。


「蘇芳!」


 私は、慈眼の青い眼と目が合った。


「わかった!」


 私は、糸を出し、花へ巻き付ける。

 地面に当たる前に、止めることができた。

 私は息を思わず吐いた。


 花がこちらを鬼の形相で見てくる。


「これじゃぁ注目されないじゃない!」


 そう言いながら、花の肩の羽が体を覆いつくように大きくなる。

 慈眼が、村人たちへ牙を剝き出しにして一喝する。


「どけ!!」


 村人たちが畏れたように、後ずさる。


「お前らは、俺の何がいいだ?言ってみろ」


 慈眼は、村人の一人の胸倉を掴んだ。

 村人は震えながら答える。


「・・・貴方が、特別だから」


「何が特別だ?」

 と慈眼は村人に顔を近づけた。

 村人は、一瞬悩んだようなそぶりをみせて、ややあって答える。


「他の人が、そう言ってた」


 可哀そうなほど震えた村人に、噛みつく前の獣のような表情で慈眼は言った。


「くだらねぇ」


 一言吐き捨てるように言った。

 そして、村人の一人を投げ捨てる。


「特別な事に、何か意味があるのか?」


 慈眼の言葉は、静かに響いた。

 誰も、その問いに答えられない。

 慈眼が歩き出す。

 村人はさきほど囲っていたのが嘘のように黙って道を開けた


 地面に突っ伏している花へ、慈眼が眼を鋭くさせて言う。


「お前は死ねと言われて、死ぬのか?」


 花は、唇をわなわなさせながら、腰が抜けたように後ろへ下がる。


「し、死んでもいいもの、目立つなら!」


 花が、顔を青ざめながら慈眼へ言うと、慈眼は花の足元まで来た。

 そして顔を除きこむように言った。

 まるで空気そのものがざわつくようだった。

 慈眼の目の奥が鋭く光っている。


「死んだら、賞賛の声は聞こえねぇ」


 そう言って慈眼は大きく口を開ける。

 首筋に慈眼の牙がかかる所が見えた。

 花がガタガタと震え、大きく息を吸う。


「死にたくない!」


 花の声が響いた。

 慈眼は、その牙を止めることなく花の羽へ向けた。

 花が、何が起きているかわからないかのように、慈眼の顔を見ている。


「え」

 花は小さく、疑問の声を出す。

 慈眼は花の様子を気にすることなく、羽に牙を突き立てた。

 慈眼が、噛み砕く度、羽が大きくなり、見事な孔雀の羽となる。

 羽の真ん中に大きな孔雀石が一つ、目玉のように見えた。


 ーー美しい病だった。

 だけど、真ん中にある石が見られているように感じて居心地が悪い


 そしてその孔雀石を、慈眼は見つけて笑う。


「これは、喰っていいな」


 羽からむしり取ると、その宝石をばりばりと食べる。

 花は慌てた。


「それが、なくなったら・・」


 慈眼は、一度食べるのを止めた。


「なくならねぇよ」


 一言告げて、花が止めるのも構わず、慈眼は宝石を食べる。

 花の羽が空気に溶けるように消えていく。

 まるで、最初から存在していなかったように。


 花は最初は、慈眼の手を掴んで止めようとしていたが、その手を自ら離した。

 そして最後の一欠けらを噛み砕いた。

 花は、肩の荷がおりたように脱力していた。

 花の顔を覗き込むように慈眼は見つめる。


「価値は、自分で決めろ」


 小さい声で、慈眼は言った。

 でもやけに響く声だった。

 花は、緊張が解けたのか、泣き出した。


「私は、誰か一人に認めてほしい……だけ」


 肩には、もう羽はない。

 慈眼は、めんどくさそうに、花の話を聞いている。

 周りを見ると、村人たちも泣いている。


 慈眼の近くに、ポツリと緑色の孔雀石が目玉の形をして落ちていた。

 私は思わず拾う。

【みすてないで】

 聞こえる声に、愛おしさを感じる。


 花の気持ちがよくわかる。

 だって、誰かに見てほしいと思う気持ちは私にもある。

 私は慈眼に見てほしいから


 私が二人を眺めていると、芹が声をかけてきた。


「これで、病は2つ喰ったんですかね?」


 私は、芹に対して答える。


「4つ食べれば会えるっていってましたよね

 巨頭病と薔薇忘病の人と、羽肩病ですから3つ?」


 私が芹へ確認するため告げると、

 村人がむせび泣いている後ろの方に狐がいるのが見えた。

 森で見た狐だ。

 遠くにいるはずなのに妙にその狐が目に入る。


 目が離せない感覚がした。

 周りの音が耳に入らない。


 私は、芹に呼びかける。


「芹、温泉で見た狐が……」


 後ろを振り向いたら、真っ黒だった。

「え」

 私は、もう一度前を向く。

 目の前も真っ黒。


 私は指先が冷たくなるような感覚になる。

 急に誰もいなくなった。

 恐怖しか感じない。


「じ、じげん?」


 私は、自分の傍にいてほしい人に呼びかけた。

 でも返事は返ってこない

 首の×印が、妙に熱い。

 じんわりと熱く、首が焼き切れそうなくらい。


 暗闇の中で狐の尻尾が浮かぶように見えた。

 目を凝らしてみる。


 そこに立っていたのはあざねだった。


「死んでいるくせに、恋をしたの?」


 心底、不思議そうに問いかけてくる。

 私は、あざねの言っていることがよくわからず、不安になる。


「なにを、言っているんですか?」


 あざねは、ゆったりと歩を進めながら私に近づいた。

 体が動かない。

 いや、違う目があざねを追ってしまう。

 この人に触れられたいと願ってしまう。

 首の熱さが消えない。

 この×印のせい・・・?

 私は気が付いた。けれど、体を動かすことができない。


 あざねはそんな私に優しく笑う。


「無駄よ。その印は私に従いたくなるの」


 私は、逃げられない恐怖で震える。

 あざねは、私の目の前まで来た。

 長い睫、白い肌、赤い唇。

 美しい顔が闇に溶け込んでいる。


 あざねは、私の目をじっくりと眺めて眉を下げた。


「自分で気が付いてないのね。可哀そう」


 そう言って、私の首に手を伸ばす。

 ×印と首の点線に指を這わせる。

 手が冷たい、蛇が首にいるみたいだ。

 中身を探るような手つき。


 私は、視線を自分の首を触るあざねの手に移した。

 その手が、私の首の点線を‘‘つまむ‘‘ように持ち上げる。


 まるで糸が取れるかのようにするすると、首から出ていく。


「え」


 私は、驚いて声が出なかった。

 その糸の先に『正』という字が

 びっちり詰まっているのが見えた。


 糸が私の首から出るごとに、体に力が入らない。

 何か、おかしい。

 視界が斜めになる。


「ほら」


 そう言って、あざねは私の首から全ての糸を引いた。

 自分の体が見える。


「やっぱり、貴方死んでるでしょう?」


 私の顔が、私の体を下から見上げている。

 私の顔に冷たい手が触れる。

 あざねは、私の顔を持ち上げる。

 そして私の体を見せた。


「見てみなさいな」


 私の体の中身は、『正』という字が詰まっていた。

 自分の頬が、冷たく感じる。

 息が、できない。

 心臓の音が、聞こえない。

 当たり前だ。


 私の無かったはずの記憶が、頭によみがえる。


 師匠の安倍晴明の白装束。

 慈眼の、叫び声。

 ――地面の感触。


 そうだ私は、師匠に殺されたんだった。


 あざねが優しい声で言った。


「かわいそうな子」

 あざねは微笑みながら、私の体を抱き寄せた。

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