28話 その後・・・
─── とある場所 ───
「ぐぅあはぁっ!!??」
男は血反吐を吐きながら起き上がった。
「ク、ククク・・・いやはやまったく、彼には参りましたねぇ。ワタクシ、呆れを通り越してもはや感心してしまいますよ」
その顔に苦笑を滲ませながら、男は部屋の棚にしまってあった薬を呷る。気だるげさはそのままだが、多少は楽になったようだ。
「・・・とにかく、ただちに魔王様に報告せねば」
男はすぐに身支度を整えて部屋を出た。向かうのはこの城の奥にある会議場である。そして廊下を歩いている間に通信魔道具で他の者たちに招集をかける。
目的の場所に着くと両側に立つ衛兵が扉を開けて男を中へ入れた。
「おう! 来てやったぜ、サラリット!」
サラリットに声をかけてきたのは、身長2メートルを超える大男。彼の名は【暴君】のヴァルター。サラリットと同じく四天王の1人である巨人族だ。
「おや、ずいぶんとお早いですねヴァルター。時間にルーズなアナタが一番にご到着とは珍しい」
「そりゃあ、今回はえらく面白い話が聞けそうなんでなぁ。そうなんだろ?」
「ええ、それはもう。アナタにとってはね」
「ハッ! そいつぁ楽しみだぜ! ここ数十年は退屈で仕方なかったからよぉ」
「そ、それには、私も、興味が、ありますね。フヒヒッ」
「そうねぇ。でも、アタシは少し忙しいから手短に済ませてくれると嬉しいわ」
そう言って部屋に入ってきたのはヴァルターとは対照的で背が低く細身の中年のような見た目をした魔族と、露出の多い服装で妖艶な雰囲気を醸し出している女魔族。
死霊族である【狂究】のカテウスと、淫魔族である【好色】のイルスタスだ。これで、四天王が一堂に会したことになる。
「あまりお時間を取らせるつもりはありませんよ。特にイルスタスは大事な潜入任務の最中ですしねぇ」
「フヒッ、私の、研究の重要性についても、忘れてもらっては困りますね、フヒヒッ」
「もちろんですとも。探究というものはいくら時間をつぎ込んでも足りず、それでいて重要であるというのは重々承知しておりますよ、カテウス」
「なら、良いです。フヒヒッ」
そうして四人が円卓の席に着いたところで、中心にある宝玉が光りだした。
『やはり、上手くはいかなかったようだな』
突如として部屋に響き渡る声。それは四天王の面々をも背筋を震え上がらせるほどの覇気と悪意を含んだ声だった。
その声の主こそ、この世界を幾度となく恐怖に陥れてきた魔王・サタンである。
「申し訳ございません。つきましては、任務の結果と得た情報をご報告させていただきたく」
『・・・良いだろう、話せ』
「はい。結果はご承知の通り、失敗に終わりました。要因としてはやはり、かの竜人の少年が大きかったですね」
『それは、貴様が弱かったからか。それともかの者が強かったからか』
「ワタクシは後者だと思っております。実際、カテウスに作っていただいた魔導人形は想定通りの性能を見せてくれました。悪魔公爵の憑依も無事に成功しましたしね」
「と、当然、この私の研究に、抜かりはない。フヒヒッ」
「しかし、かの少年は想定以上だったと言わざるを得ません。こちらをご覧ください」
サラリットは魔道具を取り出し、魔導人形に記録された映像を写し出す。
まずは、林の中での追跡。
「あら、中々凛々しいお顔じゃない。結構好みかも」
「おや? アナタにも好みなどというものがあったのですか。これは驚きですね」
「言ってくれるじゃない。ま、返す言葉はないけどね」
次に、ヴォルガがレナリア王女を回収し、本格的な攻防が始まる。
「フヒッ、フヒヒッ。これはこれは、良いデータが取れていますねぇ。魔力回路の伝導効率はもう少し改良が必要ですね、しかしそうなると筋力の構造にもう少し調整が、いや、それはともかく行動予測シミュレーションにも微妙なズレがありますねぇ私の計算式に狂いはないはずですが前提となる方程式の中で設定している定義に手を加える必要が」
「あー、カテウス? 申し訳ありませんが今はアナタの考察に付き合っている時間はないので先に進めますよ?」
そしてシグルが『龍人化』を使い、形勢が逆転し始めた。
「ほぉ、コイツまだガキのくせに『龍人化』まで出来るのか! やるな!」
「ええ、まったく恐れ入りましたよ。どんなに策を弄してもこのように力で無理矢理押しきってくるものですから。ワタクシ、こういうタイプは苦手です」
「ガハハハッ! こういうのは俺の得意分野だからなぁ! 次アイツとやり合うときはちゃんと俺を呼べよ!」
「・・・のんきに笑ってられるのも今の内ですよ」
「おい、そりゃどういう意味だ?」
「見ていれば分かりますよ」
続けて、サラリットが悪魔公爵を自身に憑依させて王都へ進攻する場面に移る。
「ちょっと、あれって神獣じゃない? 狼の方はだいぶ若いみたいだけど」
「そうだなぁ。九尾の狐の方はパワーはそこまでじゃないが、魔力を操る技術が侮れんだろうな」
「フヒッ、フヒヒッ。二つとも、良い、素体になりそうですねぇ。フヒヒッ」
「で、あの二匹にしてやられたってわけ?」
「いいえ、この後ですよ」
最後に、変化したシグルの一撃によって映像がブツッと途切れた。
「・・・えっと。一撃でやられちゃったの?」
「はい。あれは想像を絶するほどのものでした。カテウスの話では魔導人形が破壊されても本体に影響はないということでしたが、あまりに衝撃が強かったからなのかこちらに戻ってきた瞬間、吐血するとともに強烈な苦痛を感じました」
「なぁんだってぇぇぇ!?!?」
カテウスが興奮のあまりバンッ!! と勢いよく机を叩いて立ち上がった。
「ありえない、ありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!! そんなことはありえないっ! ありえるはずかないっ! 私の計算式に狂いはない! それでも起こったことは事実、ということは私の! 知らないっ!! 何かが起きたということっ!?!?!? 私の知らない現象が起きることなんてどれくらいぶりだろうか知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい全てを解明して解剖して調べ尽くしたい私の知っている理論ではありえない現象ということは私の知り得ない現象ということであってそれはつまりこの世においてはそうそうお目にかかることのできない非常に稀な現象ということであってこれは果たして必然なのか偶然なのかもしも必然な現象であったと仮定した場合そこにはこの世ならざるものの介入があった可能性があるということでしかし異世界である可能性は限りなく低い前任の勇者は元の世界へ帰還してから久しいうえにこの世界で子を成したという記録もないということはこの世界にあってこの世ならざるものと言えるような存在ということになるあの少年が竜人だったということは竜族の力が何かの影響を及ぼしたのかそれとももう片方の親が影響しているのか父親がおそらく漆黒の竜王であろうという話であるからそれが関係している可能性もなくはないが私のデータには黒竜族がちゃんといるゆえにイレギュラーな進化をしたとかでもない限りありえないがそんなことが起こる可能性は極端に低いので考える価値がないゆえによりありえそうなのは母親の存在なのだろうかそういえばあの少年の母親が調べがついていないよくよく考えるとそれはおかしいあの少年については例の王女の予言の情報が入ったときに徹底的に調べあげたはずだそれでいて母親という本人に限りなく近い関係にある者の情報が入っていないことはおかしすぎるなぜその事に今まで気づかなかったんだいや気づくことに出来なかったのかそれであれば超常の存在というピースと上手く組み合わせることが出来るかもしれないしかし我々のような四天王はおろか魔王様に至るまでその可能性を口にした者はいない魔王様すら気づいていなかったというのかそれであれば超常の存在の正体はかなり限られてくるその正体とはつまり・・・・・・・ッ!!!!」
「え、え~っと、カテウス? 大丈夫?」
「・・・・・・」
「あ、ダメだわこれ。完全にイッちゃってるわね」
「何かとんでもない結論にでも至ったのでしょうが・・・。この様子では帰ってくるまでしばらくかかりそうですね」
「魔王様、カテウスのやつが気付いたことっていうのには心当たりないんですかい?」
ヴァルターが魔王に向かって尋ねるのと同時に宝玉が強く光りだした。
『・・・ククク、ハーッハッハッハッ!!!!! 見つけた、ついに見つけたぞ!!! サラリットよ、貴様は今回の失敗を帳消しにしてもまだ足りないくらいだ、ガハハハハハッ!!!』
「は、はぁ・・・ありがとうございます・・・?」
すっかり興奮してしまっている二人に対して置いてけぼりを食らったサラリットたちはお互いに顔を見合わせ、軽くため息を吐いた。誰かがこうなってしまうといつも話が進まなくなってしまうのをよく理解しているからである。
・・・もちろん、残りの三人も同様にやらかすことがあるため、文句は言えないのだが。
「まぁ、詳しいことは後でお二人が落ち着いてから聞かせていただくとして、シグル君についてはもしかすると勇者以上に因縁浅からぬ相手となりそうですね・・・」
いまだに高笑いを続ける魔王の宝玉を見つめながらサラリットはそうひとりごちた。




