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龍神と英雄に成る男  作者: 高錫裕貴
2章 王都アリア
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29話 示される道

 シェーラ、ノーラ、八雲の三人はシグルをヴォルガの背に乗せ、再び救護所へ運びこもうとした・・・のだが。


「あちゃ~・・・やっちゃったわね。絶対シグルでしょ、これ」

「う、うむ。そうとしか思えんのう」


 三人と一匹の前にあるのは、国の中心である王都に建てられているだけあって神聖で厳かな雰囲気漂う教会の大聖堂だ。装飾が施された真っ白な壁や豪奢なステンドグラスがこの国、そしてこの世界において唯一の宗教であるアルモア教の繁栄ぶりを示している。


 ・・・中心に空けられた大穴で台無しだが。


「こんな派手に壊しちゃって、天罰とか落ちなければ良いのだけど」

「まあ、王都とここに住む大勢の人間を救ったのも他ならぬ主様じゃ。神もお許しになるじゃろうて」

「・・・愛と豊穣の女神は慈悲深い。それより、今はシグルさんの容態が心配」

「そうね、急ぎましょうか」

「ウォン!」


 建物へ入ると、意外に落ち着いた雰囲気だった。むしろ、シスターたちは少し興奮しているような感じさえ見受けられる。


「あの、ベッドは空いていますか? この人をまた診て欲しいんですけど・・・」

「まあ、先ほどの! もちろんどうぞ。こちらの部屋が空いておりますよ」


 もしかすると聖堂に穴を空けたことを問題視され、最悪受け入れを拒否されるかもしれないと思っていたシェーラたちは、予想外の歓迎ムードに困惑した。


 部屋へ案内される道中でシェーラがおずおずと尋ねる。


「えっと・・・シスター?」

「はい? 何でしょうか?」

「あの大聖堂に大穴をぶち空けたのって、もしかしなくてもシグル・・・こいつですよね?」


 シェーラの言葉に、シスターは変わらず優しい微笑みで返す。


「ええ、そうですね。まったく驚きました。突然轟音がしたので敵が襲来したのかと思って皆さんパニックになりかけていましたし」

「それについては本人に代わって謝罪しますけど、その割にはずいぶん歓迎されてる感じがするんですが・・・」

「それは、彼の放っていた神々しい光が理由ですよ」


 どうやら、シグルが謎の強化形態の力をもって悪魔公爵(デビルロード)を撃退したことは知られているらしい。すれ違うシスターや看護師たちがシグルの姿を見て一礼していく。


「早くも噂になっておりますよ。主神アルフレイヤ様のお導きによって現れた彼が、神に成り代わってあの恐ろしい悪魔に神罰を下したのだと」

「まるで神の使徒みたいな扱いね・・・」

「・・・あながち間違っていなかったりして」

「確かに、あの力を目の当たりにしたあとでは一笑に付すわけにもいかんのう」


 一体彼は何者なのか。謎は深まるばかりだが、それも本人の目が覚めないことには話が進まない。


 そうしている内に部屋へ到着し、シグルをベッドへ寝かせた。


 それから間もなくして、レナリアもやって来た。


「これは・・・一体、どうなっているのですか?」


 シグルの診察を行っていたレナリアは戸惑いの声をあげる。


「やはり、治療は難しそうかの?」

「難しいというより、それ以前の問題です・・・魔力や生命反応が著しく弱くなっていること以外に、これといった異常が見当たらないのです」

「ちょっと、それってどういう・・・っ、そういえば八雲、さっき"中身"がまずいとかって言ってたわよね。あれはどういう意味なの?」


 問い詰めるシェーラに対し、八雲は険しい表情を浮かべながら答える。


「・・・おそらく主様が傷を負っているのは魂魄の類い、あるいは生命そのものじゃろう。とはいえ、竜族の生命力は強い。しばらくは大丈夫じゃろうが、この状態が続けば命に関わるやもしれん」

「そんな・・・」

「・・・治療する術はあるの?」


 ノーラが質問すると、八雲の声に苦々しさが滲む。


「あったらとっくに試しておるわ。治すにしろ害するにしろ、魂や生命に直接干渉するなど、それこそ神の御業なのじゃぞ」


 いかに"神"と名が付く神獣と言えど、文字通りに神の力が使えるわけではない。仮に使えたとしても、神格を持たない者が無闇にその領域に触れてしまうと、大きな代償を支払うことになる。


 ・・・まさに今のシグルのように。


「・・・やはり、シグル様が使用された力は神の領域に踏み入る程のものであったと?」

「そう考えるのが自然じゃろうな」

「・・・ホント、どうなってるのよ」


 しかし、状態が分かったところで実際に治療する手段が無いとなると、このままシグルが衰弱するのを指を咥えて見ているしかなくなってしまう。


 それだけは許容しかねるのだが・・・




「よう、お困りのようだな。嬢ちゃんたち」




「「「「「!?」」」」」


 いつの間にか、ドアの端に寄りかかるようにして立っていたその男はシグルの父 ─── レクス だった。


「あなたは、一体・・・」

「俺はそこの寝坊助の父親だ。・・・【漆黒の竜王】なんていう、ご大層な名前で呼ばれることもあるがな」

「シグルの・・・父親ぁ!?」

「なんとまぁ・・・これは驚いたのう」

「・・・(ぱちくり)」

「きゅ~ん・・・」


 まさかの人物の登場に、シェーラは素っ頓狂な声をあげ、ノーラと八雲は目を見開き、ヴォルガは尻尾を股の間に挟んで縮みこんでしまう。


「りゅ、竜王レクス様・・・なぜこちらへ? いえ、その前にまずは謝罪を」

「うん?」


 レナリアはいち早く気を立て直し、レクスに向かい膝を折って深く頭を下げた。


「この度は、大事なご子息を・・・」

「あー、そういうの良いから良いから。ったく、この馬鹿息子は未熟なくせに後先考えない力の使い方をするもんだからなぁ・・・言わんこっちゃないぜ」


 息子の命が危機に瀕しているのもお構い無しの厳しい言葉に一同が唖然とする。


 一方のレクスは気にした様子もなく、シグルの容態を観察していく。やがて大きなため息を吐いた。


「やっぱりか・・・思ったより()()()()のが早かったな」


 そして、何やらブツブツと呟いたかと思うと突然右手に魔力を集めだした。


「竜王殿、何をするつもりなのじゃ?」

「そりゃあもちろん、この寝坊助を叩き起こすんだ・・・よっ!」


 ドゴォッ!!!


「ぐほぇあっ!!??」


 振り下ろされた拳は的確に鳩尾をえぐり抜き、シグルはくぐもった悲鳴をあげた。


「「「「シグル(さん)(様)(主様)!!」」」」


「ぐ・・・げほっ、ごほっ。何が、どうなってんだ・・・」

「よお、寝坊助」

「と・・・父さん・・・?」

「お~そうだ。この世界で一番頼りになる素敵なお父様だぞ、泣いて喜べ」

「自分で言うかよ普通・・・」


 シグルは苦悶の表情浮かべながら何とか体を起こした。



 ─── シグル視点 ───



 俺が体を起こすのと同時に、ガバッと抱きついてきた影が二つ。


「良かった・・・本当に良かったです」

「まったくじゃ。・・・ほんの一瞬じゃが、本気で万が一を覚悟したんじゃぞ」


 後で聞いた話だが、俺の状態を直接把握していたのが八雲とお姫様だったということなので、それだけヤバかったということなのだろう。


「・・・ねぇ、ノーラ。なんか私たち置いてかれているような気がするのだけど」

「・・・乗り遅れた」


「ハッハッハ! 旅に出てから一年も経ってねぇってのにずいぶん良い女を捕まえてるじゃねえか! 結構結構!」

「からかうな父さん・・・」


 上機嫌で笑う父親に対して俺が不満そうに返すと、父さんは意外に少し真面目なトーンになった。


「実際大事なことだぞ。俺たち長命種はその永い寿命に比例して繁殖が遅いからな。しかも竜族にいたっては強大な力を持ってるもんだから、相手もちゃんと選ばねぇと体が耐えられずに死んじまう」

「それって・・・」

「ん?」

「・・・いや、いい」


 もしかしたら俺、シグルに母親がいないのはそれが理由なのかとも考えたのだが、ストレートに聞くのはさすがに不躾が過ぎると思い、続きの言葉は飲み込んだ。


 この父親は横暴で横柄で尊大なとんだ暴力親父だが、


「あぁ? 何か言ったか?」

「・・・言ってないぞ?」


「・・・」

「・・・」


「・・・素直に白状すれば許してやる」

「言ってはいない。思っただけ、がふっ!?」


 再び鳩尾に拳が飛んできた。まったく、死にかけた息子への扱いが酷すぎる。


 ・・・とにかく、父さんはこんな感じだが決して家族愛がないわけではない。拳がコミュニケーション手段なだけで、父親としての愛情は10年以上の二人暮らしの中でちゃんと感じていた。


 だからこの話はいつか父さんの方から教えてくれると信じている。今はまだその時じゃないだけだ。


 それよりも、聞かなければならないことがある。


「なあ父さん、俺の身に一体何が起きたのか知ってるか? とんでもない力であの魔族たちを消し飛ばしたってことくらいは何となく覚えてるんだけど」


 この質問には、父さんの表情が先ほど以上に固くなった。こんな顔をするのも珍しい。それこそ、子供の頃に母親について尋ねたときと同じ反応だ。


「悪いが、まだ詳しいことは教えられん。ただ、これだけは言っておくが、命が惜しかったらしばらくあの力は使うな。今のお前には過ぎた力だ」

「そんなことは百も承知だっての。俺が知りたいのは、アレの発動を制御する方法と、さっき俺を助けた方法だ」

「そうさなぁ・・・」


 父さんの話をまとめると、アレは一種の自己防衛本能によるもので、発動する条件としてはおそらく生命の危機に瀕するほど限界まで追い詰められてなおかつ理性というブレーキが外れると起こる可能性がある、ということだった。


「つまりだな、お前がやるべきことはとにかく鍛えて強くなることだ」

「なるほど・・・まぁ分かりやすくて助かるな。それで、どうやって俺を助けた?」

「そりゃ『破壊』さ。決まってんだろ」

「いや、どういうことだよ」

「だからぁ、"シグルの力が暴発して瀕死状態になった"という因果を『破壊』したんだって。察しの悪い奴だなぁ」

「・・・はぁ。ま、父さんのむちゃくちゃは今に始まったことじゃないからいっか・・・」


 父さんは何でもないことのように言っているが、因果のような実体があやふやなものまで『破壊』するというのは至難の業だ。今の俺には到底真似出来ない。


「確かに今回は俺がアレの力を感じて駆けつけてやったから良いものの、毎回尻拭いしてやるわけにもいかねぇからな」


 そこでだ、と父さんは不意にお姫様の方へ視線を向ける。


「お前ら、この姫さん連れて白竜族のところへ行ってこい」


 ・・・そう来たか。

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