27話 VS【謀略】のサラリット(後編)
引き続き八雲視点となります
"紅の尖刃"たちと共に行動を始めてしばらく、妾たちは順調に魔法陣の解除を進めていた。
「さて、これがおそらく最後じゃな。頼むぞ」
「「「「おうっ!」」」」
まずは重戦士ゴードンがバトルアックスを大楯に叩きつけて注意を引く。召喚された魔物は数を優先したせいか知能は低く、単純な挑発でも効果がある。
そして誘き寄せた魔物たちは前衛でゴードンが、その少し後ろからリーダーのランディが槍で突き、さらに後ろから斥候のシュメロンが弓で狙撃する。
とてもバランスが良く、連携もしっかり取れているのう。さすがはベテランと呼ばれるBランクのパーティーじゃな。
彼らが魔物を抑えている間、赤髪の魔術師ケイトと協力して魔法陣の解除を行う。彼女もそれなりに魔力の才と技術があるので、解除は一人よりも容易に手早くすませることが出来た。
「ふぅ。これで魔法陣の騒ぎは収まったかの」
「そのようだ。協力感謝する、八雲殿」
「カッカッカ! なんのなんの。当然のことをしたまでじゃ。こちらこそ助かったぞ、特にケイトの技術のおかげで思った以上に効率良く片付けることが出来たからの」
「神獣様に褒められるなんて、とても光栄ですね」
ケイトが照れたように笑う。うむうむ、今後の成長が楽しみな若者たちがいるのは良いことじゃ。
その後、シェーラ・ノーラ・ヴォルガとも合流した。
「あ、いたいた。八雲ー! そっちはどうー?」
「うむ、こっちは問題ないぞ。魔物共を呼び出していた魔法陣も全て解除した。すでに出現した魔物もあらかた片付いたようじゃの」
「ホント、強くはないけど数がうんざりするほど多かったわねぇ。・・・あれ、シグルは?」
シェーラが辺りを見渡しながら尋ねる。確かに、並の相手であれば、とっくに王女を取り返してヴォルガと共に帰ってきているだろうと思ったが・・・
「ウォン!」
「なんじゃと!? 魔王直属の四天王と交戦中!?」
まさかとは思ったが、四天王とは・・・。主様の実力は疑いようもないことじゃが、それでも旅を始めたばかりの少年に過ぎぬ。一人だとちと厳しいかもしれんな。
「ちょっとちょっと、大丈夫なのそれ・・・」
「・・・少し、心配」
「ウォン!」
ヴォルガは主様に頼まれた王女の安全確保ができたので援軍に向かうという。それに、主様は『龍人化』まで使用しているらしい。王都の外からえらい爆音が聞こえておったが、いよいよ急がないとマズそうじゃ。
「そうか、それならば妾も共に行こうぞ!」
「八雲、ヴォルガ、あなたたちも気を付けなさいよ!」
「・・・安全、第一」
「ウォン!」
「もちろんじゃ!」
元の姿でもヴォルガの方が足が速いので背に乗せてもらい、主様の所へ向かうことにした。
森の奥へ進むと、先ほどから響いていた轟音が突然途絶えてしもうた。
これは、主様の『龍人化』が時間切れになったということじゃろう。あれは効果が切れるまで、敵がいなくとも暴れまわるらしいからな。
「急ぐのじゃヴォルガ!」
「ウォン!」
ほどなくして、開けた場所へ出た。
あ~あ~。そこら中の地面がボコボコになって、所々が黒焦げじゃ。これは派手に暴れたのう。
その中心に、おった! 主様が倒れておる! 血塗れで気を失っているようじゃ。これはマズい。
しかも、傍らにいるのは例の四天王か! かなり手負いではあるが、倒しきれてはいないようじゃの。
出来るなら止めを差しておいた方が良いのじゃろうが、どんな能力を持っておるかも分からん相手に構っている暇はないな。主様の命が最優先じゃ。
「くっ、ヴォルガ! まずは主様を回収して撤退じゃ!」
「ウォン!」
一目散に主様の元へ駆けつけ、応急手当を施す。とはいえ、妾は回復があまり得意ではないので最低限のものになるが。
ヴォルガの方は四天王に一撃を加えようとしているが・・・。
「ガウッ!!」
「ククク、結局彼は殺し損ねてしまいましたか。残念ですが今回は引き分けということにしておきましょう」
頑丈な防御障壁に阻まれ、攻撃が通っておらぬ。主様が『龍人化』を使わねばならなかったほどじゃ、あれの硬さは妾やヴォルガでもそう簡単に突破するのは難しかろう。
「よし、応急手当は済んだ! 退くぞヴォルガ!」
「ウォン!」
主様を抱えてヴォルガの背に飛び乗る。奴を放置するのは気になるがやむを得んな。
妾たちはすぐに踵を返すと、王都の方へ撤退した。
「ククク・・・ワタクシ、こう見えて負けず嫌いなところもありましてね。タダでは終わらせませんよ・・・」
王都へ着いた後、真っ先に教会に設けられた救護所へ駆け込んだ。
「急患じゃ!! すぐに治療をしてくれ!!」
「っ、こちらへ!」
シスターの案内で通された部屋へ主様を運び込み、ベッドへ寝かせる。
「治癒術師はおるか? 応急手当はしたが、早くきちんとした治療をしなければ!」
「少しお待ちください、すぐに呼んで参ります。とりあえずはこちらのポーションをお使いください!」
彼女が術師を呼びに行っている間、主様の服を脱がせてからポーションを染み込ませた布を傷口に当てていく。止血は十分に出来ているからもう命に別状はないと思うが・・・。
しばらくして、部屋のドアが勢いよく開け放たれたかと思うとレナリア王女が飛び込んできた。
「シグル様っ!! ご無事ですか!?」
主様の状態をどのように聞いたのか定かではないが、相当焦って来たようじゃのう。淑女教育を受けている王女がこのように息を切らすほど走るとは。
「落ち着け、王女様よ。主様はこの通り無事ではないが、命に別状はない」
「はぁ・・・そうですか。まずは彼の命が助かったことを神に感謝いたしましょう」
「それより、治癒術師はどうした? まさかこちらに手が回らぬほど負傷者が多いのか?」
「いいえ、私が治癒術師です。シグル様のことはお任せください。責任を持って治療を行わせていただきますので」
「そうか、では頼んだ・・・っ!?」
「どうか、したのですか?」
この気配は・・・! おのれあの魔族め、ここにきてまだ企み事をしておったのか!
「王女様よ、主様を頼む。外にちと厄介な者がおるようじゃ」
「一体何が・・・っ!?」
彼女も気付いたようで、身をすくませておる。無理もない、これ程強烈な気配じゃ。さぞ恐ろしかろうて。
「あまり心配せんでもよい、妾やヴォルガ、他にも心強い仲間がおる。とにかくそなたは主様の治療に専念していておくれ」
「は、はい! 分かりました、お気をつけて!」
主様を王女に託し、教会の外へ出ると人々が軽いパニック状態になっておった。
原因はもちろん、あれじゃろう。
「ウォン!」
「八雲! シグルの容態は!?」
ヴォルガの背に乗ったシェーラとノーラもやって来た。あれのことよりも先に主様の心配とは、よほど気にしておったんじゃのう。微笑ましいことじゃ。
「心配はいらぬ。きちんと手当てもしたし、治癒が使えるという王女様が側についておる」
「そ、そう・・・それはなによりだわ」
ふむ、少し嫉妬しておるようじゃな。やれやれ、素直になれば主様も無下にはせんと思うのじゃが・・・まあこれはこれで可愛らしいのでよしとしようかの。
「・・・それより、あれは何?」
ノーラが指差した先にいるのは不気味なオーラをまとった巨人。それが外壁の向こうからゆっくりとこの王都に向かって歩み寄ってきておるのだ。先ほどから王都の民がパニックになっているのも無理からぬことじゃろう。
「あれはおそらく悪魔公爵じゃな。召喚される魔物としては最上級の部類じゃろう」
悪魔公爵。体長が15メートルほどの巨体を持ち、配下の低~中位の悪魔を呼び出し続ける。さらに自身もその見た目に似合った頑丈な体と力を持っておる。
「奴は数の暴力と質の暴力を兼ね備えた厄介者じゃ。これは骨が折れそうじゃのう」
「骨が折れるどころの話じゃないでしょ! あんなのどうにかできるもんなの!?」
「・・・出来るかどうかは関係ない。やらなきゃやられる」
「・・・それもそうね。愚問だったわ」
「ウォン!」
ヴォルガもやる気満々じゃな。頼もしい限りじゃ。
しかしどうしものか。こうなるとうちで最大の火力を持つ主様が欠けておるのがかなり痛いのう。
・・・ま、ぼやいていても仕方あるまい。やれることをやるまでじゃ。
「行くぞ、お主ら! 奴らの好きなようにはさせん!」
「ええ!」「・・・うん!」「ウォン!」
外壁の外では、先に異変に気付いていた騎士や冒険者たちが低位の悪魔たちを抑えているところじゃった。
お、あっちにいるのは"紅の尖刃"じゃな。うむうむ、やはりよく連携出来ておるな。結構結構。
「さて、妾たちはあいつを何とかするのじゃ!」
「何とかと言われてもねぇ・・・。まあとにかくやってみましょうか」
シェーラはそう言って背中の矢筒から矢を1本取り出し、弓につがえる。
「ふぅ・・・"貫け"っ!!」
「・・・"導いて、より強く"」
精霊魔法による貫通力強化と、それを底上げしたうえでの誘導か。こちらもよい連携じゃな。
放たれた矢が悪魔公爵の目をめがけて飛んでいく。巨大な敵を相手にするときの定石じゃな。
しかし、途中で矢が力を失って速度を急激に落とし、たどり着く頃には悪魔公爵に軽く叩き落とされてしまった。
「な、何で・・・?」
「う~む、やはりこうなったか・・・」
「何よ、何か知ってるなら教えなさいよ」
「悪魔公爵は強力な負の魔力を纏っておってな。通常の魔術は打ち消されてしまうのじゃ。精霊魔法ならあるいは・・・と思ったがやはりダメなようじゃな」
「・・・なら、どうするの?」
「こうなると、奴と渡り合うには物理的な力が必要じゃ。妾とヴォルガでどうにかやってみよう。お主らは周りの、特に中位の悪魔を倒してくれ」
「分かったわ。私たちは支援に徹した方が良いってことね」
「・・・了解」
シェーラとノーラは後ろへ下がり、壁の上から援護射撃してもらうことになった。
妾は獣の姿へ戻り、ヴォルガと共に並び立つ。
『あちらはエルフの姉妹コンビ、こちらは神獣コンビということじゃな。よろしくのう、ヴォルガよ』
「ウォン!」
まずは足を止めにかかる。二匹がかりで悪魔公爵の膝関節と踵へ打撃を加えると歩みを止め、こちらへ向かって咆哮した。
どうやら悪魔公爵は妾たちを排除すべき敵と認識したようじゃ。
しかしこちらへ注意を向けさせたのは良いものの、殴りかかってくる拳をくぐり抜け、打撃を与えようとすると防御障壁で防がれてしまった。
・・・というかこの障壁、見覚えがあるんじゃが。
『ククク、良い攻撃ですねぇ。もっとも、彼には少し及ばないようですが』
『なぜお主の声がする、四天王の魔族よ』
間違いない。森の中で主様と戦っていたあの魔族じゃ。
『ワタクシの切り札ですよ。自らの身体に最上級の悪魔を憑依させることで、手っ取り早くかつワタクシの能力も引き継いだ悪魔公爵が出来上がるのです! もっとも、この体は二度と元に戻せないのが最大の欠点ですが』
最終手段ということか。本当にどこまでも厄介な奴じゃて・・・。
「ウォン!」
『そうじゃな、もとより退くという選択肢はない。やれることをやるまでじゃ!』
しかし敵の正体が分かったところで、厳しい状況に変わりはないのが辛いところじゃ。先ほどから妾とヴォルガが懸命に攻撃を加えてはおるが、魔力は悪魔公爵の能力で散らされるし、物理攻撃もあの魔族の障壁を突破するにはいたらぬ。
おまけに低位や中位の悪魔を召喚する速度も一向に衰える気配がない。妾たちはまだ持つが、さすがに騎士や冒険者たちに疲れが見え始めておる。このままではいずれこちらが先に崩されてしまう。
『くっ、一体どうすれば・・・!』
"ソレ" は、唐突に現れた。
『・・・ん? あれは、何だ・・・?』
悪魔公爵の視線の先にいたのは・・・ま、まさか、主様・・・なのか・・・?
"ソレ" は、ゆっくりと面を上げた。
「ワゥ・・・?」
しかし、雰囲気が、纏うオーラが、魔力の質が、そして見た目が、まるで違う。ヴォルガも困惑しておるようじゃ。
"ソレ" は、感情を宿さぬ瞳で敵を見据えた。
髪が少し伸びており、色は全体が光輝く白銀色に染まっている。そして身体から迸る魔力・・・いや、あれは魔力なのか? ともかく、何か途方もない力が漲っている。
『いかん、皆下がるのじゃ!』
不意に嫌な予感がして、ヴォルガや下にいる者たちに撤退するよう言った。何人か呆けている者もいるが、浮かび上がらせて無理矢理にでも連れていく。
"ソレ" は、静かに手を前へ出した。
「ちょっとちょっと、あれってやっぱりシグルなの!? 一体どうなってるのよ八雲!」
『妾に聞かれても知らん! いいから早く退避じゃ退避!!』
「・・・ん。確かに、あれはなんかヤバそう」
「ウォン!」
外壁の上にいたシェーラたちも妾とヴォルガの背に乗せ、全力で後方へ退避した。
そして悪魔公爵もまた、困惑した声を出した。
『アナタ、その姿はいった
その瞬間、世界が爆ぜた。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「妾は、夢でも見ておるのか・・・」
天地開闢を思わせる程の衝撃。あれは、明らかに人の範疇を超えておった。それこそ、神の一撃と言っても過言ではない。
「ね、ねぇヴォルガ、ちょっとつねってくれない? 夢なら覚まし「ガブッ」」
「・・・ヴォルガ、それはやりすぎ」
妾も頬をつねってみたが、夢ではないようじゃ。他の者も軒並み茫然自失となっておる。シェーラはつねらせる相手を間違えているし、ヴォルガはつねるどころか彼女の頭にかぶりついている。
ノーラは冷静にツッコミをいれていた。・・・頬をつねりながら。
「それにしても、一体なんだったんじゃ今のは・・・」
「もごっご、もごもーごご」
「・・・ヴォルガ、そろそろ離して。姉さんが首なしエルフになっちゃう」
「ワフッ」
はっ! そうじゃ、主様はどうなった!?
急いで先ほどの場所へ戻ると、さらに衝撃的な光景が広がっていた。
・・・何も、ない。
外壁の外はかなりの広範囲が完全な更地になっており、悪魔公爵を始めとした悪魔たちは塵ひとつ残っていなかった。
「言葉もないわね・・・」
「まったくじゃな・・・」
「・・・あ、あそこ!」
「ウォン!」
ノーラが地面に倒れている主様を見つけるのと同時に、ヴォルガが目にも止まらぬ速さで走っていった。
続けて主様の元へ駆け寄り、身体を調べてみる。教会へ運び込んだときにあった傷はきれいさっぱり消えておる。しかし・・・
「クゥ~ン・・・」
「うむ、これは・・・」
「な、何? 何かまずいの!?」
「見ての通り、傷はひとつ残らず治っておる。しかし中身がちとまずい状態かもしれん」
「・・・中身って?」
「後で説明しよう。今はとにかく主様を寝床へ連れて行かねば」




