第231話 栞
「ショウリュウ!」
アイリ、ナエカ、レオナルドは、ヨースラに支えられてやって来たショウリュウを出迎えた。
まだベットで寝ていた筈なのに、何故か外にいるショウリュウに、一様に目を丸くしている。
怪我をした身で血の力を多く使い、足がふらつく。まだしっかりと立つことは出来ないようだが、その表情は少しだけ、朗らかにも見える。
胸元には、夕焼けの色に光る勾玉。柔らかな陽の光でキラキラと光り、戻って来たよ、と彼に告げる。
「シキがちゃんと届けてくれたんだね」
「ああ、まあな」
アイリに指摘され、ショウリュウは気まずそうに目を逸らす。
いつも通りの不遜な表情に、三人は安堵の笑みを浮かべた。トタトタと、軽い足取りでショウリュウの元に集まる。
「あー! 紐が変わってるー!!」
「はえ!? おお、マジで??」
「紐が切れたから、あいつが紐変えて」
「シキ君が?」
「よく気付くじゃん、アイリ。同じ紐無かったのかよ、どんな紐なんだぁ?」
「おい、触んなっつーの、引っ張んなぁ!」
「……」
大騒ぎする彼等を他所に、ルノは一人だけ遠巻きに、後輩達の様子を眺めていた。
「……よかったね、戻ってきて」
「ねー!!」
「おい、そんなに見るなよ!」
どうやらショウリュウは、宝物を取り戻せたようだ。
──ふとルノが思い出すのは、昨年。
まだ、一回目の夏だっただろうか。団に入団して、少し経った頃のこと。
その日もいつものように、任務をこなしていた。
「なんだ、またあの子か」
「うわ、何でだよ」
「悪夢の子!」
「他の子がよかったのに……」
バシュッ!!
ヒソヒソと陰口を叩く周りの民。その前で一人、あっさりと見えざる者を倒す。
いつものことだった。振り切って耳を閉ざし、口を閉ざし、いつものようにゆっくりとお辞儀をする。
あっという間に、ショーは終わった。怖気付く民達の中をかきわけ、一人の少女がおぼつかない足で、ひょこひょことルノに近寄って来たのだ。
「お、おい!」
「やめな!」
周りの大人に制止されても、その子は構わずルノに近づいてきた。
「ん!」
そして、笑顔で差し出してきたのだ。小さな一輪の桃色の花を、その小さな手に持って。
その瞳に、めいいっぱいの光をたたえながら。
ルノは恐る恐るしゃがんで、少女と目を合わせると、目でその子に尋ねた。
……くれるの?
うん!
ルノは少し震えた手で、花を受け取ったのだ。
ルノはその日任務を終えると、足早にパレスに戻った。
心臓が高鳴り、真っ直ぐ足を動かす。
「ルノ、大丈夫やったか?……あれ、どないしたんやそれ」
心配して駆け寄り、声をかけてきたジェイ。その横をスタスタとすり抜け、奥で優雅に紅茶をすすっていた、当時の団長に詰め寄った。
「オーガ」
「ぶはぁっ!!」
その日、ルノは初めてオーガストに自ら声をかけた。後になり思い返すまで、自覚は無かったけれども。
オーガストも驚き、持っていたカップを落としそうになっていた。慌ててキャッチして、ぎこちなく笑顔を向けてくる。
「どうした、話を聞こうじゃないか」
「枯らしたくない、どうすればいい?」
「へ?」
困惑するオーガストに、貰った花をズイッと見せた。
たった一輪の、小さな可愛らしい桃色の花。
「美しい花だ、貰ったのか?」
マジマジと眺めながら尋ねてきたオーガストに、ルノは首がもげそうな勢いで頷く。
「どうすればいい?」
「うーん、花は儚いものだからなぁ」
帰って来た周りの団員達も、ルノがオーガストに話しかけている異常な状況に、何事かと目を見合わせる。
大真面目なルノに、ワタワタするオーガストを見かねたのか、近くにいたエリーナがフフッと笑いながら助け船を出してくれたのだ。
「それならルノ、押し花にしたらいいんじゃないかしら」
「……押し花?」
「ええ」
流石に永久に枯らさずにいることは出来ないけれど、少しの間は綺麗なまま。
それに、ちゃんと花を残しておけるから。
その言葉を聞きホッとした様子のルノに、周りの団員達も頬を緩ませた。
エリーナの助言のもと、四苦八苦して作り上げた、小さな押し花のしおり。
──そうだ、あのしおりをまさか、なくしてはいないだろうか?
「……!」
とっさに胸ポケットをゴソゴソ漁ると、小さな台紙で出来た小さなしおりが、ポケットからちゃんと出て来た。
中央には、小さな押し花。
今はもうセピア色になってしまった押し花を、じっと眺める。
……よかった、なくしてなかった。




