第224話 無謀
【ダリュロス通り 13番地付近】
「そらまた、無謀なこと考えたもんやな」
あっさりと見つかってしまった。
スクーターの荷台に足をかけ、頬をにやつかせながらこちらを眺めるジェイ。アイリ、ナエカ、レオナルドは、とっさに笑みを作ってごまかす。
ただ、口元が引き攣っただけで終わったが。
「なんや急いでんなと思ったら」
流石に、ジェイの能力はごまかせない。不審な動きをした彼らに気付き、わざわざ追ってきたのだ。
ぎこちない笑みのまま、レオナルドは思い切って切り込む。
「ジェイさんの能力で探せないんすか、ネックレス」
「そら無理や、人はまだ探せるけどやな」
血の力は、感情で操るもの。感情の無い無機質な物は、能力のレーダーでは、存在を拾うのが難しい。
どこに落としたかも分からないと、流石に範囲が広すぎる。そもそも人であっても、この広さでは。
ましてや、探すのは小さなネックレス。恐らくは、そのカケラ達かもしれない。
「それこそ無謀やで。まぁ、まず君らが無謀なんやけど」
「そっか……」
「せやけど」
そう付け足すと、ジェイの目がすうっと細くなる。見覚えのある、この目。
「え?」
「何人か、向こうの通りの人がネックレスの──珠って言うんか? 拾っとったみたいやで」
「……!!」
あまりの朗報に、三人は揃って目を見開く。
「マジっすか!?」
「たまたまレーダーで視たんやけどな、もっとおるんちゃうか?」
「じゃあ、向こうの通りに落としたんだ」
「やったね!」
しかし、拾ったのが何人かということは。
「……バラバラになっちゃったんだ、ネックレス」
「でも、拾ってもらえたなら、きっと珠は割れてないよね?」
「えー! それ、どんな落ち方したってんだよ」
どうやって人の手に渡ったのか。
状況は分からない。だが、取り戻す希望は見えてきた。
「ありがとうございます、ジェイさん。行ってきます!」
「おー」
気の抜けた返事。
三人は揃ってジェイに頭を下げ、ザッと勢いよく振り返り、我先にと走りだす。隣の通りに向かって。
「おっしゃあ、競争だぜ!」
「キョウソウ?」
「アイリちゃん早い……」
息が乱れる。前を行くアイリの背を追いながら、ナエカはふと首を傾げた。
──きっと怒られると思ったのに。ジェイさん、なんで私達を追いかけて来たんだろ。
怒ろうとしたんじゃないの?
「転ぶなや〜」
凄まじい行動力。もう米粒ほどの大きさになってしまった三人の背中に、ジェイはヒラヒラと手を振った。
「ええな、若いやん」
ククク、と小さく笑い、わざとらしくえくぼを寄せる。
そして、再びすぅっと吸い込まれるように目を細めた。
『──っていうことやねんけど、ホンマに探せるんか?』
一方、近くのとある茶屋の個室。
「ほぉ、当主の証か」
「オールブライトの血族に続く、首かざりですだ」
コルピライネンの報告に、主人は冷え冷えと嘲笑する。
最早、記憶にも残っていない。愉快な置き土産を残していった物だ、水を呼ぶ巫女。
「まさかまさか、こんなにあっさり物は失われるのだな」
形あるものは、いつか壊れるのだとか。
だが、長きに渡り大事にされた物には魂が宿り、神をも呼び寄せるという言い伝えもある。
壊れたら、宿った魂まで壊れるというのか。それとも、どちらかは真実ではないのか──それとも。
当主の証。
それを現当主がなくした、これは面白いことになる。
主人はサッと髪をかきあげ、席を立つ。
「コルピライネン、その者の名前はなんと?」
「名前、ですだ?」
「巫女の子孫とやり合ったんだろう、そいつの名前は?」
コルピライネンは、慌てて頭を下げた。
「ははっ! ミビドスト、という兄弟ですだ」
「ミビドスト」
名前を繰り返すと、主人は機嫌がよさそうに、持っていたグラスを軽く揺らす。
ダメだ、やはり忘れている。長く会っていないと、仕方がないのかもしれない。
中の氷が動き、カラコロと小気味良い音を立てた。
その音に、主人は満足そうな笑みを浮かべる。
「よいではないか、そいつに少し褒美をやろう。後でここに連れてこい」
「ははっ! 恐縮ですだ、おどどさま」




