第222話 祖父
「ツョッキアン!! あの首かざり、なくしちゃったの!? えええ!!」
シリュウは笛でも鳴らしたかのように、甲高い声で大きく叫んだ。
波動のような叫び声に、一同はたじろぐ。
「今、首かざりない、ない!? ショウリュウ、首かざりつけてない!?」
「わあぁ」
弟が心配で驚きのまま駆け付けたのに、二重に驚きを重ねる羽目になるとは。一瞬で青く染まる顔。
大きな反応に、アイリ達も面食らう。
「そんな……大変だよ……」
呆然としながら、ウロウロと歩きだす。落ち着かない様子のシリュウに、アイリは思い切って近づく。
「あの」
「ん?」
「あのネックレスって、大事なものなんですか?」
ショウリュウにとって。
真っ直ぐな目で問いかけてくるアイリに、シリュウも視線で返す。
そして、ゆっくりと目を伏せた。
「……あれは、おじいちゃんがショウリュウにあげたものだよ」
つたない口調ながらも、シリュウは語りだす。
シリュウとショウリュウの祖父、リ家の先代当主だ。
火の使い手で気が強く、勇ましい。権力もあり、若い頃から恐がられていたが、二人にとっては優しい祖父。
ずっと男の子を望んでいた祖父は、ショウリュウが産まれると、それはそれは可愛がったという。
広い国のどこへでもショウリュウを連れ歩き、自慢ばかり。
お気に入りの秘密の倉に、度々ショウリュウを連れ出しては、一緒に遊んだものだ。
ショウリュウが少し成長すると、祖父は更に大喜びした。
リ家の屋敷に長く飾られている、誰が描いたのかさえ分からない絵。先祖である太陽の始祖、コーラ・オールブライトの絵に、ショウリュウがそっくりだと。
「肖像画、か」
「ショウゾウガ?」
「に、似顔絵のことだよな?」
「姉弟だからね。わたしもにてる、なら、なのに? おじいちゃんは、ショウリュウだいすきだったの」
ショウリュウの方がにてたけどね、とシリュウは悲しそうに笑みを浮かべる。
ショウリュウを溺愛していた祖父は、弟が幼い頃からこんな事を言い続けてきた。
「ずっとね、ショウリュウが次の当主さまだって」
「え!?」
その頃は勿論、両親だって家にいた。更に言えば、シリュウだっていた。
始祖様が女性なのだから、当然女性が継げない事はない。にも関わらず、祖父はずっと、跡継ぎはショウリュウだと。
しかし、周囲がいっそ諦めてしまう程に、祖父はショウリュウを分かりやすく可愛がっていたのだ。
「だって、だから、おじいちゃんはあの首かざりをショウリュウにくれた」
「跡継ぎだから……あげた?」
「そう」
「じゃあ、まさか」
アイリ達四人は、ハッと声を上げて絶句する。
「あの首かざりは、リ家の当主さまが持つ。あれはね、ほんとうはコーラさまのものなの」
「……!!」
あまりの話に、四人は揃って後退りした。
リ家の、オールブライト系の当主の証。それこそが、勾玉の首かざり。
始祖の持ち物を、毎日身につけるなんて。なんと恐れ多いことか。
「でもね、おじいちゃんは」
健康が自慢な祖父だったが、流行り病であっけなく亡くなった。首かざりをショウリュウにあげた、すぐ後に。
悪いことは続くもので、なんと両親もその年の二回目の夏に、砂漠で行方不明になった。
ショウリュウはその時、9歳。
屋敷では、当主もその息子夫婦もいなくなり、誰が家を仕切るかで大騒ぎとなった。
後ろ盾のいない若い二人には、訳も分からずどうしようもない大人の事情。途方に暮れるばかりだった。
「みんながこわい目をするよ、ちがう人みたいだったよ」
あっという間に周りの大人達に屋敷は仕切られ、奪われた。危ない立場になった二人は、国を出る事にしたのだ。
遠くの港に逃げこみ、必死に船を探して飛び乗った。
二人に残されたのは、ショウリュウが当主だと示す、あの首かざりだけ。
「そんな」
「ショウリュウね、あの首かざりだけはって持っていくの。おじいちゃんとコーラさまがあげた、大事なものだって」
少し憂いを秘めた、それでも明るい口調で話すシリュウ。
ぬるま湯のような、生暖かい空気が流れる。
「……そんなに大事なものだったんだ」
ナエカの呟きに、アイリは医務室での彼の姿を思い浮かべた。
胸の中にあるのは、晴れない分厚い曇り。いたたまれない感情が込み上げる。
込み上げる感情を押し込めて、アイリはさりげなく嘆息した。




