第221話 沈み
【パレス 二階廊下】
「ネックレス?」
医務室を出た廊下で、ショウリュウを除いた残りの51期生は話し合っていた。
アイリの報告に、シキは目をパチクリさせる。
「それって、坊やがいつもつけてる勾玉の?」
「え、あれっていつもつけてるの……?」
「あー、あれか、あの綺麗なの。確かにいつもつけてるな」
制服の襟に隠れてはいたが、チラチラと目に入る輝き。
中央に勾玉。そして、左右それぞれ六つずつ付けられた石のような小さな珠。
いつもショウリュウが身につけている、勾玉のネックレス。アイリの記憶が正しければ、ショウリュウがそのネックレスを身につけていなかった日は無い。
意識して見たことは、無かったけれども。
うんうん、と頷くレオナルドに、アイリは目を伏せる。
「さっき、ショウリュウ付けてなかったの」
「え?」
驚いた三人は、ベッドでの彼の姿をなんとか思い出す。
ベッドに横たわっていた、彼の胸元。
「そう言われてみると、確かに無かった気もするね」
「無かったかよ?」
驚くレオナルドに、ナエカはそっと頷いた。
「そうだね、光ってなかったよ」
あのネックレスの勾玉は、夕方の陽射しのような、とても儚いくらいに小さな輝きを放つ。
しかし、その輝きは今日は無かった。
制服姿ではなくシャツを着ていたから、身につけていれば普段より目立った筈だが。
「えー、オレ気付かなかったじゃん」
「それがどうかしたのかな、姫」
「だから、その……ショウリュウ、ネックレスなくしちゃったのかなって」
よく気付いた、とシキは少し目を見張った。
一体、いつどのように落としたのだろう。あれほど大事そうに、いつも身につけていたのに。
アイリはうーんと、頭を悩ませる。
例えば、見えざる者と戦った時にあんまり綺麗だから、見えざる者に持って行かれてしまったとか。
「……それは無いと思う」
「え」
海に落ちた時に、海に流されてしまったとか。見えざる者と空で戦った時に、落としてしまったとか。
考えられる可能性ならば、いくつもある。
いつなくしたのか、ショウリュウも分かってないかもしれない。
何にせよ、ショウリュウは大事なネックレスをなくしたのだ。
「すごく落ち込んでたみたいだったから」
「確かに、なんだか様子が変だったじゃん」
「ネックレスをなくしたからかも、ってことだよね」
「あのショウリュウが油断なんて、おかしいとは思ったんだよな」
あれほど能力があって、堅物で真面目なショウリュウが。いつもしっかりしている、ショウリュウが。
「だとしても、姫。それでどうするんだい?」
──何か出来ることでも?
シキにはっきりと尋ねられ、アイリは答えに詰まる。
「うん……」
思い出すのは、まだ自分が幼い頃。里にいた頃。
おぼつかない足。歩き疲れて、足の裏は真っ黒。
裸足で森を彷徨い、ようやく里に帰ってきた時にはすっかり太陽が沈み、辺りは暗くなっていた。
「えーん!! うえーん!!」
「ほら、アイリ。気にするな、もう泣かないの」
「えーん!! お兄ちゃあああん、ごべんなさあぁい!!」
「いいから、心配したんだぞ」
目の前で微笑む兄の優しい声が、いっそ辛かった。
ホッとした様子の兄の声に、どんどん涙が溢れてくる。
あれだけ探したのに。森を探検した時に、なくしたのは分かっていたのに。どこで落としたか、大体は分かっていたのに。
兄がプレゼントしてくれた笹の葉人形は、結局見つからなかったのだ。
「うわああああん!!」
ぽんぽん、と頭に手を置いて宥めてくる兄を前に、アイリはずっと泣きじゃくっていた。
「……」
思い出して、胸がチクリと痛む。
目が沈むアイリに、三人の視線が向けられた。
「さっき、エリーナさんがシリュウさんを呼ぶって言ってた」
もう、あんな思いはごめんだ。
「ちょっと、話を聞いてみようと思う」




