第219話 同情
【テイクンシティー】
【パレス 二階】
「ショウリュウが!?」
その報せは、すぐに団員達に伝えられた。
アイリが医務室の扉を開けると、団員達が集まっており、ショウリュウはベッドの上で既に目を覚ましていた。
頭に念入りに包帯が巻かれており、アイリは目を見開く。
「ショウリュウ、大丈夫!?」
「……」
アイリが問いかけるが、ショウリュウは苦りきった表情のまま、答えない。
恐らくはもう何度も、その質問をされているのだろう。同情されるのが癪に障るのか、きつく唇を噛んでいる。
ショウリュウが答えない代わりに、エリーナが口を開く。
「頭に傷、腕と腹部にも切られた傷。幸い、傷は深くないってお医者様が仰ってたわ。ただ、出血があるししばらくは安静だそうよ」
「よかった……」
出血は、輸血が出来ないエイドリアンにとって、致命傷になり得る。
広い広い海の上だ。発見が遅れていたら間違いなく、命は無かっただろう。
「たまたま近く通った漁師さんに、助けられたんや。運ええで」
「海に落ちたって、何があったんだぁ?」
「……」
レオナルドに尋ねられ、ショウリュウは目に入れる力を強くした。
胸に、苦いものが込み上げる。
「……別に。見えざる者が飛んでるのが見えて、追ってったら海に落ちたっつーだけだ」
自宅の窓に映った、見えざる者の影を追った。
上手く見えざる者の上に乗る事は出来たが、高い空の上で揉み合いになり、海に落ちてしまったらしい。
肝心のその見えざる者は、逃してしまったようだ。
「え!? じゃあ岸じゃなくて、空から落ちたんですか!?」
「あぁ」
「ヒィ」
「それは……よく生きてたわね、あなた」
皆が一様に声を失う。
空から真っ逆さまに落ちていく中で、とっさに札を取り出し、風の力でなんとか衝撃を吸収した。
だが岩場の多い海に落ちたことで、海の中で岩に頭をぶつけたようだ。
「ふぅん。揉み合いになって、ねぇ」
「……何だよ」
少し煽るような物言いのシキに、ショウリュウはギッとシキを睨む。
ショウリュウは本家の血を引く、オールブライトの現当主だ。実力は折り紙つき。そのショウリュウを、まさか海に突き落とすとは。
少し、信じられない話ではあった。
「強い見えざる者だったの? えっと、恐い能力があるとか」
アイリが少し前のめりで尋ねると、ショウリュウは答えづらいのか、目を逸らす。
「大した奴じゃない。空を飛びはするが、こっちが油断しただけだ。俺が」
そこまで告げると、突然うめき声をあげ、お腹をおさえてうずくまる。どうやら、傷が開いて痛みだしたようだ。
「つぁ……」
「ショウリュウ!」
「あーあー。リュウちゃん、動いちゃダメ。ムリしちゃダメよぉ」
宥めてくるカリンに、ショウリュウはパッと顔を上げる。
「別に無理なんて」
しかし、すぐにまた背中を丸めてしまった。
「ほら」
「痛そう……」
皆が慌てる中、ジッとショウリュウを見つめるアイリは、一人首を捻る。
──あれ、何だろう。ショウリュウ、いつもとどこか違う気がする。どこが?
だが、その違和感の正体は見つからない。アイリは首を捻るばかりだ。
エリーナは、ホッとさせるような笑みで微笑みかける。
「あなたにしては珍しいわね。とにかく、その見えざる者のことは、私達に任せなさい」
「いや、俺は」
「いいわね」
エリーナにキッパリと告げられ、ショウリュウは目を逸らし唇を噛む。
こんなに悔しがるショウリュウは初めてで、アイリは思わずナエカと目を見合わせた。
「ほら、そろそろ出ましょうか。仕事しないと」
「はぁい」
──バタン。
エリーナに促され、皆揃って医務室の扉を開け、部屋の外に出た。
閉めた扉を振り返り、ジェイは小さく呟く。
「えらい落ち込んどったな」
「あんな顔するの、初めて見ました」
「……」
アイリは、一人違和感の正体を探していた。
「あ」
そして、その正体にようやく気付き、大きく目を見開いた。
ショウリュウがいつも首からぶらさげている、小さな小さな輝き。
その光が、今日はどこにも見えなかったのだ。




