第211話 一変
【ステイ通り】
「一体どうなってんだよこれは!?」
翌朝。
街に早々に出てみると、状況は一変していた。
「あ、剣の団だ!」
団員達が通りに現れると、一斉に興奮した民に囲まれたのだ。皆は口々に言葉を並べ、詰め寄ってくる。
昨日の穏やかな通りが、嘘のよう。民は皆揃って、血相を変えていた。
「ねぇねぇ、何があったの? 子供がいなくなったって聞いたけど」
「見えざる者が連れてってんだろ? うちの家の近所の子、まだ家に帰ってねーんだ!」
「もう生きちゃいねぇって、死んじまってるって言うじゃねぇかよお!!」
「見えざる者が子供さらって、オロロのとこ連れてくって聞いたぜ!?」
「鐘の音が聞こえたらそう、そうなんだよねぇ?」
「え、あ、あの」
アイリは強く肩を掴まれた。
目の前の民はすがりつくような目をしており、団員達は戸惑うことしか出来ない。
いつの間にか、更に噂が広がっている。最早、テイクンシティーのほとんどの民には伝わってしまったようだ。
昨日の時点では確かに、極一部の人間にしか伝わっていなかった筈。あれだけ街を巡らなければ、情報を掴めなかった。
だが、今は皆の耳に入り、噂は更に変化していく。噂は噂を呼び、大混乱に陥っていく。
「団員みんな出てるぞ。こりゃ間違いねぇなぁ、おっかねぇな」
「そりゃそうだ、いなくなったちびっ子、顔が紫になってたって言うじゃねーか」
「おいおい。いなくなったってんのに、顔色が分かるわけねぇよ」
「いやいや」
「あ〜もう! 皆さ〜ん、落ち着いてね〜」
団員達は、民を宥めようと必死だ。
ショウリュウの側に、一人のヒゲの男性がやって来る。
「家、多分戸締まりしてたと思うんです。見えざる者、これで大丈夫ですかね? へへ」
「……今しても意味ねーだろ。つーか、今してなかったらすぐ帰れ」
団員達は皆、恐怖に怯える民に囲まれ、身動きがとれないでいた。
「これは一体……?」
エリーナは呆然と、民の熱気を見渡す。
「皆様、落ちついてくださいな」
威厳を纏う団長の登場に、熱気は少し静まったようだ。それでも民の目には、恐怖と焦りの色がある。
ジェイが、緊迫した顔でそっとエリーナに近付く。
「昨日はこんなんやなかったのに、もうこんなに広まっとるわ。やっぱりあの噂、ただの噂やないで!」
「まだ定かではないですけど、姿の見えない子もいるみたいです」
「もう隠せてないよぉ、やっぱり間違いないよぉ!」
付け足すヨースラとカリン。エリーナは、グッと口元に力をこめる。
ハーショウはこの噂、噂そのものに意味は無いかもしれないと言ったのに。まさか、ここまで噂が広がるとは。
最早思い悩む時間も、考え込む時間も無いのだ。
「……」
エリーナは覚悟を決め、口を開く。
「みんなに知られてしまった以上、もういいでしょう。ここにいる人達から、どんどん話を聞くの。堂々と行動出来るわ、一気に動くわよ!」
「お、おっしゃ!」
「あー、あー、みなさ〜ん! とりあえずここにおいでね〜」
カリンが声を張り上げたその時、エリーナの通信機が鳴った。
取り出し、耳に当てる。
「はい」
『エリーナかい? 一応、機関からの指示を伝えるよ。団はやはりそのまま動くな、だそうさね』
エリーナは、大きくため息をつく。
「この期に及んで、ですか。それに、この噂がただの噂とは、流石にもう考えられませんわ。私達は、国のみんなの為にありますのよ」
『それはその通りさね、ただねぇ……』
上、とやらもオーナーも、随分と煮え切らない態度じゃないか。エリーナは苛立ちながら、通信機を握り直す。
「切りますよ。とにかく、時間がありません。調査から任務に切り替えます、私の判断です」
パッパッパーーー!!!
エリーナが、通信機の電源を切ろうとした──次の瞬間。
耳をつん裂くような、車のクラクションが強く鳴り響いた。
「ひゃあ!」
民の列をジリジリと突き進み、大きな車がゆっくりと、団員達に近付く。民は驚きながらも、道を開けた。
大きな、年代物の赤い車。
パッパッパーーー!!
「あ、あの車!」
ラナマンの代表、バートの愛車。
車の窓がゆっくりと開かれ、中から焦った様子の男性の顔が現れる。
「み、皆様、一大事でございます!!」
「あなたは、確か」
パレスにも訪れた、バートのお付きの者だ。すっかり怯えた様子で、顔を真っ青にしていた。
すがるような目で、はっきりと告げる。
「一大事でございます! ニアラお嬢様、ニアラお嬢様のお姿が見えないのでございます!!」




