第203話 遮り
【テイクンシティー 中央通り】
【街庁舎】
「いつもそんな顔をしているな、君は。剣の団団長、エリーナ・バンディア」
「お呼びでしょうか」
──ここに来るのは、いつも億劫だ。
政府のあらゆる機関が集まった、国の象徴の一つ。その奥の古い建物の、一番奥の部屋。
目の前でからかうような表情を見せる男に、エリーナは顔を引き締めた。
男のそばには、ハーショウが居心地悪そうな様子で立っていて、彼から微妙に目を逸らしている。
「ここ最近の活動の内容を聞いたが……酷いものだ」
「酷い、でしょうか?」
エリーナは思わず眉をひそめた。
自分達の仕事をそのように言われては、気分が悪い。命がけの仕事だ。
そんなエリーナに、男はバサッと何枚もの書類を机に並べた。
「見たまえよ、君達のここ最近の見えざる者の撃退数を。なんとも頼りない数ではないか」
書類には、読めない程の小さな文字。細かい数字がゴロゴロ並んでいるようだが、エリーナは目を通す気にもならない。
目をグッと三角にした。
「最近は見えざる者の事件が少なく、出動が少ないのですわ。それは局長もお分かりでしょう」
「通報が少なかっただけだろう、事件が起きていなかったとは限らない」
「だからこそ私達は──」
「言い訳はいい」
強い口調で遮られ、エリーナは更にむっと顔をしかめた。
言い訳、だなんて。
「しかも挙げ句、身内に足元を掬われるところだったそうじゃないか」
セロマのことか。
セロマの事を持ち出されると、エリーナも流石に口を噤む。彼を身内、にされるのは不本意だが。
「あの件で、うちがどれだけ動いたと思っているのか」
「……申し訳ございません」
男は構わず、更に書類を放り投げるように机に並べた。まるで絵のような文字、古い文字が並ぶ。
「テイクンにオロロという化け物が現れてから、この国の民は常に恐怖と隣り合わせにある」
姿の見えない化け物が、いつ隣に現れるか分からぬ恐怖。
目に見えない存在に、いつ襲われるか分からぬ恐怖。
「見えない怪物のせいで、多くの命が失われた。ようやく団という組織が立ち上がったのは、たったの50年前だぞ、たったの!」
「そうですわね」
「君らに頼らなければ、何も出来やしない。見えざる者を倒せる手段が、あまりにも弱い! 上にも民にも、全く危機感が足りないじゃないか。そうは思わないか?」
机の上で握られる熱い拳。
エリーナはスッと表情から感情を消す。表情の意味を悟られると面倒な事になることを、彼女は既に知ってしまっていた。
無邪気な街の人々の顔が、思い浮かぶ。
「危機感、ですか」
「そうだ、危機感だ。危機感を持つことに慣れ過ぎた、というべきか」
余りにも長い時間、見えざる者がいる生活に耐えてきたのだ。
団が出来ても、それは変わらず。
「きっと疲れておるのだろうな、政府も民も。当然だ、長年恐怖と戦っているのだ」
「それは、そうですわね」
恐怖の声に応えて、剣の団は誕生した。民を守る盾として。
まだ若い彼等に、平穏を託すしかなかったのだ。
「だが、団だけに頼っていてはならぬ。我等に必要なのは、予測と統率。見えざる者の動きを予測し民を統率し、そして討伐する。その為には──」
感情がむきだしになり、熱弁が始まってしまう。最早、その目にエリーナは映っていないかのよう。
「民はどうして、冷静に行動できぬのか。経験から学び、得るものがあるというのに何故それを──」
「……」
「先日この件を上に上げたが、なんとも及び腰だ! まず上の危機感が薄れていると言える。だからこそ、我々の手で率先して動くべきであろう、まずは」
……長くなりそうかしら。
エリーナはそう判断し、ズバッと彼に切り込むことにした。
「それで、レイク局長」
「何だ、まだ話している」
「本日は何か、私に用があったのではありませんか。何故ここに呼ばれましたの?」
遮られた、と気付いたのか。分かりやすく顔が歪む。
政府異能機関、情報局局長。
ハーショウの上司である体格のいい彼は、不機嫌になりながらも口を開いた。
「君は、耳にした事がないかね? 例の噂について」
「……噂?」
剣の団の団長が知らないとは、と局長はまたも不機嫌になってしまった。




