第204話 情報
【パレス 大広間】
「噂?」
「そう聞いたのよ」
エリーナの元に集められた団員達は、唐突なエリーナの言葉にそれぞれ首を傾げた。
エリーナが口に出すには、少し不自然な言葉だ。
今日は久しぶりに、ルノもパレスに出てきている。
「噂って、どんな噂なんですか?」
ヨースラの問いかけに、エリーナはそれがね、と吐き出すように話しだす。
「──夜の八の刻に鐘の音が鳴り、鐘の音と共に子供達は家を抜けだす」
「鐘の音?」
「……それで?」
「そして子供がいなくなる」
エリーナの告げた言葉に、皆がギョッとする。
ナエカは、抱えていたクッションを落としてしまった。慌てて抱え直す。
「いなくなるって」
「こういう噂が出回っているらしいわ。そして、見えざる者の仕業じゃないかって言われてるの」
一応話してみるが、団員達の反応は微妙だった。ピンと来ない様子だ。
見えざる者に関する噂、団としては無視する事は出来ないが。
「うそくせぇ」
「その噂、ホントなのかなぁ? ウフッ」
そもそも、そんな依頼来たことがない。実際に噂通りに子供が消えたとしたら、何かしらパレスに依頼が来る筈だ。
それに、街の民からも聞いたことがない。街の巡回だってしているのに。
ずばり、ショウリュウが眉をひそめて指摘する。
「こっちが気づかないわけねーだろ」
「ええ、そうなんだけど。剣の団の団長が知らないのか、と言われてしまって」
「レイク局長が?……そら厳しいな」
「キョクチョウ?」
「皆、その噂を聞いたことは?」
残念ながら、皆が首を横に振る。
「うーん、聞いたことないっすね」
「怖い噂……」
子供が勝手に家を抜けだし、いなくなってしまうなんて。
はっきりと見えざる者の仕業と断定出来ないが、子供を狙う見えざる者は確かに存在する。子供が人にとって宝だと、見えざる者も認識しているのだろう。
シキが、クルクルと帽子を回しながら割り込む。
「まるで、ハーメルンの話みたいだね」
「ハーメルン?」
アイリが聞き返すと、シキはにこやかに頷く。
「ハーメルンの笛吹き男。昔から伝わる、ただのおとぎ話だよ。笛の音でおびき寄せて、街の子供達をみんな連れて行ってしまったのさ」
約束を破った人々に腹を立て、彼等にとって大事な子供達を連れ去った。
おとぎ話とはいえ、身震いしてしまう話だ。アイリはその話に、顔を少し青くした。
「こわい」
「それで、実際に子供がいなくなってるのかな?」
「……少なくとも、団にそのような報せはないわ。ただ、少し考えたのだけど」
口に出すのを躊躇うかのようなエリーナに、皆がエリーナの方を向く。
レイクの話を聞いた時から、考えていた可能性だ。
レイクは、情報局の局長。情報を扱うプロであり、そんな彼が不確かな情報を流すだろうか。
もし仮に、見えざる者が本当に子供を攫っているのなら。
「もしかしたら、攫われた子供がちゃんと帰っているのかもしれないわ。すぐにね」
ただし、攫われた間の記憶を失くして。
「帰ってる?」
「あぁ、なるほど」
ちゃんと親元に帰って来た子供、どこに行っていたのか聞いても答えない。いや、分からず答えられない。
これでは、単に子供が抜け出して遊んでいたようにしか見えない。
「それなら、こっちに情報は来ないかもな」
「せやったら、なんで見えざる者は子供攫うんや。何するつもりや」
「それは分からないわ。でも、その可能性を捨てるべきではないと思うのよ」
ハーショウの上司である情報局局長、直々の情報だ。見えざる者が、小さな子供に魔の手を伸ばしているなら。
エリーナは一同を見渡し、はっきりと宣言した。
「剣の団は、この噂について調査をします」
「任務ですね!」
「よっしゃあ!」
レオナルドは気合い十分、広間を飛び出そうとする。こういう時に、一番行動が早いのが彼だ。
「で、その噂はどの通りのことなんすか?」
「シティーよ」
「……はいぃ?」
レオナルドは、素っ頓狂な声を上げて足にブレーキをかける。
「局長の話ではポツポツとだけど、シティー全てに広がっているらしいわ」
「シティー全部!?」
「……地道に聞くしかあらへんか」
「大変〜。ウフッ」
「今日も依頼は少ないし、巡回しながら聞いてみて」
「うへぇ」
おのおのがどこか納得しない、しっくりしない表情で広間を出て行く。
笑顔を皆を送り出したエリーナだったが、皆の姿が見えなくなった途端、表情をスッと引き締めた。
どこか納得いかなかったのは、エリーナもそうなのである。




