第202話 強者
【セントバーミルダ通り 269-12】
【アパートメント アリビオ】
「……!!」
子供のように驚き、丸くなった目。
下僕そのにが扉を開けた瞬間、下僕そのいちは驚いた表情で出迎えた。
下僕そのにが抱える、この人形を見据えて。
──何だその顔は、情けない。そんな顔、久しぶりに見たぞ。
「……見つけたのか?」
兄からの問いかけに、妹は笑顔で首を横に振った。
「見つけてもらったの、エリーナさんに」
「団長さんに?」
コクコク、と頷く下僕そのに。
その答えに、下僕そのいちは頰を緩めた。
「そうか、お礼しないとな」
「人形さまあああ」
下僕そのには人形を強く抱くと、くるくる回りだす。
目が回る、目が回る、やめんか。若くはないんだ。
ガタガタガタ。
抗議を送る、抗議を送る。ようやく堂々と、抗議を送れるのだ。
「ほぇ、まだ怒ってる」
「そりゃそうだ、これからは忘れないようにしような」
「うん!!」
──そう、それだ。
そもそも、この娘は何を考えこんでいたのだ。人形の手入れすら忘れるとは。
同じように考えたのだろう、下僕そのいちがスッと表情を引き締める。
「……ところで、昨日から何をそんなに考え込んでいたんだ? 心配するだろ」
「……」
人形を抱える腕に、キュッと力が入る。
「バート、だっけか。ラナマンの代表から何を聞いた?」
「あのね」
下僕そのには少し躊躇ったが、ようやく口を開く。
「バートさんが……バートさんが、オロロにとどめを刺したのはジョナス様だって」
「……!!」
──ピン。
空気がかたまりとなり、重くなっていく。
いや、空気が重くなったのではない。重くなったのは、人形の重さ。
そうか、その話か。そのことだったのか。
「……その通りだな」
下僕そのいちは、下僕そのにの言葉をあっさり肯定してしまった。
「そうなの!?」
ハッと顔色を変え、下僕そのいちに詰め寄る。
「ああ、バートの言う通りだ」
「どうやって、どうやって血の王を倒したの!?」
「……ジョナスが、ある術を得たと聞いた。その術が何なのかは、俺は分からない」
人形はその言葉にギョッとして、下僕そのいちの方を向く。
おい、そんなにしれっと嘘を吐くな、並べるな。分かりやすい嘘を。
「じゃあ、その術が分からなかったら?」
オロロが倒せない、ということ。
だからこそ、長老は剣の団に入れたのか。倒す為には、その術が必要だから。
だから、わざわざ跡取りを里から外に出した。だからこその使命。
「何故長老様は言わなかったの、このことを。なんで黙ってここに……」
こんなに大事なことを、秘密にされるなんて。
声が震えだす下僕そのにだが、そのいちは首を横に振る。表情をピクリとも変えず。
「それはどうかな」
「え?」
「とどめを刺したのがジョナスの術だった、それだけのことだ。他の太陽の始祖がとどめを刺せなかった、とは限らない」
「あ……」
人形は、気まずくなり思わず目を──いや、体をそむけた。
下僕よ、おまえなかなか強者だぞ。
「とどめを刺したのがジョナスだったとしても、その術だけであの魔物を倒せるか? それはない」
何故ならば、その術も元はオロロの力に違いないのだから。所詮は血の力、なのだ。
彼等もきっと、皆で力を合わせてオロロを倒したに違いない。剣の団と同じように。
だからこそ、長老も例え知ってても、口にはしなかった。アイリにも伝えなかった。
下僕はそう付けたし、ニマッと笑う。
「気にやむな、アイリは剣の団なんだから。やることは変わりはしない」
使命、人々を見えざる者から守る。オロロを倒す。
「……うん」
ようやく下僕そのにも、笑みをこぼした。
──下僕、何と怖い男よ。
「まぁ、その術は分かってた方がいいとは思うけどな〜。強い術なんだろうし」
「ほええ」
下僕そのには目をクルクルさせ、悩み出した。
「術なんて、知ってるの冥地蘇生くらいなのにぃ」
他にあるのかな、長老様何か言ってたかな、とブツブツ呟きながら首を傾げ、バルコニーに向かう。
下僕そのにが考え事をする時は、いつもあそこだ。今日は少し風が強いだろうに、いいのだろうか。
ふん、またいつもと同じ視界に戻ったじゃないか。これぞ、人形の日常。
バルコニーに向かう妹の後ろ姿を見送り、下僕そのいちは、人形のいる戸棚にもたれかかった。
コップを片手に。
「おかえり〜、楽しかったか? もう勝手に出かけたりしないでよ」
ふん、勝手に決めるな。この人形はこの街が気に入っているのだぞ。
また好き勝手にやろうじゃないか、この人形は生きているのだから。
役に立たない下僕達よ。
──カタン。
age 14 is over.
次回予告!
「君は、耳にした事がないかね? 例の噂について」
「噂って、どんな噂なんですか?」
「明らかに、意図的に情報が隠されてる」
「やっぱりあの噂、ただの噂やないで!」
「私達が動かないなら、ここにいる意味も必要も無いわ」
次回、age 15!
ここに噂はありますか!
「キライなのよ、歯がゆいことは」
お楽しみに!




