第201話 無礼
【ミツナ通り】
中央通りに近い、賑やかな人通りの多い通り。
人形は、またしても誰かの腕の中にいた。そう、貴族の腕の中。
通りの人々の視線が、やや痛くなってきた。目立つ彼に抱えられると、この人形の存在感が際立ってしまう。
「はぁ……」
前方に見えてくる、見知った身内の顔。酷く沈んだ、暗い表情を浮かべている。見慣れない、きっちりとした服を着ていた。
……ほぉ、あの姿が団員としての姿か。なかなか似合うじゃないか。
側には、こちらも見知った顔。先程出会った、美少女がいる。
落ち込んでる様子の下僕を、宥めているようだ。おや、スパイはどこに行ったのだろう。
「はぁ……」
「どうしたの、今日はずっとおかしいけど」
「ちょっと、ね。どこに行っちゃったのかなぁ」
「うん?」
口から漏れる、大きなため息。
二人の姿に、貴族まがいはフッと小さく微笑む。
「姫!」
人形を抱いていた貴族まがいは、笑顔で下僕そのにに駆け寄った。
この人形を抱えたまま。
下僕そのには人形に気付き、これ以上なく目を大きく見開く。
「……!!」
「これ、姫のだよね?」
爽やかな笑顔で、差し出された人形。
下僕そのには人形に気付き、表情を一変させた。これ以上ないほど、大きく目を見開く。
そして目元に水を滲ませ、一目散に駆け寄ってくる。
「人形さまああああ!!!」
ぎゅうっと、強く強く抱きしめられる。圧迫感が体を包む。
く、苦しいぞ。苦しいぞ。力強いな。
「お人形さまあああああ!!! ごめんなさあいいい!!!」
みるみる涙が溢れ、ぽろぽろとドレスに落ちていく雫。じんわりとゆっくりと、生地に染みを作っていく。
「え、お人形様?」
「変な呼び方するね」
「忘れぢゃってごべんなさいいい!! ふえええん」
えーい、泣くな。
後ろの二人の会話が耳に入り、またまた体を動かしそうになる。
うるさいぞ、ガヤめ。大体、そこの貴族まがい、我が下僕をなんと呼んだ?
姫などと、そっちの呼び方の方がおかしいだろうが!
クレエールの娘を、姫などと──呼ぶのは敬意があって、大変よろしい。
「あ、あれ? お人形様ちょっと濡れてる、なんで?」
泣き腫らした目でも感覚で気付いたらしい、わたわたと手で触れて確認してくる。
そうだぞ下僕、まだ乾ききっていない。下僕に泣かれたせいで、また濡れてしまったがな。
下僕の言葉に、貴族まがいが申し訳なさそうな顔を返す。
「うーん。さっきレストランで、転んじゃったちっちゃい子に水かけられちゃったんだって」
「えーー!!」
ジロジロ見るんじゃない、そこめくるな。袖めくるな!
何故そこをめくる必要があるんだ!
「この人形、アイリちゃんのだったんだ。かわいい」
「里にあった、お人形様なの。中に幽霊さんがいるんだよ、一緒に家にいるんだ」
「……え?」
あっさりと口にした下僕に、二人は顔を引きつらせ、サッと後ろに退がる。
……無礼な!!
剣の団であろう。見えざる者を相手にしていながら、幽霊を怖がってどうする!
この人形は怖くなどないのだ、偉いだけで。
「多分、昔のクレエールの人なんだよ」
笑顔の下僕に、美少女が恐る恐る尋ねる。
「じゃ、じゃあ、バートさんのあの壺みたいに動くの?」
「うん! お人形様、シキが見つけてくれたの?」
「うんって……。いや、団長さんだよ」
「エリーナさんが!? よかったあぁ、見つからなかったらどうしようって……」
涙を流しながらも、子供のようにはしゃぐ下僕そのに。
その後ろで、知りたくなったと言わんばかりに目を泳がせる、その他二人。
──コラァ!!!
「ほったらかしてごべんなさいいい」
またも溢れだす、小さな涙。久しぶりに見た、この涙。
……つまらぬ。
もっと遊ぶつもりだったのに、思ったより早く下僕に見つかってしまった。
不自由なこの身だ、たまには街を散歩してみたかっただけなのに。
「お人形さまああああ!!!」
ふん、まぁよい。
面白い発見もあった、そろそろ下僕達のもとに戻ってやろうじゃないか。
役に立たない下僕よ。




