第9話
勢いで家を飛び出してきてしまった。
空は綺麗な夕暮れで、夜が近い事を示していた。
心配性な母の事だ。
暗くなる前に帰らないと、私を追いかけて外に飛び出してしまうだろう。
いくら元悪役令嬢(推測)とはいえ、元令嬢に変わりはないのだ。
そう思う気持ちと、煮え切らない母の態度に帰る必要は無い。と叫ぶ自分が居る。
今帰った所で、何も変わらない。母はこれからも、聖魔法について隠し続けるだろう。
でも、本当にいつか教えてくれるかもよ?
いつって、いつ?
まるで、心が二つに別れた様だ。
どうしたら良いか解らないまま、太陽がただただ沈んでいく。
「どうしました?」
家と町の間をうろうろしていると、そう声をかけられた。
ーーー
「広くはないですが、外よりはましでしょう。ソフィ様には、こちらから連絡をしておきます」
「は、はい……」
私は声をかけられたままに、町の隅にある小さな家へと案内された。
前世でいう所のワンルームと呼ばれる造りで、確かに広くはない。
私に声をかけた主、アルバ・フィドゥーチャは窓を開けると、何かを呟いた。
すると、窓の外に小さな小鳥が現れたではないか。
「東の魔女の薬屋まで、サラ様を保護したことを伝えて下さい」
アルバがそう言うや否や、鳥はチチッと小さく鳴いて飛びだつ。
恐らく、伝言系の魔法だろう。
「あの……」
「あぁ、どうしてここに居るのかですよね」
アルバは人の好さそうな顔で二コリと微笑む。しかし、私は知っている。
このアルバも、双子の兄であるノッテも、腹黒であるという事を。
攻略対象になる前から、主であるフレドのルートに進めば、2人でチクチク精神攻撃を行い、王子に見合う相手か品定めをしてくるのだ。
そう思うと、フレドルートってあまりに敵が多すぎやしないか……?
「フレド様より、ソフィ様とサラ様の護衛を承りまして、ノッテと交代で担当をしております」
そうサラッと言いながら、アルバは温かいミルクをどうぞ。と差し出してくる。
受け取ろうとした手が思わず止まる。
「……え?」
「はい」
私が驚き動揺している事に気が付いた上で、アルバは笑顔を続けている。
「ミルク、このままじゃこぼれますよ」
そういわれて、慌ててアルバからミルクを受け取った。
いや、ミルクはアルバが持っていたのだから、こぼれるときは意図的にアルバがこぼした時では?と気が付いたのは、受け取った後だった。
「しかし、親子喧嘩ですか」
ミルクをこくっと飲んだところで、アルバがそう呟くので、今度は吹き出しそうになる。
なんで知っているんだ。ついさっき我が家で起きた出来事を。
「おや、図星でしたか」
わざとらしくアルバは驚いて見せた。
そこで気が付く。アルバに遊ばれているという事に。




