第8話
母親は、恐らく乙女ゲームの元悪役令嬢。
とはいえ、その当時の威厳はあまりないのだが……。
そして、そんな母親から勉強を教わる事となった。
「今まで、サラさんに勉強は不要だと思っていましたが、将来の事を思えば覚えて損はありませんわ」
母は初日からやる気満々である。
そして、教育のスイッチが入った途端にお嬢様言葉になるらしい。
それに対してこちらは、勉強の二文字でやる気がだいぶ削がれている。
フレドに教わった時は魔法中心で多少は楽しかったが、母親に事前に渡されたスケジュールには、それ以外の教科がビッシリ入っていた。
「とはいえ、私にはお店がありますから、一日に教えられる量には限りがありますわ」
そう言われて、スケジュールを思い返す。
お店の開店前に2時間、閉店後に3時間、合計1日5時間。いや、結構ある方では?
そう思いはするが、母としては足りない様だ。
これは、私の頭がそれだけ悪いと思われているのか、それとも教えたいことがそれだけあるという事なのか。後者だと思いたい所ではある。
「わからない所はすぐに聞く様に。良いですわね?」
「は、はい」
そうして、私と母の勉強の日々が始まった。
ーーー
「……」
空って青いんだな~なんで青いんだろう~
それは、太陽との距離が近いから、光の波長が短く届いているのね~
なんて空を見ながら現実逃避をする。
母との勉強会が始まって、数日が経過した。
母親の授業は何というか、スパルタなのだ……
勿論優しいし、わからない所を聞けばすぐにわかりやすく教えてくれる。
だからこそ、期待を裏切りたくない。
けれど、気を抜いたら置いて行かれそうなのだ。
因みに今の時刻は真昼間。母親はお店の時間で、私は休憩及び自習の時間だ。
今のうちに色々と復習をすべきなのだろうか、少しばかり休憩をしても罰は当たらないだろう。
ぐーっと背伸びをする。
それから、自分の両手を器に見立てて構える。
「″水よ器を満たせ″」
私がそう呟けば、私の両手にはコポコポと音を立てて水が湧いてくる。
これは、フレドに以前見せた水の魔法である。
あの日と違うのは、その水の量が多い事と、以前よりも水が冷たい事である。
なんとなくで魔法を使っていた状態から、詠唱を使用する事でよりまともな魔法を使える状態へと進化したのだ。
両手に湧いた水をゴクゴクと飲む。
うん、湧き水のような美味しさである。
とはいえ、自分の両手にしか出せないし、出せる量もコップ1杯を満たせない量だから、まだまだではある。
私は立ち上がり、もう一度背伸びをした。
そうして、自習をするため自分の部屋へと戻ったのだった。
ーーー
やはり一番心惹かれるのは、魔法の勉強だ。
前世では空想の話として語られていた現象が目の前にあり、自分で使えるのだ。それはもう、ロマンでしか無いだろう。
私は、母親から大量に渡された本のうち1つを開く。
貰ったばかりでは解らない事だらけだった本も、今ではなんとか読める部分が増えた。
「あった」
その中で私がずっと気になっていた、とある魔法。
「聖魔法について……」
母親は一向に教えてくれる気配がなく、聞いても流されてしまう。
そのため、フレドから教えてもらった知識と、ゲーム内で語られた事しか知らない。
それ以外の魔法については、聞けば教えてくれたのにだ。
《魔法使いへ祝福を》の主人公が使っていたこと、《選ばれた人間しか使えない》という事から推測するに、チート的な魔法なのだと推測をする。
「《聖魔法》は、他人の魔力を使用できる」
これは、ゲームのワンシーンでも言われていた事だ。
だからこそ他人を直接、内側から癒すのだと言われていた記憶だ。
「他人の魔力を使用できるため、他人を直接、」
「サラさん」
目の前の本が一瞬にして消える。
見上げれば、そこには母が立っていた。
「聖魔法については、まだ駄目です」
いつもこうだ。何故ダメなのか、一切教えてくれない。
『まだ駄目』『まだ早い』そんな言葉ばかり並べられる。
「聖魔法について、知るのがそんなにダメなの?」
思わずそう返した言葉は、思ったよりトゲトゲしくて、自分で驚いてしまう。
しかし、出た言葉を引っ込める事はできない。
「……」
母は何も言わず、本を両手で抱きかかえている。
他の本ではのっていなかった、母親の抱える本にのみ、聖魔法について記載がされていたのだ。
だからこそ、その本を奪われては、こちらもこれ以上知る術がない。
「もういい」
いつもなら、許せたけれども、だんまりを決め込む母親に苛立ちが消えない。
私は、家を飛び出した。




