第5話
「おはよう、サラ」
「……おはようございます」
フレドは少しの間、居座る事になったらしい。
可笑しいな?この人、次期王だよね?こんな所に居て、大丈夫なのか?
そう思いもしたが、母がフレドに帰る様に言う素振りが無いため、とりあえずは大丈夫なのかもしれない。
「そういえば、サラに勉強を教える事になったんだ。とは言っても、ここに居る数日の間だけだけど」
母は店番に行ってしまい、フレドと2人で朝ごはんを食べている時に、そう告げられた。
手に持っていたパンを落としそうになったが、なんとか耐えた。
「べ、勉強……ですか……?」
一応聞き返してみた。聞き間違いの可能性がまだあると信じて。
「そう、勉強」
しかし、現実は無情。聞き間違えでは無かった様だ。
勉強は別に嫌と言うわけでは無い。なんなら、前世の記憶がある分、10歳にしては学があると思っている。
だけど、この人、次期王ぞ?
なんて人に勉強を教わろうとしているのだ、私、サラ・アルツナイよ。
「もしかして、勉強嫌だったりする?」
フレドは何も返さなくなった私を見つめながら、そう尋ねる。
さすが乙女ゲームの攻略キャラ。少し歳を重ねても、顔が良い。眩しい。
「いえ、そういうわけでは……」
慌ててそう返せば、フレドは安心した様に笑みを浮かべた。
ーーー
この世界、地方になれば勉強を子どもに受けさせる習慣も当然のように薄くなっていく。
というか、基本的にはお金持ちの貴族しか、学校に行かないのだ。
私はというと、最低限のことだけ母から習っていた。
それは、おつかいに1人で行っても問題ないとか、この町で生きていくのにあれば良い知識、そんなレベルだ。
実際には前世の記憶を取り戻した事により、もう少し出来るようにはなったが、それは前世と共通の学問に限定した話になる。
特に、魔法についてはわからない事が多い。
「サラは魔法が使えるんだね」
フレドは私の手のひらにある、少量の水を見てそう言った。
魔法は使えるの?その質問に答えた結果が、この水だ。
「少しだけですけれども」
「少しだとしても、魔法が使えるのは凄い事だよ」
フレドは拍手をして褒めてくれる。
そう言われると、誇らしげに思ったりするが、実際には本当に少ししか使えなくて、母の手伝いをするにはまだまだ及ばないのだ。
「魔法については、ソフィから何か教わった?」
フレドは小さな黒板に何かを書きながら、私に問う。
「魔法は、自分の内側から出すものであり、自分のために使うもの。他人をどうこうする為のものではない」
母から教わった時の事を思い出しながら、私は答える。
その答えに満足したのか、フレドはまたもや拍手をしてくれた。
「その通り、これを見てごらん」
先ほど何かを書いていた黒板を私に見せてくれる。
黒板には、2人の人間らしき絵が描かれており、片方からもう片方へ矢印が伸びていた。
ただし、その矢印の上には、大きく×が描かれている。
「魔法は自分の中にある《魔力》が、具現化して体外に出ていると考えられていて、出す時にどんな形になるかが、様々なんだ」
「さっきサラが見せてくれた魔法だと、体内の魔力を水として体外に出していたという感じだね」
言われてからその原理に納得する。
つまり、魔法が使えない人は、そもそも魔力がないか、外に出す力がないか、そのどちらかなのかも知れない。
ゲーム内では、このあたりについて詳細に語られることも無かったために、とても勉強になる。
「……ただね、1つだけ、この理を無視できる魔法があるんだ」
フレドがそう静かに切り出す。
「それは、この国では《聖魔法》と呼ばれている、選ばれた人間しか使えない魔法だよ」
聖魔法。
それは、ゲーム《魔法使いへ祝福を》の主人公、ミア・エルドラードが得意として使っており、作中では彼女しか使えなかった魔法だ。
『聖魔法を使っては駄目だから』
ふと、頭の中で誰かがそう囁いた気がした。




