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第16話

愛しの娘へ


お手紙ありがとうございます。

無事に、学園に着いた様で、とても安心しました。


部屋は寮の屋根裏になったんですね。

普通の部屋とは違って、秘密基地の様な特別感があり、お母さんの好きな場所のひとつです。


貴女が寂しくなる前に、一緒に過ごす友人と出会える事を祈っています。

それでも、寂しくなったら、いつでも遠慮なくお母さんに教えてくださいね。


ーーー


「私、マリア・ベアトリーチェ」


乙女ゲームの主人公である《ミア・エルドラード》にそっくりな少女は、そう名乗った。

「よろしく」と言わんばかりに片手を差し出して。


「サ、サラ・アルツナイです」


前世の日本人の血なのか、元悪役令嬢の母の教育の賜なのか、反射的に自己紹介を返す。

もちろん、差し出された片手も握り返してだ。


「サラ、よろしく」


ミア改め、マリアはニコッと元気に笑ってそう返した。


申し訳ないが、こちらとしてはよろしくしたくない気持ちが少し……いや、かなりある。


だって、乙女ゲーム本編から何年も経ったはずなのに、当時と変わらぬ容姿で目の前にいるのはちょっとした恐怖でしかない。

それに、名前は違うが、もしも《ミア・エルドラード》本人だとしたら、彼女の周りでは様々な事が起きるだろう。


そうしたら、私の平穏な学園生活は終わってしまう!


なので、出来るだけマリアとは関わらず、学園生活を送る方針で行こう。

そう私が決意したタイミングで、学園の鐘が鳴り響く。


カーン、カーン、カーン


そして、鐘が終わったタイミングで教室のドアが開く。


「静かに」


そう言って入って来たのは、怖そうな雰囲気の、眼鏡をかけた男性だった。

このタイミングで入ってきたという事は、おそらく担任の先生なのだろう。


教師は生徒たちをチラッと見たのち、黒板にカッカッカッと文字を書いた。


「メレンダ・チャンベッラ」


そして、黒板に書いた文字を読み上げた。

いや、正しくは名乗った、なのだが……。


メレンダ・チャンベッラ

乙女ゲーム《魔法使いに祝福を》の主人公のクラス担任であり、彼も攻略キャラクターの1人である。

背が高く、眉間には常に皺があるせいか、威圧的な雰囲気を出している。

その上、言葉数も少ないため、他の生徒から怯えられている描写が、ゲーム内では度々見受けられた。

ちなみに余談だが、彼が眉間に皺を作っているのは、眼鏡の度が合っていないからだ。



メレンダは黒板に書いていた自分の名前を消したのち、カッカッカッと新たに文字を書き始めた。

時間と共に書かれたそれは、本日のスケジュールの様だった。


この後すぐに入学式があり、その後学園の設備や校則についての説明……と、本日は説明ばかりで、授業は明日からの様だ。

まぁ、初日から授業がある方が珍しい気はするが……。



「サラ、楽しみだね」


マリアはメレンダの書いたスケジュールを見て、ニッコニコと言葉通り楽しそうにしている。


「はは、そうですね」


関わりたくは無いとはいえ、わざわざ話しかけられたのを無視するほどの度胸は無いので、そう返事する。


明日になれば、席は指定された場所になるから、そしたら離れられるはず。今日1日の辛抱だ。


マリアには申し訳ないが、私は心の中でそう思った。


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