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後編第一章 リアム 2(エームル視点)

魔獣キャンベルの事件から数日後、わたしは久々に街に出かけていた。リアムに会うためです。一度いつもの待ち合わせ場所に行ったがさすがにリアムはいない。そこから中央騎士団本部に直行した。本部に行ってもリアムはいない。今日は非番らしい。でも、待ち合わせ場所にいなかった。まあ、あのような出来事の後に非番な時は一人になりたい気持ちは分かる。でも、この非番の日までリアムは傷を負いながらずっと働いていた。だから、心配なんです。リアムは本当に大丈夫かと。ここは一つ、リアムと仲が良かった同僚にリアムが行きそうな場所を聞いてみよう。


「あの、キリアンさんならいらっしゃいますか?」

「いいえ、あいつこそここ最近ずっと騎士を休んでいるんです。カロル道場の方に当主が決まったので立て直しのために忙しいようです」

「そう...ですか。では、どなたがリアムさん行きそうな場所を知っている方はおりませんか?」

「あいつが行きそうな場所か...一つには絞られないな...あいつは非番の時でもずっと街をふらふらしては市民の手伝いをしています。中央街でも下町でも行ってるんですからね...たしか貴族街でも変装して行っていたことも...とにかくまあ本当に仕事好きなやつですよ」

「仕事が、好き...」


どういうことでしょう。わたしと過ごした日はリアムの非番の日のはず。その時はほぼ一日中を使って遊んでいた。そしてリアムは楽しい場所をとても詳しくいつも仕事するような人に見えなかった。

もしかして、ライムがわたしといるのって...

と考えるうちに巡回から帰ってきた騎士さんやってきてわたしを見ては同僚に訳を聞いた。


「ただいま。玄関の前で立ち話ってどうした?」

「ああ、お疲れさん。ちょっとリアムに客でな。お前今日あいつを見なかった?」

「リアム?ああ、さっき見たな。なんか女の人と話していた」

「女の...人?」

「あ、やべぇ...」


わたしを見ると巡回から帰ってきた騎士さんの顔がバツが悪そうになった。


「詳しくお聞かせても?」

「あ、ああ。なんか昔の知り合いのようで今日わざわざ休みを取ったらしい...のです、はい。」

「へえー。それで、二人はどこへ?」

「外に出てしま、いました。はい。釣り道具をもってい、きましたので多分東門の少し先にある川に行った、と思います。はい」

「そう。聞かせていただいてありがとうございました」


リアムの居場所が分かったのでわたしはすぐに立ち去った。後ろに「怖っ...ごめんリアム。骨は後で拾っておくぜ」などと声が聞こえたが意味が分からないのでそのままスルーした。

しかし、壁の外か。立場上、街にはともかく壁の外にはさすがに勝手に出るのはいけないこと。しかし、やはりリアムのことが気になる。思い立ったことですぐに東門に向かった。その時に、後ろから手が掴まれた。


「だ、誰!?」

「大人しくしてついてくるんだ」


声から男だと判断できたがフッドを深く被っていて顔を見れなかった。完全に怪しい人。もしかして人さらい!?そう思った瞬間、前にリアムから教わった怪しい人から逃げるための術を実行した。


「きゃああああ!!痴漢ですうう!誰か助けて!!!」

「え!?嘘!?こんな真昼間に!?騎士さんんん!!」

「騎士を呼ぶまでもねえ!!テメエ変態野郎!!そのお嬢ちゃんを離しやがれ!!」

「な!?何を言って...!?違っ...!」


怪しい男も突然のことに戸惑い握った手の力が弱くなった。その機を逃さず彼の手を振り払って人込みに逃げた。怪しい男も追うとしたが街の人たちに足止めされていた。わたしは最初の予定通りに東門に向かった。自体が急変したので門番の騎士に正体を明かし馬を借りて速くリアムがいるという川に駆けた。東の“隣領”へ訪問の時に通ったのを覚えたので目指す場所は知っていた。川に着くと、リアムは何喰わない顔で釣りをしていた。彼もわたしの存在に気付いたか、振り向きもせずに声をかけた。


「やれやれ、街はともかく壁の外まで駆け出しは関心できませんな。ご令嬢の方」

「リアム...あなたは、わたしのことを知っていましたのね」

「ええ。男爵家のご令嬢、エイミちゃんでしょう。酷いな。何度か一緒に出掛けたじゃないですか」

「そうじゃない!そうじゃないの...」

「...承知しました。今までのご無礼をお詫び申し上げます。エームル王太子妃殿下」


そういってはリアムは膝を曲げて騎士の礼を取った。やはり、リアムは最初からわたしの正体を気づいていた。


「しかし、先ほど申しました通り壁の外は危険です。すぐに王都にお戻りください」

「...今はできませんわ。街に怪しいフッドの男に襲われかけたの」

「怪しい...フッドの男、ですか?」

「ええ。リアムは教えた通りに振り払ったのですが、今街に戻ると、多分また...」

「そうですか...それは申し訳ないことをしまいしたね」

「え...?」


リアムがそういうと馬の駆け足の音が聞こえた。それに乗っていたのは、街でわたしを襲ったフッドの男でした。わたしは怖くなりリアムの後ろに隠れたが、リアムは膝を曲げたままフッドの男に頭を下げていた。


「こんな場所までのご足労お疲れ様です。王子殿下」

「え...?」

「僕のことも、気づいていたのか...」


フッドの男、そのフッドを取って王子、パトリック様の顔が表れた。


「なんで、パトリック様が...?」

「......」

「まあ、二人とも急いでこちらに参ったご様子、ささやかな物ですがこちらのシートに腰を掛けて休んでください」


リアムは自分の荷物箱からシートを取り出し、座りやすい場所で引いてくれた。わたしはまだ戸惑っていたが、パトリック様は言われた通りに座った。わたしもパトリック様に続いて座った。それで、身体の緊張が解けたかお腹の虫が鳴った。恥ずかしくなり顔をうつむいたそのとき、パトリック様がわたしをかばった。


「すまないリアム。思った以上に疲れたようでお腹がすいたのだ」

「もうすぐお昼の時間ですからね。元々釣った魚を焼いて食べるつもりでしたのでろくに調理もされてませんが、よろしかったら食べてください。調味料は塩しかありませんが」

「いただこう。王国の外だし、この際無礼講にしよう」

「ありがたいです。実は食品もなく串刺し魚になります」


リアムは十分に焼けた串刺し魚をわたしとパトリック様にそれぞれ渡した。わたしは街で売られている串刺し魚を食べたことはありますがパトリック様はどう見ても初めてのようで、彼を手伝おうとするとなぜかパトリック様が一瞬ビクッとした。


「す、すまないエームル。何でもないから...」

「パトリック様...?」

「お許してあげてください。王太子妃殿下。街での出来事で男は誰でもトラウマになりますから」

「街で...ああ!も、申し訳ありません!パトリック様とは知らずに...!」

「いや、いいんだ。僕もちょっと乱暴だった...しかし、本当に僕のことを気づいていたのだなリアム。いつからだ?」


そうだった。リアムは分かっていたんだ。わたしの正体、そして、どうやらなぜパトリック様がいることの理由も知っているようだった。わたしも、食事の手を止め、リアムの話に集中した。


「ええ。最初からです」

「それは...わたしと初めて会った時から、なのですか?」

「はい。もちろん、エームル様のご尊顔を拝見できたのはあの時が初めてですが、護衛の存在で気づきました」

「護衛...?」

「僕が答えよう。君が街に駆け出ししていた時には実は必ず近衛騎士から護衛を頼んだのだ。君は秘密にしたいから、僕も護衛をつけさせたのを黙っていた」

「その途中で王子殿下自ら加わったことが流石に肝を冷やしたのでしたよ」

「うーむ...しかし、よく気づいたな。僕は目線など感じなかったが...」

「気配で分かりました。人は誰でも独特な気を持っているので王子殿下が街に視察する度殿下の気を覚えてきましたのです。何かある時にすぐに動けるためでしたがね」

「そうか...やはり僕のしたことが余計なお世話だったのか...すまなかったな、エームル」

「い、いいえ。そんなことは...」


知らなかった。殿下はいつも自分の役目に誠実で、私情で動くような人ではなかった。そう思った。わたしの護衛なら、そのまま近衛騎士たちに任せればいいはずの、なぜ殿下が自ら来たのでしょう。まさか、わたしのことが心配で...

わたしが不思議そうに殿下のことを考えると、リアムは話を続けていた。


「そんなことはありません。殿下がいたからこそエームル様は無事で街で過ごせたでしょう」

「それはどういう...」

「そろそろですかな。王子殿下、申し訳ありませんがそのローブを外してこれを少しの間被っていただけませんか?」


そう言って彼が取り出したのは長い黒髪のウィッグであった。


「どういうつもりだ。リアム?」

「不敬なことは承知しています。しかし、必要なことです。理由は、話すより見てもらう方が良いかと」

「それだけの理由があるということか...いいだろう。一度は君に救われた命だ。今回だけだぞ」

「ありがとうございます」

「ええと...これはわたしも何か被る方が良いのでしょうか?」

「いいえ。エームル様はそのままで」

「わ、分かりました」


リアムに言われてパトリック様はウィッグをかぶり、そのまま暫く食べながら待っていた。そして、リアムが言う理由は来たのだった。


「やはりここにいたか。エームル様。王子殿下は...一緒にいないようだな」

「貴方たちは...近衛騎士の...」


おそらくは殿下が言っていたわたしの護衛に回した近衛騎士たちだ。何人か確かに見覚えの顔が見れた。しかし、なんだろ。雰囲気がおかしい。彼らのわたしの見る目、護衛対象というよりまるで、征伐対象の見る目だった。

そう思うと怖くなり身体も震え始めた。そんな中、リアムはわたしと近衛騎士の間に立った。


「これは近衛騎士の皆様。こんな所までご苦労様です。して、エームル様とは誰の事でしょう?こちらにいらっしゃるのは男爵令嬢のエイミ様で、その友達の――」

「白々しいのは辞めるんだな。その長い黒髪の女は知らんが、その隣にいるのは確かにエームル様だ」

「なるほど。つまりはエイミというのは偽名でしたね。しかし、エームル様と言ったらかの王子殿下の婚約者殿ですね。もしやあなたたちは護衛の方々ですか?その割には...ずっと胸糞悪い殺意を向けてきやがるんだな」


リアムが最後の口調を崩し彼らの雰囲気の正体を暴いた。そして今度こそ彼らは丸出しの敵意を持って、剣を抜いた。


「殿下がまだ来ていないならちょうどいい。エームル様と目撃者のあなたたちをもろともここで始末する。エームル様とたまたま一緒にいる己の運を憎むがいい」


近衛騎士たちはこちらに歩き始めた。それを見てパトリック様も動こうとしたが、リアムはそれを制した。

彼は数がはるかに多い敵対する近衛騎士たちに怯まず、余裕ある声で話した。


「最後にいいか?なぜ近衛騎士が守る対象であるエームル様を?」

「平民である貴様には分かるまい。そいつに、そいつの家にこれ以上の権力を持てさせては困るのだよ」

「そうか...ならば俺は中央騎士の本分に従い彼女たちを守り、悪党(おまえたち)を征伐してもいいんだな」


そう言ったリアムは今までの感じたことない殺意、殺気を放った。周りの小動物が逃げ、鳥たちが勢いで飛んで行き、わたしとパトリック様はその場で張り付いていた。それでもわたしたちにはその殺気を直接さらわれてはいなかった。そう、直接触られていたならばあの近衛騎士たちのように一気に顔が真っ青になり、冷や汗を流し、身体全体が震えることになるでしょう。それだけリアムから感じた恐怖はすさまじかった。リアムは止まっていた近衛騎士の代わりにゆっくりと彼らの方に歩いた。


「どうした?主の伴侶に手に掛けるまでのその実家のための剣は、この程度の脅威で止まるものか?お前たちの覚悟はその程度か?」

「あぁ...アァ...」

「見逃したいもらいたいか?」

「アアアァァァァァ!!」


近衛騎士たちはその恐怖に耐えられず、剣を捨て頭をひれ伏せた。わたしもパトリック様は未だに行動を取れずにいた。リアムは完全にこの場を支配していた。今この場で言葉を発せるのは彼だけだった。


「そうやって、抗う力もなくそれでも奪ってきた命はどれぐらいいる?」

「ウゥウ...あぁあ...」

「もし少しでもその罪に悔いているなら、腹を斬れ」


リアムは近衛騎士たちに残酷な判定を下した。自分で腹を切る。そんなことライアン王国の刑ではない。執行人もなく自分で自分の命を取る。毒を飲ませるよりずっと怖いでしょう。だけど、彼らには選択肢はなかった。そう思った。だから彼らは全員リアムの言葉に従い、震えるながらも、その剣で自分に刃を向けて腹に刺した。わたしはその行動にとても驚いていた。パトリック様も同じか目をずっと見開いていた。そしてリアムは痛みに苦しんでいる近衛騎士たちにさらに声をかけた。


「その痛みが今までお前たちが剣を向けた人たちが感じた痛み。その苦しみが今まで痛めた人数だけの苦しみと同じだと思うなら頭を上げるがいい。すぐに楽にしてやる」

「...それはっ...いいなっ」


近衛の誰かは言ったが、誰も頭を上げる人はなかった。彼らは続いて剣を自分の腹に刺したまま、さらに切り裂くように刃を動かした。まるで今の痛みでは今まで自分が痛めた人の分までには足りないと言っているように。そんな彼らに対してリアムは、


「見事」


その一言と共に自分の剣を素早く鞘から抜き一振りで近衛騎士全員の首を落とした。同時にあの怖い気配を消し、わたしたちにいつもの人っ子がいい笑顔を見せてくれた。わたしはそれを見て気づいてしまった。リアムはやはりわたしと、わたしたちとは生きる世界が違うと。

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