後編第一章 リアム 3(パトリック視点)
自分はやはり間抜けだ。そう、エームルの護衛を任せた近衛騎士たちの正体に見せつけられた時にそう思った。エームルの護衛の選抜の時には、僕も一枚かんでいた。出身の家柄、履歴、実力などを基に信頼における者たちを選んだつもりでいた。
しかし、現実はどうだ。彼らはエームルの命をずっと狙っていた。護衛の地位を利用して機を伺っていたと見えた。そして、エームルは感情に任せて壁の外まで出かけたのだった。これほどの好機はないだろ。リアム、そして女性に化けた僕がいるにも関わらずその剣を取った。全員諸共殺すつもりで。
悔しかった。彼らに僕の正体を明けて文句一つ言おうとしたがリアムに止められた。代わりに、リアムが彼らを征伐した。こちらに向けていなかったから見えないがおそらくただの目力で圧倒的な武力、或いは暴力をその騎士たちに向けさせた。彼の背中に守られてその目を直接見ていない僕らにでもリアムの凄まじい殺気を感じれた。リアムは恐怖で彼ら、この場を支配した。そして、主の命を奪おうとした近衛騎士たちに刑を下し裁いた。すべてが独自に。その様は正しく支配者のようだった。
ところが、それを終わった後にリアムは何事なかったように、僕たちにいつもの笑顔を向けた。不思議と不気味などとも感じずに僕は冷静だった。
「お前が見せたかったものは近衛騎士たちの裏切りか?それとも...」
「どちらも、ですかね」
「お前は、確かに力を持っている。今回の件でお前はこの場を支配した。だけど...」
「やり方は正しくない」
「...ああ。その通りだ。制圧できたら命を取る必要はなかったはずだ。甘いなどと言われるかもしれないが、法で裁きその後ろにいる者を聞き出すべきだった」
「でしたら、ここで自分を捕まえすか?王子殿下なら、抵抗はしません」
リアムはまっすぐな目で僕を見ていた。本気だろうと思った。僕はリアムの問いに答えた。
「捕まえは、しない。今回でもお前に助かった。婚約者の命を守ってることを感謝する。ありがとう」
僕はリアムに頭を下げた。そうだ。今は何よりもリアムには感謝している。僕にも気づかなかった護衛の思惑、リアムはエームルと最初の出会いから気づき誰も知らずに彼女を守っていた。正体を知らないふりして不敬罪を被らせる可能性もあるというのに。それでも彼はエームルが楽しく街を回れるように、彼女を守ってきた。だから、感謝しなければならない。それが正しいと思ったからだ。
僕が頭を上げると目を見開いたリアムの姿が見えた。そして、彼は跪きながら言った。
「いいえ。感謝を申し上げたいのは自分です。本当に、ありがとうございます。パトリック王子殿下。あなたの言葉で目が覚めました。どうかこれからも、我らを正しい道へ導いてください」
一瞬戸惑ったのだが、リアムは騎士として僕を主として認めたように感じた。だったら。答えは一つしかない。
「ああ。必ずこのライアン王国を直して見せる。正しい人々が正しく生きれるように。罪を起こさずとも大切な人たちを守れる国になれるように。だから、力を貸してくれ、リアム」
「ははっ!」
リアムの力強い返事を聞いて僕も安心した。
それで、最初の問題に戻るが、近衛騎士たちをどうしよう。そう思った時、女の声が聞こえた。
「お待たせ~。いやごめんね~。さっき美味しそうな兎が-—て、何ですかコレー!?え、何、死体!?事件!?」
「落ち着け。近衛騎士が腹切りショーやっていたのを介錯しただけだ」
「へー。東洋風の腹切りショーですか。なるほどって納得できますか!?近衛騎士が腹切りって何!?私の同僚じゃないですか!?というかあれ!?王太子殿下に婚約者殿!?なんでこんなところに!?」
「質問多いな」
「文句言わないで答えてくださいよ」
「王太子妃殿下が来た。それに追いかけて王太子殿下も来た。近衛騎士もさらにそのあと来たが王太子妃の命を狙った。俺が脅かして腹を切れさせた。以上」
「何一つ情報を伝えてきませんが、ただ可愛い兎が逃げたのはリアムのせいだとわかりました」
「最初に美味しそうって言わなかったかお前」
「可愛くて美味しそう」
彼女は、なぜか服がラフな格好なのに頭には近衛騎士の兜をかぶっている女性はリアムと親しく話した。でもその声、僕は確かにどこかで聞いたことがある。ただ、兜のせいか、声質が少し低くなって判定できなかった。
「それよりお前、先にやらなきゃならないことあるだろ」
「はっ、忘れました!王太子殿下に王太子妃殿下に挨拶を申し上げます!遅くなってすみませんでした!」
「いや、いい」
「ちょうどよかった。お前、殿下たちを王都までに送って行け。俺は片づけてから戻る」
「...分かりましたよ。少々こちらで待っていてください。殿下。馬車を準備してきます」
リアムは彼女にそう言ったが、片づけてとはどう言う意味だろう。僕の疑問に感じたか、リアムは死体を見ながら言った。
「彼らを土に返す。自分が脅して死なせたんだ。どんな背景があるか分らんが、死体には何も罪もない。せめてものの弔いだ」
そう言っていた時のリアムの顔は刹那そうに見えた。それを見て何か思ったのか、エームルはリアムに質問した。
「リアム。一ついいかな。貴方は、なぜ戦うのですか?なぜ、剣を振るうのですか?」
かつてはリアムの父、”騎士の剣“アレックスの副官、フィンがリアムに同じ質問をした。あの時リアムは実に騎士らしい答えを出した。いや、少し違う。確か彼は、
「前にあなたは国のため、暮らしている民を守るためと言いました。そして、こうも言いました。相手が誰であろうと。それは、法が守っている貴族でも、ですか?法で裁けず、民を苦しめる貴族にも、貴方は剣を向けるのですか?わたしたちにも...民を守れなかった。民から裁かれるのも、正しい、でしょうか...」
エームルは震えながら言葉を発した。怖かったのだろう。憧れていた人が、自分の命を狙うかもしれないと。そしてあそこには、正しい理由があれば尚更、彼を憎むこともできない。リアムはそんな彼女の決心の質問に、誠実に答えるためか敬語を使わずに、自分の剣を見ながら本心で応えた。
「正しいことをやりたかったわけじゃない。守りたいものがあった。だから俺は、俺たちは剣を取った。もっと強くなって今度こそ守る。そう誓い合ったんだ。おそらく父もそう思っただろう。だけど、あんなことになって心が揺らいだ。それをごまかすために仕事に没頭した。だけど今は...」
今度は彼は剣を収め、僕たちに笑顔で言った。
「俺は正しい人々が正しく生きられるように守りたい。貴方たちが正しく民を導いてできるように絶対に守る。王太子殿下のおかげで決心ができました。本当に、感謝しています」
最後にまた敬語に戻ったが、その気持ちは本当なのだと感じた、エームルも同じくか、または自分では少し違う想いがあるからか、少し涙目になって、それでも笑顔を見せようと、端から見たら複雑な表情をしながら言った。
「そうか。うん。そうよね。リアムはそういう人だった。ありがとう、リアム」
「礼には及びません。それが自分の役目ですから」
二人のやり取りにはただの主君と騎士の会話ではなく、今まで一緒に過ごしていた仲としての礼もあるだろう。そして、別れでもあった。リアムは、エームルがどう想うと自分が騎士であることを曲げなかった。それがエームルが感じたことだろう。エームルの涙を見るのがつらいが、同時にエームルが僕の所に戻ってくるのに嬉しさもあった。だから、今の二人の掛け合いを許すと思った。ここは王都ではないしな。
暫くして、女性の近衛騎士は馬車と共に戻ってきた。僕とエームルは馬車に乗り込んで近衛騎士と一緒に王都に先に戻ることした。出発直前に近衛騎士はリアムと話したようだったが、馬車の中からはかすかな声しか聞こえなかった。
「では、先に帰りますね。結局引き上げいたやつを釣れませんでしたね」
「まあな。あいつならどこかで引っかかって伸びてるだろうよ。そしていつの間にかまた立ち上がるだろう」
「そうね...貴方も、まだ立ち上がれますか?」
「...ああ。心配をかけたな。俺も大丈夫だ。まだ頑張れる」
「うん。できれば私の愚痴を聞くのにもっと頑張ってほしいんですけど...」
「さあて。さっさと片づけますか!」
「あ、誤魔化しましたわね。次はちゃんと聞いてもらいますからね」




