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前編第終章 再会する三人 4(パトリック視点)

まず驚かせたのは女性の声が聞こえた時だった。




「コンラン!ローカン!リアム!今すぐ戦いをやめて!下から危ないのが来る!」




その声の元に目を見ると近衛騎士の一人がこちらに走ってくるの一瞬に見えたが、その瞬間に視界が揺れた。気づいたときに僕たちはコンランとローカンに庇ってもらっていた。下から這い上がる何かの衝撃波から。体が地面に突撃し痛みで目をつぶった。


また目を開けたときには周りにがれきが出来てその下にコンランとローカンが倒れていた。




「コンラン!」


「ローカン!」




クイーン公女とロシェーン嬢はすぐに二人の傍にかけて、クイーン公女は二人に癒しの力を掛けた。が、すぐにそれが邪魔された。巨大な触手のようなものが暴れていた。




「なんだ...これは!?」




噴水のある、いや、あった場所に大きなナニかがいた。それは見たこともない生き物。巨大な体で、ぬるっとした触手が何本もあり、そしてその頭はヒトの頭をしている。




「グック...クックック...ケーケケケケケ!アア、最高ゥ!今ワタシハ本当ゥノ本ッッッ当ゥニはいナ気分ナノダァァァ!ヤハリ魔獣ゥハ良イッ!自分デナレルナンテナンテ至高ダッ!」


「キャンベル侯爵...」


「オヤ?オヤオヤオヤオヤ...コレハコレハ王子殿下ァ。コンナ所デドウシテイルノデスカァ?マア...ソレハ今ヤドウデモ良イガ。ソウダ。人間ノ国ナドモウドウデモ良イノダ。コレカラハ魔獣ガ世界を支配スルノダッ!!」




そう言いながら、キャンベル侯爵、いや、もはや侯爵どころか人間すらではないアレはまた暴れだした。無数の触手はあっちこっちの建物や床を壊し、その瓦礫も飛んでいた。とても危険な状況と分かってエームル達をとにかく避難させるのに必死だった。クイーン公女とロシェーン嬢はコンランとローカンの所に行きたがっているがそれは無理だった。二人も衝撃波でどこかに飛ばされた。今はとりあえず自分の身の安全だとそれだけ考えていた。その時にエームルもまた別の方向に目を向けていた。




「リアム...リアム!リアムが、刺された!!リアム!!!!」


「落ち着けエームル!あれは...イーアン・ケインをかばっていたのか...!?ここでは何もできないッ...おいイーアン・ケイン!リアムを、あの人を連れて逃げろ!」


「イーアン!!」




イーアン・ケインがいた場所にリアムが彼をかばって尖った小さい瓦礫に腹が刺された。それで気絶していたのか彼は動かなかった。イーアン・ケインも状況を処理できず恐怖でただ怯えていた。そして無情にも触手の一本が彼らのある所に降りかかるとした。絶望を感じたその時、間一髪にリアム達を助けた者いた。




「あっぶねぇ」


「キリアンさん!」




どうやらリアムの同僚の中央騎士だったようだ。それに続いて他の騎士もやってきた。




「王子!ご無事ですか!?」


「よくぞ来てくれた!とにかく彼女たちを安全な場所へ!そして周囲の人たちの避難を!」


「はっ!お嬢様方は保護します!それと、周囲の事は安心してください。もうこの辺りに人が来させないように道の封鎖が完了いたしました」


「仕事が早いな...」


「それが、実は我々の所に一人の近衛騎士が来て状況を教えてもらったのです。まあ、ともかく残るのはこのクソ野郎だけです。おっと、王子の前で失礼しました」


「かまわないさ。今目の前のモノはもう人ではない」




遅れて今まで剣の道化師を探索していた近衛騎士もやってきた。彼らも最初は驚いたが、そうも言ってられないだからすぐに指示を出して二つの騎士団で陣を立ててキャンベル、いや、魔獣の退治を始まった。


魔獣キャンベルは体部分が動かずに触手で回りを破壊していた。が、その触手は全方向にあって本体を攻撃する隙間がなかった。中央騎士と近衛騎士、二つの騎士団をもってしても手も足も出ず、ただ弄ばれただけだった。




「ムダムダムダッ、ムダだヨォォ!ケッケッケ!マルデ子犬ト遊ンデルヨウダナッ。子犬ゥ...?ソウカ...犬ダ...今度ハオ前タチを飼エバ良イカモナァ!ホラホラホーラァ!ワタシノ手ヲ掴ンデゴランナサイ~!ケーっケッケッケ!」




屈辱だったが僕たちが何もできなかったのは事実だった。それでも奴を放っているわけにはいけなかった。ならばどうする?必死に頭を回しているその時、奴に見切られたのか、魔獣の触手が真上から降りかかった。反応が遅かった。その瞬間に死を覚悟した。




「パトリック様!」




遠くからエームルの声は聞こえて、場違いにも彼女に心配してもらってるのがどこか嬉しいと感じた。それだけでこの世に未練がないとまで思っていた。だけど彼は、彼らは僕をそう簡単に死なせてくれなかった。


覚悟していた死がどれぐらい待っても訪れなかったことに不思議と思い、気づいたらその触手が切られていた。




「だめですよ殿下。そう簡単に諦めては。貴方様には自分たちを正しい道に導く責務があります。そうでしょう?」


「リ...アム」


「おいコラ!無理してんじゃねー!」


「キリアン。殿下。他の人たちを下がらせてください。あとは俺たちがやります」




そう言ってリアムは僕と同僚に有無を言わずに魔獣キャンベルの方向に歩き出した。




「何ィ...?ドウナッテイル...?何ナンダ貴様ハァー!?」


「犬のように俺たちを飼うと言ったか?ふぅ、笑わせてくれる」




魔獣キャンベルは別の触手でリアムに攻撃しようとしたが、最初の衝撃で傷ついたローカンがいつの間にかあそこにたどり着いてその触手を上から貫き地面にたたき落とした。




「次カラ次ヘトッ!コノ犬コロ風情ガァ!」


「犬を格下と思ってる貴様に、そもそも生き物を飼う資格はない。噛まれて当然だ」




今度はまた別の触手をローカンに向けようとしたがなぜかその触手が動かなかった。そしてそこにコンランが劇的に触手の上に降り立った。




「動ケヌッ!コノ奇妙ナ技ァ!貴様ァアノ憎タラシイぴえろカァ!?」


「全くだな。気を付ける方がいいぜタコジジイ。オレたちは行儀よく噛むのができねぇぞ」


「貴様ラァッ!コロシテヤルゥゥ!絶対コロシテヤルゥゥウッ!!!」




三人に邪魔された魔獣キャンベルはその怒りの矛先を彼らに向けた。それを怯えずに三人は魔獣に立ち向かった。その姿は頼もしいとも感じるが、ケガしていた彼らに任せるのは心配の気持ちの方が大きかった。騎士団に援護を指示しようとしたが、中央騎士団の団長殿はそれが必要ないと止められた。




「残念ですが、全力を尽くしても我々はあの怪物を倒すことができませんでした。それなら、もはや後は彼ら達人クラスに任せるしかありません」


「達人クラス...?何だそれは?」


「人間の限界を伸ばしていく人たちです。見れば分かりますよ」




そう言われて、彼らの先ほどの戦いを思い出した。確かにあれは今まで見たことない打ち合いだった。近衛騎士の強い人たちと手合わせしたこともあるが、あの打ち合いはそれをはるかに超えている。そして、いま目の前に三人の魔獣と戦っている様はすさまじいだった。巨大な触手に怯えずそれにまっすぐ向かっていく。時には躱し、時には切り捨てながら三人は止まらずに進んでいく。隙は、いない訳ではなかった。ただ、それが突かされるそうになった時、他の二人がそれを庇った。会話も、合図も、目配せも何もなかった。しかし三人は別々の頭で、まるで一つの体のように連携をとって動いた。昔、どこかの神話で聞いたあの魔獣、それは




「”奈落みつあたま番犬いぬ”...」


「はい。達人クラスの人たちはあんな風に人間離れした技を持ち出すことができます。しかし、それは特別な力ではない。才覚と努力、人間がもともと用いるものを鍛えて鍛えて、鍛え続けて達する領域。間違いなく鍛錬の賜物です。それにたどり着けるかどうか、それは己の限界をどこに置いてあるかということです」


「それで彼らは、その限界を、僕たちとは違う所、ずっと先の所に置いてあるというのか...」

「或いは、限界そのものを考えていないかもしれないですな。武の達人は後先を考えない人ばっかりですから。そう、あの子の父親のように」


団長さんは懐かしむように最後のセリフを言ったが、それを聞く前に目の前の戦いは決着に近づいた。


「何ダァ...何故ダァ...大人シクシロト言ッテイルンダ!何故言ウコト聞カナイ!ヒイィ!ヤメロ...来ルナァァァア!」




自分が手を出そうとするものが子犬ではなく地獄の門を守る猛獣だと気づいたかのようにキャンベルは叫んだ。だけど、猛獣の牙は無情に彼を嚙み千切っていく。




「「「”三頭犬さんとうけん荒噛あらがみ”!!!」」」




三つ頭の牙、三人の剣はそれぞれの技で魔獣キャンベルの触手の先から本体まで千切り、切り捨てながら進んでいきやがて首元までを噛み千切った。こうして魔獣キャンベルが倒された。

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