前編第三章 騎士の剣 5(エームル視点)
「なぜリアムを…?」
わたしほどではないが、同じく衝撃を受けたパトリック様がロシェーンに疑問を言葉にした。
「申し訳ありません。自分には見当もつけません」
「あの、リアムとは誰なんでしょうか?近衛騎士団にそんな名前が…」
「近衛騎士団じゃない。彼は…平民出身の中央街の騎士団所属の騎士だ」
「平民出の騎士ですか!?なぜあんなヤツにローカンが…」
ケイン子爵の言葉に引っかかることがあった気がしたが、それよりわたしは隣に独り言していたクイーン公爵令嬢の方に気にしていた。
「コンランはカロル家の事件に気にかけている…その事件の中心にある人物、ローカンがリアムの名前を出した…そしてあの日にリアムが言葉にした名前は…三人につながりがあった...?ああもう、いったい何に巻き込まれてるのよあのバカコンランは!」
「公爵令嬢...?」
「ああ…失礼しました。考え事していました。リアムに会えと言われましたよね。私がリアムに掛け合いましょうか?」
クイーン公爵令嬢がそう提案した時胸がちくっと傷んだ。
「リアムは私を見つけてくれた騎士の一人で、今までも何度か会ったことがある仲なんです。今から中央街の騎士団の本部に行っても会えると思いますよ。あ、でも行くのは私とロシェーンさんだけにしてくれる方がいいかもしれません」
「それは、どうしてなの?」
まだもやもやの心で少しきつめなトーンでわたしが聞いた。
「…この間、私を攫った犯人をあっさり開放したんですよね。中央街の騎士の皆さんはそれを良く思っていません。議会の人を見ると暴れるしかねない状態なんですよ。もちろん当のリアムもです」
「そ、それは…」
「理由は解った。だが、ロシェーンも別の理由でリアムと会わせるのは危険だ」
「ああ、カロル伯爵がリアムのお父さんを殺したことですか?それは大丈夫です」
彼女の言葉に部屋の中にみんなはまた驚かされた。
「貴女もリアムの、“騎士の剣”と関係を知っていますの?」
「ええ。自分で調べましたし、本人からも聞きましたから」
「!!」
「その時に彼の気持ちも聞きました。リアムは別にカロル家の事を憎んでいません。リアム自身お父さんとの仲があまり良くなかったと言いました。病気がちのお母さんを放置して騎士の仕事に没頭するお父さんは嫌ったらしい。まあ、どこまで本心が分かりませんが現にカロル流剣道の門下の騎士仲間と仲良くしているし憎んでいないのは確かです」
「いや、でも、やっぱり危険だ。ロシェーン一人で行かせるわけには…くそ、王国の騎士に手をかけるなんてどこまで狂ってるんだ」
「子爵さまは…ずいぶんとカロル伯爵を嫌ってるんですね」
「え?いや、だってそうでしょう。自国の騎士を殺したのでしょう。とても沙汰な人ではないと思いますが…」
「そこに全うな理由があったら?だって“騎士の剣”は国を裏切ったのよ」
「え!?」
「もうすぐ5年前でしょうか、彼は東の隣領に巡回に行った議員を手にかけた。まあ、そうすることも仕方ないと私は思いますが」
「5年前…」
最後の彼女のに引っかかったものがあった。パトリック様もそれを感じたか彼女に問うた。
「なぜ、そう思う?」
「あの議員、私を攫ったあの税金取りの子分なんです。主犯を逃しましたがあいつは今もまだ牢の中です。どうやら、5年前でも東の隣領に人を買ったり攫ったりしていましたよ。そんな外道をみて、国民の英雄であった“騎士の剣”は黙って見過ごすと思うのですか?」
頭は真っ白になった。信じたくはなかった。”騎士の剣”は、リアムのお父さんは、罰を受ける人ではなかった。そして、リアム自身も、裏切り者の息子なんて汚名を被る必要はなかった。リアムに追いかかった不幸はすべて貴族たちが、わたしのような人間が原因なんだと。
青ざめたわたしの隣にパトリック様はクイーン公爵令嬢に反論しようとした。
「それでも、自分で動きべきではなかった。ちゃんと証拠を掴んで正式に訴えればよかったはずだ」
「それ間に連れていかれた子供たちはどうするのですか?見殺せと?」
「そうは言っていない!ただ、物には正しい順番というのは…」
「その順番を守って自分だけを守るというのですか?ではキャンベル侯爵は?それも順番のうちですか?何を守るために?」
「国のためだ。あいつをつぶせば我が国の物流が閉ざせてしまう!だから…」
「だから悪を見逃すと?それが王国が考えた正しさというわけですか」
「そんなわけっ!」
二人が口論していた間に、ドアが開いて新たな人が部屋に入ってきた。
「も、申し訳ありません。こちらに病人がいると聞きまして…」
「…そういえばそうですね。熱くなりすぎました。殿下、どうかお許しを」
「いや…僕もすまなかった」
「ロシェーンさんも、妃殿下も失礼しました。では私はこれで」
淑女の礼をした後にクイーン公爵令嬢は退室した。が、最後に彼女は言い残した。
「私は今の王国の在り方は正しいとは思いません。必ず変えて見せます」
彼女の言葉にはとても強い意志を感じた。ただ流れに任せたわたしとは大違いで彼女の強さにうらやましいと思っていた。わたしも、下町に過ごしたらあんなに強くなれるでしょうか。とあり得ないことまで考えてしまった。




