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前編第三章 騎士の剣2(エームル視点)

「何だとコラ!」

「やんのかテメエ!」


ある日の休日、リアムと街を周っているときに街の通りに騒ぎが起こった。


「喧嘩か」

「よくあることなんですか?」

「まあな。良くも悪くもここでは色んな人が集まっている。だからすれ違いもよくあることなんだ」

「そうですか…だったら早く止めないと」

「そうだけど、危ないからエイミちゃんはここで待ってて」


そう言ってリアムは小走りで一人で騒ぎがあるところに向かった。危険だったらかえってわたしも心配になってリアムの後を追いかけた。が、リアムは結局騒ぎの中心に入らなかった。あそこにはすでに騎士の一人がお互いを殴りかかる男二人をそれぞれの拳を両手で止めた。


「両方そこまでだ。これ以上やったら本部に連行するぞ」

「うう…」

「す、すいません…」

「さあ他のみんなも行った行った!通行の邪魔だぞ!」


その騎士の合図に喧嘩した二人が離れてそんな彼らを野次馬していた人たちもわらわらと去っていった。その中から誰かが言った。やっぱりカロル道場の人が怖いなと。

カロル道場。王国に住む古い一家カロル伯爵が経営する剣の道場。昔から武道派として知られている一家ですが、この間その当主が急に狂って自分の娘さんに斬りかかったと聞いた。理由は、推測程度しかないが、自分が病気にかかって何かの黒魔術で治そうとしていてそのために自分の娘の血が必要とかなんとか。推測というより最早作り話に近い噂だと思うが、実は極秘情報で近くの国に魔神教団と名乗る怪しい集団がいる。集団の幹部は人ならざる力を持っていると聞いたがまさにそれは黒魔術と言うに相応しい。そしてその集団のメンバーが隣領もしくはこの王都にももう潜り込んだ話もあった。だから不思議と思った。誰がこの噂を流したのかと。

少し話がずれました。わたし自身はカロル道場の門下に限らず実は武道派の人は苦手。無意識にリアムの後ろに隠れていたが、リアムはその彼に近づいた。


「ご苦労さん。大事な休日が台無しになるところだったわ」

「リアムか…休日にデートかい。呑気な事でうらやましい…!」


目を逸らしながら愚痴を言ったその騎士の目が一瞬鋭くなったと見えたが、リアムはそれに気づかなかったのか、あるいはただわたしの気のせいなのか、リアムは変わらず人当たりのいい口調でその騎士に話した。その時にその騎士の視線はなぜかわたしに向けられたがすぐに呆れたように吐息した。それは誰に対してなのだろうか。当時のわたしはまったくわからなかった。


「日々頑張っている自分の癒しだ。お前も恋人ぐらい作ったらどうだ?」

「はあ…よく言うぜ。それで、その“彼女”さんとやらを俺に紹介してくれるのかい?」

「エイミちゃんだ。覚えてくれてはいいが易々触れるんじゃないぞ」

「言ってろ。俺はキリアンだ。何か困ったときには言ってくれ。市民の平穏を守るのも騎士の務めだ」

「は、はい。ありがとうございます」


急に話が自分に振られて咄嗟に頭を下げた。そして騎士、キリアンはまたリアムに話しかけた。


「んで、わざわざ声をかけて何が目的だ?」

「冷たいな。仕事に頑張っている同僚にお労りの言葉をかけたいだけなのにな。ついでに連れを紹介しようと」

「幸せの見せびらかしかこんにゃろー」

「はは。まあ、この間あんなことも起きたばかりしな…本当に大丈夫か?」

「…俺たちより、お嬢が心配だ。未だに放心状態なんだ。こればかりは幼馴染のケイン子爵に頼るしかねえ」

「ケイン子爵か…確か今回の事件で…」

「ああ。お嬢を助けてそのまま姿をくらましたのがその弟君、俺たちの弟子仲間のローカン・ケインだ」

「助けた…か。お前はどう思う?」

「どうって…まあ、ローカンが師範と戦ったのは事実だと思う。そして、師範がなぜかロシェーンお嬢様を斬りかかったこともな」

「ケイン子爵の弟君はカロル伯爵のご令嬢と恋仲だと聞いているが、そして二人の仲を認めるためにカロル伯爵を倒すのが条件だとも聞いたけどな」

「それは…まあそうだが…リアムお前…」

「…」

「…んとうに、お節介な奴だ。いや、確かお前はあいつと…まあいいや。ローカンが師範を殺害して噂をでっちあげるってのはない。目的はお嬢と結ばれるためなら姿を消す意味はないだろ」

「…そうだな。悪い。探りマネしっちまった」


どうやらリアムはキリアンの様子を心配していた。じゃれあいが終わったらリアムはそれとなくカロル伯爵の事件を彼に問うた。当時は仲間思いな人だなとわたしは呑気に関心していた。


「何より、師範の遺体を見たからな。ハ、馬鹿正直に致命傷がなかったわ」

「なるほどな。やっぱ街道の噂は聞くもんじゃなかったな。しっかし、よく耐えたもんだなお前ら」

「白々しい励ましはいらねーよ。お前のがひどかっただろうが」

「こういうのは…比べてもしょうがないだろう」


リアムの?どういうことでしょう?まさかリアムにも人から裏口させることがるというの?あの優しくて人当たりのいいリアムに?

その事実にとても信じることができなかったわたしは困惑していた。


いつの間にかキリアンが仕事に戻りリアムがわたしの下に戻っていた。


「すまない。待たせたなエイミ…エイミちゃん?」

「は、はい!ごめんなさい。何でしょう?」


呆然としていたら、リアムが急に真面目な顔になった。


「…“騎士の(つるぎ)”」

「え?」

「もし気になるなら、その名前を調べてみてください。あなたはそれを知る必要もあるでしょう」

「リアム…?」

「なんてね。ごめん。何でもないよ。さあ、息抜きを続けよう」


一瞬、わたしが見たことのない顔のリアムが見えたが、またすぐに気が抜けた笑顔になって何事もなかったように中央街を案内してくれた。

だけど、わたしの心にはその顔が染みついていた。その顔は、リアムから見たことはなかったが、それはまるで騎士が主君に向けた顔であった。“騎士の(つるぎ)”。わたしは王宮に戻ったらこれを調べようと決意した。

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