第2章 第31話「荷が金に戻る」
第2章 第31話「荷が金に戻る」
朝食のあと、前に頼んだ荷運び屋へ寄り、今日の仕事を相談した。男が車を用意する間に家へ戻り、納屋から二つの箱を庭へ出す。昨日、ロイと運んだときにはすぐ置けた重さも、一人で抱えると足の運びまで遅くなる。ひと箱ずつ戸口を抜け、敷いておいた板へ下ろすと、ようやく両手が空いた。
今日は、この中の蜂蜜を売る。
最初の店へ持っていくのは、二軒の家で買った分だ。控えと壺の印を合わせ、四個入りの箱を七つ並べたかったが、最後のひと箱には三個しかない。合わせて二十七個、百三十五キロになる。
そこまで書いたところで、庭先から声がした。以前、ハッセの荷を運んでもらった男だった。
「今度は、ずいぶんあるって聞いたが」
「蜂蜜が十四箱と、蜜蝋が十袋です。三軒へ届けたいので、今日は一日お願いします」
昨夜のうちに控えた量と届け先を見せた。男は箱の持ち手を見て、一つを俺と持ち上げ、手押し車へ載せる。
「これは、一度に欲張らん方がいいな。空いた壺も持ち帰るんだろう?」
「はい。店で中身を移してもらいます」
「それなら、往復のたびに戻せる。人と車で、一日銅五十枚だ」
俺は代金を確かめ、運ぶ順を相談した。二箱ずつなら載せ方を見ながら動かせる。蜜蝋は蜂蜜を終えてから運ぶことにして、最初の荷を縄で留めた。
男が車の柄へ手を掛けたところで、帰り道に壺を割った話もした。彼は箱を振り返り、
「店で空になったら、中も見せてくれ。蜜が入ったまま、あちこち動かすわけにもいかん」
「お願いします。割れた箱も、残してあります」
納屋へ鍵を掛け、俺は車の横を歩き始めた。
*
蜂蜜の店では、前に話をした店主が、台の上を空けてくれた。
「ルーネから戻ったか。量は揃ったのか?」
「買い付けた分は揃ったんですが、帰りに壺を一つ割りました。こちらへお持ちする分は、百三十五キロです」
割れたものは取り除き、残った壺を点検したことも伝える。店主は頷いて箱を見たあと、俺が開けた蓋へ顔を寄せた。
甘い匂いが、台の上へ広がった。
店主は匙ですくい、流れ方と色を見た。もう一軒で買った壺も同じように確かめ、買った家ごとの量を尋ねる。俺は控えを示し、品を混ぜずに運んだことを話した。
「この二つは、前に話した値でいい。残りも全部見せてくれ」
「五百グラムで、銅二十五枚ですね」
「ああ。今ある分と合わせて、その量なら引き取れる」
返事を聞いて、俺は控えの端へ印を付けた。店まで運んできた箱が、ようやく売る荷として台へ上がる。
店の男が大きな容器を出し、壺の中身を移し始めた。底に残った蜜もへらで寄せ、重さを確かめていく。流れるのを待つ間に、俺は蓋と空になった壺を揃え、荷運びの男と次の箱を取りに戻った。
行きの車には重い二箱が載り、帰りには軽くなった箱が載る。次に家へ着いたときには、納屋の戸口に近い方から荷が減っていた。
最後の三個入りまで運び終え、検品と計量が済むと、店主が帳面をこちらへ向けた。
「百三十五キロ。銀六十七枚と、銅五十枚だ」
俺も数と金額を合わせてから、並べられた硬貨を受け取った。空壺は二十七個。蜂蜜を買ったときの控えに、売れた日と量を書き加える。
「次も、出かける前に話を聞きに来ます」
「そうしてくれ。今日と同じだけ欲しいとは限らんし、品が変われば値も変わる」
「はい。今回買った家の品についても、控えを持ってきます」
店を出ると、男が車を押しながら、俺の鞄へ目をやった。
「そっちは重くなったな」
「箱よりは、ずっと運びやすいです」
「その箱を運ぶのが、こっちの仕事だよ」
俺が笑うと、男も口元を緩めた。次の店までの道を確かめ、また家へ向かう。
*
二軒目には、七箱、二十八壺を届けた。
こちらも買った家ごとに品を見てもらい、残った在庫と引き取る量を確認する。最初の箱を見ただけで全部を渡したことにはせず、運ぶたびに蓋を開け、漏れや混じり物がないか確かめてもらった。
店主は最後の壺の印を控えに写し、秤から目を上げた。
「百四十キロ、銀七十枚だ。よく分けて持ってきてくれたな」
「村でも、こちらで聞いた品を探せたので。帰りに一つ失ったのは、まだ悔しいですが」
「壺物は、売る前に割れると困るからな。次も買うなら、運び方も見ておけ」
店主の言葉を聞き、俺は頷いた。買い取りの条件を揃えても、着くまでに壊せば、その分の話はできなくなる。
二軒の蜂蜜を合わせて、銀百三十七枚と銅五十枚。五十五個の壺は、すべて空になった。
家へ戻ると、今度は蜜蝋の袋を車へ載せた。蜂蜜の匂いが付いた箱とは分け、十袋を店へ持っていく。店主は袋を順に開けて、色や混じり物を見た。俺が安い方の品を買わず、見せてもらった状態に近いものを選んだと話すと、取り出した蜜蝋を台へ置いて、
「これなら、余分な手間を掛けずに使える。百グラムで銅七枚、前の話どおりでいい」
「二十キロあります。量も、見ていただけますか」
計量を終え、銀十四枚を受け取った。袋も戻してもらい、控えへ記すと、ルーネから買ってきた商品の売却が揃った。
蜂蜜と蜜蝋で、銀百五十一枚と銅五十枚だった。
店を出て、鞄の口を留める。出発するときには買い付けに使うための金を入れ、村ではその金を品に変えた。今は、運んだ品の代金が戻っている。
もう一度、あの道を往復できる。そう思うと、納屋に残っている布や針まで、次に積むものとして頭へ浮かんだ。
*
午後、空箱を庭へ戻したところで、男に割れた壺が入っていた箱を見てもらった。
俺は道で車輪が石を踏んだこと、二段に積んでいた下の箱だったことを話した。男は蓋を外し、壺を置いていた底の布を指で押してみる。
「ここは、四つとも底へ重さがかかるな。布を敷いていても、薄くつぶれたら、下からの突き上げが来る」
「縄は、緩んでいなかったんです」
「箱が動かなくても、中まで同じように止まるとは限らん。かといって、きつく詰めさえすればいいわけでもないが」
男は空壺を一つ箱へ戻し、指で胴の横を押さえた。俺が積んだときには気づかなかった、わずかな動きが見える。
「隣と当たらんように、間も見た方がいい。底の敷物と仕切りは、壺を売ったところにも相談してみな。箱だけ丈夫にしても、重くなりすぎたら運ぶのが大変だ」
俺は箱の底と隙間を紙へ描き、今日見てもらったところを残した。これだけで次は割れないと言えるものではない。それでも、壺の胴を見て傷がないと確かめるだけでは、分からなかったところだった。
男へ代金を払い、礼を言った。車が庭を出ていくと、十四の空箱が残る。壺は五十五個。蜂蜜の付いた内側は、明日、洗って乾かすことにした。
夕方までに、魔石と牙も売りに出た。
前に持ち込んだ魔導具の店では魔石を銅七枚と鉄二十枚で、素材店では牙二本を銅七枚で買ってもらえた。仕入れは合わせて銅十一枚。二つの代金と差額を、蜂蜜とは別の欄へ記した。
大きな箱を何度も運んだあとでは、包みが二つなくなるのは、あっけないほどだった。それでも、三人が道で回収してくれた品も、これで次に使う人へ渡った。
*
商業ギルドへ寄ると、ヒルデは俺の顔を見るより先に、膨らんだ鞄へ目を向けた。
「売れた?」
「ああ。蜂蜜も蜜蝋も、残った分は全部。素材も売れたよ」
彼女は笑って相談机を空けてくれた。俺は売却の控えと五日分の記録を広げ、町で運んだ代金も足す。
ヒルデは二軒の蜂蜜の量を合わせ、蜜蝋の欄まで見てから、顔を上げた。
「銀百五十一枚と銅五十枚。先に聞いた条件で引き取ってもらえたのね」
「うん。商品を買った代金が銀九十二枚だから、そこを引くと、銀五十九枚と銅五十枚が残る」
その先へ、馬と護衛、宿、食事、飼料、荷運びに払った分を並べた。村での行商は売上と売れた品の仕入額を合わせ、納屋に戻した品は在庫へ残す。
ヒルデは破損の控えを指し、俺へ目を向けた。
「割れた蜂蜜の仕入れ分も、今引いた銀九十二枚に入っているわね」
「ああ。だから、銅百五十枚をもう一度引かない。壺を一つ失った銅十二枚は、別に残した」
使える五十五個と、もう使えない一個を分けて記した。壺や箱を買った支払いも帳面にある。手元へ戻った代金だけを見て、全部が増えた金だと思わないよう、残った道具も数え直す。
必要な支払いを控えから拾っていくと、今回の行商にも利益が残った。売れた額を見たときほど大きな数字ではないが、一つ失っても、五日かけた商売を終えられた。
「ちゃんと残ったな」
「ええ。帰ってきて売るところまで、揃ったわね」
ヒルデの言葉を聞くと、俺は帳面から顔を上げた。昨日、納屋で荷を見たときより、肩の力が抜けている。
年の精算に備える分も分けておくことにし、俺は余白へ印を付けた。それから荷運びの男に見てもらった箱の絵を出し、底と隙間の話を伝える。
ヒルデは絵を見て、次の荷造りで確かめるところを一緒に書き足してくれた。針と糸についても、村で聞いた用途に合う品を扱う店が見つかったという。
「袋を縫う糸と、今持っている小さな巻きの糸を、見比べられるわ。太い針もあるそうよ」
「それは見たい。二つの村で聞いたから、少しずつでも持っていけるか考えたいな」
「量を決める前に、残っている品も合わせて見ましょう」
俺は頷き、店の場所を控えた。
帰り道、空になった壺を洗う順番と、明日寄る店を考えた。箱を直す相談も、次の荷を買う相談も、今日の控えを持って行ける。
家の庭へ入ると、馬のいない荷馬車が夕日に照らされていた。納屋には空壺が並び、部屋へ持ち帰る鞄には、売った品の代金が入っている。
まずは壺をきれいにして、使える箱を揃えよう。
俺は納屋の扉を開け、明日の朝に運び出すものを、手前へ寄せ始めた。




