第2章 第25話「五日分の支度」
第2章 第25話「五日分の支度」
冒険者ギルドへ行くと、ロイたちは奥の卓で装備の手入れをしていた。
ニーナが先にこちらを見つけ、手にしていた布を置く。
「茸、売れた?」
「ああ。薬草も、全部引き取ってもらえたよ。運ぶのを手伝ってもらった分まで、ちゃんと店へ渡せた」
そう話すと、ロイが顔を上げ、メアリも笑った。俺は卓へ寄り、村で払った値段と、店で引き取ってもらった値段を話す。
「今度は、帰りの荷でもちゃんと残ったんだね」
「ああ。三人に払った分や、馬と宿の費用を入れても、前より残せた」
ニーナは頷き、俺の持っている紙へ目を向けた。
「じゃあ、もう次の相談かな」
「ルーネを考えてる。今度は、蜂蜜と蜜蝋を買いたい」
空いた場所へ資料を広げた。ロイが装備を脇へ寄せ、メアリは道順が見えるように身を乗り出す。
俺は片道一日半の道と、昨日ヒルデから聞いた宿の場所を示した。それから、考えてきた日程を指でたどる。
「一日目は途中で泊まって、二日目に村へ着く。着いた午後にも、できるところから品を見たい。三日目は村で売って買って、四日目に帰り始める。帰りも途中で一泊して、五日目に戻るつもりだ」
「村には二晩で、途中に一晩ずつですね」
メアリが紙へ書き足し、ロイは帰りの道を見た。
「四日目に荷を積んで、明るいうちに次の宿まで行くんだな」
「ああ。買う話と荷造りを、出る日の朝に全部残したくないんだ」
ハッセの帰りも、朝に袋を数え、積み直す時間が要った。今度は壺がある。村で売買する時間を削って、夕方の道で取り戻すつもりにはなれなかった。
三人は日程を見比べ、予定を確かめてくれた。明後日の朝からなら空けられると聞き、俺もその日を出発の候補にする。
四人で受付へ移り、経路と新しい魔物の報告を確認した。ルーネへ向かう荷車道を使い、森へ採取に入る予定はない。泊まる場所も示して、道中の様子を聞く。
相談を終えたロイは、二人と話してから俺へ向き直り、
「この道と日程なら、引き受けられる。宿の場所まで間に合わないと思ったら、早めに相談してくれ」
「分かった。手配を揃えてから、明日正式に頼むよ」
*
卓へ戻ると、ニーナが報酬の紙を引き寄せた。
食事は前と同じく俺が用意し、途中と村の宿泊費も俺が持つ。基本の護衛料だけで、五日間なら三人合わせて銀七枚と銅五十枚になった。
金額を記し、宿と馬に払う分も、その横へ書く。
「ハッセより、出発前に残しておく金が増えるな」
「村で何も売れなくても、五日目まで食べて帰れる分は要るよ」
「それは、別にして持っていく。蜂蜜を買ったせいで、帰りの宿代がなくならないようにするよ」
ニーナは頷き、食事の予定も聞いた。
出発日に道で食べるものと予備を持ち、宿では食事を頼む。翌日以降に持ち歩く分は、泊まった先で用意できるか確かめることにした。五日分を全部庭から積んで出るより、買い足せるところが分かっていれば支度もしやすい。
メアリは水を足す場所を書き、ロイは馬を休ませるところを見ていた。俺も帰りの荷の話をする。
「蜂蜜は壺へ入れる。茸の箱より重くなるから、買う上限を決めて行きたい」
「壺は、もうあるの?」
「今日見に行く。町の店では、中身を移したら壺を返してもらえると聞いた」
ニーナは紙へ目を落とし、
「食べ物の壺と、商品の壺は分かるようにしてね」
「商品の方は、途中の昼飯にしないように?」
「うん。空になった壺を見て、三人で同じ顔をすることになりそうだから」
俺が笑うと、メアリも口元を押さえた。蜂蜜の味見をしてきたことは、今は黙っておこう。
*
商業ギルドでは、ヒルデへ五日間の計画を伝えた。
彼女は前日に渡した宿の資料を出し、四人の寝床、馬を置く場所、飼料と食事について分かる条件を教えてくれる。空室の保証まではできないので、候補の宿で泊まれなかったときに相談できる先も控えた。
途中の宿と村の宿を日程の紙へ書き入れ、三人へ見せる分をまとめる。
買い付けに回す金は、旅費と分けておいた。今回は銀百枚ほどを商品と蜂蜜の容器に回すつもりで、蜂蜜を買い取る二軒と蜜蝋の店で聞いた量を、案内の買い値と照らし合わせる。護衛や馬、宿に使う金を、村での買い付けへ流すつもりはなかった。
蜂蜜は二軒へ百四十キロずつ持ち込むことを考え、合わせて二百八十キロ。蜜蝋は二十キロまでを買い付けの枠にした。通常品を案内の値段で買えれば、蜂蜜に銀八十四枚、蜜蝋に銀八枚。商品代は合わせて銀九十二枚になる。
蜂蜜を五キロずつ入れるなら、壺は五十六個要る。容器を買う金と、箱や布で荷造りする費用も必要だった。村へ行って同じ量が残っているとは限らないし、品質が違えば値段も違う。運べる重さだけで決めず、買える品と売り先の条件が揃うところまでを選ぶ。
「先に、馬屋にもこの量を見てもらうよ。無理があるなら減らす」
「ええ。帰りに残りの商品も積むから、その分を忘れずにね」
ヒルデは俺の費用の欄を見てから、日程へ目を戻した。
「出発するのは、明後日ね」
「ああ。馬と容器が揃えば、その朝に出たい」
「分かった。戻る予定は五日目として、記録しておくわ」
俺も紙へ帰還予定を書いた。港では一日の話だったものが、今は五日分の線になっている。
*
壺を売る店へ入ると、壁際の棚に、大小の容器が並んでいた。
蜂蜜を運ぶために使いたいと話すと、店の男は蓋の付いたものを出してくれた。俺は町の蜂蜜店で見た壺を思い出し、中を覗いて、口と胴を順に見た。
「これなら、蜂蜜を五キロほど入れられる。口いっぱいまで詰めるつもりなら、もう少し入るがな」
「運ぶので、余裕を残したいです。空の重さも見せてもらえますか」
蓋を含めた空の重さは、一つおよそ一キロ半だった。胴の一番広いところは二十センチほど、高さは蓋を付けても二十五センチ以内に収まる。俺は大きさと重さを控え、蓋の収まりと、ひびや欠けがないかも見た。蓋を含めて一つ銅十二枚。五十六個なら、銀六枚と銅七十二枚になる。
一つを台へ置くと、それだけでも、袋とは違う音がした。
俺は家の荷台で測ってきた広さと照らし合わせ、同じ大きさのものを五十六個選んだ。どれも蓋を合わせて見てから買い、家へ届けてもらう費用は別に記す。商品と壺の代金を合わせると、銀九十八枚と銅七十二枚。箱や布、配送に掛かる分は、別に用意した荷造りの費用へ入れた。
全部に蜂蜜を入れたら、これが二百八十キロ分の容器になる。空壺だけでも、合わせておよそ八十四キロある。店で手にした一つの壺が、急に重く感じられた。
帰宅して届いた品を受け取り、四個ずつ収める木箱を十四箱揃えた。手元の箱を使い、足りない分は買い足して大きさを合わせる。一箱は外側で縦横およそ四十五センチ、高さ三十センチ、空の重さは三キロほど。底へ古い布を敷き、壺同士が直接当たらないよう、間にも布を入れる。蓋と胴には揃いの印を付け、どの箱へ入れたか控えた。
荷台へは、幅九十センチ、長さ百八十センチほどの範囲に下段八箱を並べ、その上へ六箱を置けた。箱の縁と蓋で上の重さを支え、壺そのものを押さないことを見ておく。残りの商品と旅の荷物を置く場所も残った。雨よけを掛ける高さも、二段にした箱の上まで届く。
蜜蝋には、ハッセで使って戻ってきた袋を分けておく。乾いた草のかけらを払い、食品を入れる壺とは別の箱へ収めるつもりにした。
荷台の場所を測り、空箱を動かしていると、日が庭の端まで傾いていた。
*
翌朝、貸し馬屋の男に来てもらった。
往路の商品と旅の荷物、帰りに積む壺の箱を見せる。蜂蜜と蜜蝋を買う量も伝え、売れ残った商品まで載せて帰る場合の重さを一緒に見積もった。
帰りの商品は三百キロ。空壺はおよそ八十四キロ、十四箱でおよそ四十二キロ。敷く布や縄などを八キロ以内、水と食料、道具、売れ残りの生活物資を合わせて四十キロ以内と見て、積荷は合計で四百七十四キロほどになる。商品だけを数えた三百キロとは分けて紙へ残した。
平坦な道なら、一頭立てで五百キロ程度を運ぶ目安を聞いている。男にも、おおむね平坦なルーネへの経路を見せ、この荷車と馬で使える道か、実際に並べた箱の配置と合わせて見てもらった。
男は荷車を回り、箱を低く載せる場所を示してから、
「この範囲で積むなら、使える馬を選べる。壺の数だけ見て、入るだけ買い足すなよ」
「はい。今日お伝えした量を上限にします」
「村で量が変わったら、箱へ積む前に数え直してくれ。空の壺と、蜜が入った壺では違うからな」
俺は頷き、五日間借りる条件と返すときの扱いを確かめた。馬は出発の明け方に連れてきてもらうことになった。
そのあと、残っている布と針と糸へ必要な分を買い足した。帰り荷の箱が往路から場所を取るので、持っていく商品をやみくもに増やさず、村の情報を見て選ぶ。
蜂蜜を買い取る二軒と蜜蝋の店にも、買い付けに行く日と、考えている量を伝えた。蜂蜜は各百四十キロ、蜜蝋は二十キロ。品を見て引き取る条件は前と同じだと確かめ、戻ってから持ち込む日の目安も知らせる。
午後、冒険者ギルドで三人に宿と馬の話を伝え、五日間の護衛を正式に頼んだ。報酬はギルドを通して支払い、集合は、これまでと同じく俺の家の庭にする。
「明日の朝ですね。治療の道具も、持っていきます」
メアリが鞄を押さえ、ロイは日程の紙をしまった。
「道で食べる分は、庭で分ければいいか?」
「ああ。朝飯も、そこで一緒に食べよう」
ニーナは頷き、空いた卓を見てから立ち上がった。前はここで、初めて互いのできることを聞いた。今は、明朝に会う場所を確かめれば、三人の動きも思い浮かべられる。
*
夕方、荷造りを終えたころ、母が庭へ出てきた。
俺が雨よけを掛けているところへ来て、出発する日と戻る日をもう一度尋ねる。
「今度は五日目に戻る予定だよ。途中でも、村でも宿へ泊まる」
「分かった。遅くなったからって、暗い道を急がないでね」
「うん。三人とも、そのつもりで話してある」
母は頷き、納屋の前に置いた空箱へ目を向けた。そこに残っているのは、今回持っていかないものだった。
俺は箱をしまい、鍵を掛けてから荷車を一回りした。縄、箱、取り出す道具。食料と水は朝に載せる分も分け、剣と帳面は部屋へ持っていく。
雨よけの端を少しめくると、壺を入れた箱の蓋が見えた。まだ何も入っていない容器なのに、蜂蜜の店で味見した甘さを思い出す。
あの壺を、どんな蜂蜜で満たして帰れるだろう。
俺は布を戻し、最後の縄を結んだ。明朝、馬と三人が揃ったら、初めてのルーネへ向かう。




